第39話「小休憩ですわ!」
前回のあらすじ!
出オチ三兄弟♪(だ●ご三兄弟の音程)
【現在の偽名】
姫……フィーリ
ジェック……ジャック
リツ……リラ
その後、上位6チーム全ての発表を聞いた私たちは、「トーナメント表を作りますので30分休憩です! 用足しと軽食を忘れるな!」と通された選手控え室で小休憩と洒落込んでいた。
「フィーリさま、お茶が入りました」
「ありがとうございますリラさん。……はぁ、落ち着きます。何か効能ありますコレ?」
「リラックス効果が期待される茶葉でございます。本戦に備えて一息つくのもよろしいかと」
「お気遣いありがとうございます。ジャックさんも一杯いただきなさいな」
「そうするよ。リラ、俺にも一杯頼む」
「かしこまりました」
ジェックさんにも紅茶を促し、リツさんにまた一杯注がせる。魔王軍とコルタス港町で邂逅した以上、今後はおいそれと市町村を出入りできないから、ここで優勝賞金即ち多額の路銀を一気に得るしかない。そのためにも今は精神統一に集中すべきですわ。
まぁ、精神統一を意識し過ぎては元のことありませんが。カップをまた傾けていると、「ふぃ〜……!」と手を拭きながら控え室に入ってきたグロウさんと目が合う。
「あ、フィーリさんたち、紅茶飲んでるんですか?」
「ええ、落ち着きますわよ。グロウさんもいかがですか?」
「ではお言葉に甘えるとします」
グロウさんは受け取った紅茶でクピクピ……と喉を鳴らし、「あ、美味しい」と柔らかな笑みを浮かべる。あら可愛い。
すると、リツさんの雰囲気が少し華やかになった。人前で悶えさす気かこの可愛は愛でますわよ?
「そう言えば……フィーリさんたちは何故旅をしているんですか? 思えば出会ったときはゴブリンで世間話どころじゃありませんでしたし、なんか名前も変えてるし……?」
「言われてみればそうですわね」
私は今一度紅茶を置いて、グロウさんに向き直った。
「私たちは逃避行をしているのです。実を言うと私の出自は魔王城下町の名家なのですが政略結婚相手が社会を揺るがす露悪的趣味を持っていたものですからそれを偶然知った父親が元魔王軍兵のジャックさんと世話役のリラさんを護衛に付けて逃がしてくださいましたの。なので定期的に偽名を変えながら城下町から離れていたのですが最近政略結婚相手が手中の魔王軍を使って追いつきつつあるので少しでも旅路を効率良く進めるべく今大会の優勝賞金で一気に路銀を稼いでしまおうという算段ですの。ということで私たちは逃避行をしているのです」
「あ、おう……うん……? と、とりあえず、逃避行中なのは理解りました」
グロウさんは釈然としないながらも納得する。彼女には悪いが、超絶長い事情説明に同じ文言を最初と最後でサンドイッチすることで、同じ文言しか頭に入ってこないよう仕向けさせてもらった。息継ぎも最小限に話した甲斐あって、周囲の選手も途中で聞き耳立てるのを止めた模様ですわ。
「おうおう。見たことあるやり取りしてるじゃあねぇか」
するとそこへ、またグレストさんがひょっこりやって来る。また貴方ですか。
「最早いつもの面子と化してますわねグレストさん。もういっそ一行入りします?」
「アンタらは好きだが悪ぃな。俺は行き先を決められたくねんだ」
「初めて会ったプルタ避暑地でも単独だったもんな。一緒に乗ってきた船降りるなり「あばよ」と馬車ってたし」
「そういうこった」
「え! グレストさん、師匠たちと一緒に海渡ってきたんですか?! こっちは地道に陸路進みながら鍛錬してたのに羨ましいです!」
「だからこそ本戦トーナメントに進めたんじゃあねぇか。というかジック……じゃなくてジャックを師匠呼びしているのは何なんだ?」
