第4話「魔物討伐ですわ!」
「魔物を倒しに行きますわよ!」
「居たぞ」
数十分後──。タミテミの町と隣接している北東森へ赴いていた私とジェックさんは、程なくして件の魔物を見つけました。
「ゴルルルル……!!」
岩のような四足獣の魔物は唸り声を上げ、著しく発達した下犬歯は日差しに照らされてギラリ──! と反射していた。口角から涎が垂れているのはきっと空腹なのでしょう。
「あいつで間違いない。あの魔物はここいら一帯には生息んでいない種類だし、何より悪どい魔力をプンプン感じる」
そう言いますのでよくよく目を凝らすと……なるほど、確かに魔物の魔力とは別のねちこっい魔力が全身から立ち上っておりました。
「本当に便利ですわね、貴方の魔力探知。意識すれば目視できても気配では感じ取れない私と違い、貴方は「あっちから魔力を感じる」と先導して見事に見つけ出すんですもの。さながら嗅覚で目標まで人々を導く憲兵犬ですわ」
「それ褒めてるの?」
「褒めてるに決まっているでしょう。犬は万物の頂点なのですから」
「ほな称賛かぁ……?」
ジェックさんは釈然としない様子ながらも納得すると、身を潜めていた茂みから立ち上がり、前に出た。
「町長の魔法解除は期待できねぇし、あの魔力状態だと時間経過か討伐するまで洗脳は解けん。何より申し訳ねぇが、シーラの言う通り、こいつの遺体が無きゃ、町民はまた現れるかもと不安になっちまう」
ジェックさんは「恨んでくれよ」と溜め息を吐くと、足元の石を拾い上げ、魔物に投げつけた。
「ゴルッ?!」
コツン……と石をぶつけられた魔物が振り返り、ジェックさんと目が合う。
「ゴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッ!!!!!!」
次の瞬間──、魔物は森中に咆哮を轟かせて、ジェックさんへ突撃しました!
それをジェックさんは剣を構えることもなく、トーントーン……と、その場で軽やかに跳躍します。
「四足型魔獣ツキートス。主な攻撃手段は巨体から繰り出される突進で、勢いがあるそれに当たれば骨折以上確定。しかしながら、直進以外の行動は滅多に取らずブレーキも行わないなどと動きは至極単純。故に背後を確認して回避に徹すれば……フッ!」
「ゴオッ!?」
魔物は巨木に頭を強くぶつけ、大きく怯みましたわ。
「──障害物に激突させて、大きな攻撃機会を生み出せる!」
その隙をジェックさんは見逃さず、すかさず剣を振り下ろし、首元へ縦一閃の斬撃ッ!!
──が、魔物の皮膚には小さな切り傷が付いただけで、少し出血した程度。さしずめかすり傷で「痛ッ……ちくしょーバカヤロー……」留まりですわ。
ジェックさんは一旦距離を取り、体勢を立て直します。
「──故に、後隙を補助すべく、一撃で仕留めきれない岩のような皮膚に至るまで遺伝子レベルの進化を成し遂げた」
それでは何度も回避反撃を繰り返すことなり埒が明きません。彼なら忍耐強く続けてくれるでしょうが、木々と手頃な岩は有限でしてよ。
「ジェックさ〜ん! 魔法で何とかなりませんの〜?! 貴方の超魔力なら一撃必殺も十二分に狙えますわ〜!」
「ここらの森一帯吹き飛ばして良いならやるぞー」
「やっぱ控えてくださいまし〜〜ッッ!!」
言葉通りなら尚更魔法には頼れません。一瞬でも「私の魔法、使わなくて良くね?」なんて考えた私が甘ちゃんでしたわ。
なれば、町中で彼に宣言した通り、有言実行あるのみですことよ!
「ジェックさ〜ん! 同じ箇所を斬り続けるとして、首チョンパまであと何回か目処はたってまして〜!?」
「9……いや6回くれ!!」
「ならば5回目で「チェストォッ!」と叫びながら『超全力振り下ろし』を両手で試みてくださいまし! それと私に意識が向かないよう全力で煽っておいてくださいまし〜〜ッッ!!」
「注文多いぞてめぇコノヤロー!!」
ジェックさんは文句を垂れながらも「オ・レイッ!」とわざとらしく躱しながら再度斬撃を、更には「ツ〜キちゃんコチラッ! 手〜の鳴〜る方へッ!!」と仰々しく挑発します。これには魔物も「ゴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッ!!!!!!」と「ア゛」が戦闘開始からふたつ増しのブチ切れでしてよ。
そんな魔物とジェックさんの激しい攻防を私は瞬きを惜しんで目に焼き付ける。ベストタイミングを把握するためにも監察は欠かせませんことよ!
「シャアッ!!」
2回目の攻撃……まだ動きに目が追いつきませんわ。
「デヤァッ!!」
3回目の攻撃……ちょっと追いついてきましたわ。
「ハァイッ!!」
4回目の攻撃……あ! ジェックさん、振り下ろす際は必ず左足を前に出してますわ!
そして──、運命の5回目!!
「チェストォッ!!」
ジェックさんの掛け声に合わせて、私は茂みを飛び出し超ダッシュ! 度重なる挑発に魔物は私には目もくれていませんわ!
「今です!」
そして、剣が大きく振り下ろされんとしたその瞬間、全力で伸ばした指先がジェックさんの握る柄に触れるなり──、
「巨大化!」
と、私が魔力を注げば剣はたちまち超巨大剣に!!
「え──?」
そのまま超巨大剣は間抜けな声を出すジェックさんを置き去りに、魔物の首を重量任せに一刀両断しましたとさ。
地面を叩きつける轟音が森を揺らし、鳥たちが「トリ〜〜ッ!」と飛び立つ中、横たわる魔物の遺体を横目に、尻もちをついていた私は立ち上がってジェックさんにハイタッチを求めます。
「討伐成功しましたわ〜〜ッッ! ぎゃあデコピンッ!?」
「お、オマエェッッ!! おまえぇぇぇぇえッッッッ!!?? いきなり指出したら危ないでしょうがあア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッ!!!!!!」
「そこは申し訳ありませんわ! ですからデコピン跡連打しないでくださいまし! ですが、変に意識させると攻撃に集中できないでしょうし、魔物がよりこちらを警戒してきかねませんでしたことよ!」
「その気遣いは感謝するがせめて事前に言ってくれよそうすりゃ俺が合わせたんだからさァ!! おまえが指チョンしてきたときマジで呼吸止まりかけたぞ剣がデッカくなっちゃってそれに気ィ取られたけども!! というか武器デカくするなら先に言えやア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッ!!!!!!」
「私が一瞬触れた程度では微かな時間しか『大小伸縮魔法』が作用しないので、故に直前になってから触るしかなかったんでして痛い痛い痛いマジですいませんでした!!」
「よし反省したな二度とすんなよ! 今後報連相欠かして危険行為したらバッグドロップだからな!! はぁ…………ということで、ほい」
「はい? あ──」
額の痛みを堪えながら顔を上げると、彼は片手を挙げて待っておりました。
「! お疲れさまでした!!」
こうして、私たちはハイタッチを交わして、魔物討伐を完了させたのでしたとさ。
「それはそうと、ブツクサ解説しないでくださいまし。舌噛みますわよ」
「あれ? 声に出てた?」
「独り言でしたの?!」
報連相はしっかりと。
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