「師匠は現在の戦闘スタイルに起因するキッカケを与えてくれた恩人なんです! なので恩人と手合わせしてみたい意味合いと感謝と敬意を込めて師匠と呼ばせてもらってます!!」
「ちな、師匠呼びは一方的だったりする。愉快だろ?」
「慕ってくれて可愛いやつじゃあねぇか。弟子さん大事にしろよ?」
「手合わせしたいと言われた以上はするぜ? ただ、万全な手合わせが叶うかはトーナメント次第だな」
「うぐァ運要素……!!」
ジェックさんが上げた懸念点に、グロウさんは頭を抱えた。
トーナメントに参加するのは5チームとエイティさん含んだ計16人。一回戦は8回行われる計算で、脳内トーナメント表通りなら『1〜8番』『9〜16番』でちょうど真二つになるわけだが、ジェックさんが『1』でグロウさんが『9』なら互いに決勝まで進めねばならなくなるし、そうなればどちらかが3連覇者エイティさんを倒さねばならなくなるから、どうにか突破したとて満身創痍は明白、万全な手合わせは出来なくなってしまう。
「ま、こればかりは割り切るしかねぇな。それはそうと、グロウはどうして冒険者やってんだ?」
「はい? 食い扶持に困って実家を出たというか、まぁ、ほぼ成り行きみたいなものですけど……急にどうしました?」
「ジャックさんは孤児でして、幼少期から働き詰めで他を気にする暇がなかったのですわ。だから護衛以外で気にすることが減った今になって、人や物事に深い興味を示すようになりましたの。多分」
「オマエが喋るんかい。奇跡的に大体合ってるけども。グレストはどうだ?」
「俺か? 楽しいから」
「楽しい?」
「おう。知らねぇ場所、知らねぇ生物、知らねぇ魔法……それらを実際に見て知ってみたくて夜中に家を飛び出した。軟禁してまで猛反対してた親父たちは今もブチ切れてるだろうぜ」
グレストさんは呑気な表情で「アッハッハ」と笑う。けれど、その目はどこまでも澄んでいた。
そんな彼らのやり取りに反応してか、「なんだなんだ」とエイティさんやマール&サカク兄弟を始め、他参加者がゾロゾロと集まってきて身の上話を始める。
「俺は2つ披露するぜ!! 俺は今回4連覇がかかっているが、初めての大会だった『第20回』はトーナメント一回戦で完膚なきまでに叩きのめされた!!」
「あ、そうなの!?」
「だから今に見ておれ! と鍛え直してやったぜ!! 2つ目は魔法発現当初の『やらかし』で、ガキの頃に野良猫の尻尾踏んじまって悲鳴上げながら追いかけ回されてたら、知らねぇうちに発現してた『音魔法』でうっかり憲兵ぶっ飛ばしちまって「今後やらかさないように」と爺さん共々魔法講座に呼び出された!!!!」
「怪我の功名じゃあないですか。子ども時代ながらに意識改革なったでしょう?」
「おっかねぇ爺さんだったから全力で学んだな! ま、5龍年前の24歳ん時に、蜘蛛に服の中入られた驚きでダンジョン一つぶっ壊しちまったけどな!! ガッハッハッ!!!!」
「もう一度講座受けてこい!! って待ってギリ20代なの?!」
「散々言われたこと言うなバカヤロー!!!!」
エイティさんが吠えたところで、今度は出オチ三兄弟が語り出す。
「よぉジャックとやら。良ければ俺らの動機も聞くか?」
「あれは末弟のシカックが野生のウサギからドロップキックを受けてだな……──」
「勝手に始めんなや喋りたがりか。気になって仕方ないワード出てきたから聞くけども」
「そうこなくちゃ。そしたらシカックは──」
こうして、突如として始まった参加者たちの談笑は、トーナメント表完成アナウンスが鳴り響くまで和やかに続いた。
レ●リ●「俺はまだ10代だ!!」
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