第38話「ゴーレムですわ!」
前回のあらすじ!
爆音おじさん、選手宣誓。
【現在の偽名】
姫……フィーリ
ジェック……ジャック
リツ……リラ
「さぁ、始まりました第24回・リプフォード大武闘会予選! 司会は私シーカー・マウスがお送りいたします!」
わっ──! と何処かで聞いたことある名前の男性司会者に観衆席が湧く。防御結界で守られてるから気兼ねなくはしゃげるのが大きいのでしょう。
「観衆席の皆さまに改めてルールをご説明! 最寄りの3人でチーム分けされた戦士たちが現在戦っているのは大会運営が特注でご用意いたしました人口防衛魔物ゴーレム! 際限なく地面から現れるゴーレムを最も倒した上位6チームが本戦トーナメントに進出する運びとなっております! 倒す手段は問いませんし漁夫の利もオーケー!」
となると、ゴーレムの見極め・漁夫るか否かの判断も重要だ。アドリブで組まされた参加者たちとの連携も相まって、随分と頭の回転を求められる。まぁ、なんでも都合良くいかないからこその冒険者なのでしょうし、私たちに至っては関係ありませんが。
「──ただし、他チームへの妨害はうっかりであろうと即失格になります! 職歴にも傷が付くから気を付けてください!!」
これが一番の不安要素だ。広範囲攻撃魔法使いはそれだけで魔法頼りでないか実力を試される羽目になるし、例えばゴーレムが他チームを巻き込む形で倒れてしまってもアウトなのだろう。軍兵間でも同士討ちしないように徹底した訓練が施されていると聞いていますし、私の『愉快な兵士たち』と城下町で遊んでいた頃も同士討ちが発生せぬよう念入りに言い聞かせた上で陣形を組ませていたものですわ。
「──ま、本物なら妨害せずとも上位でしょう! 例えばあんな風に!!」
「らっしゃいッ!!」
遥か後方でボガンッ──! と大きな爆発音が響き、頭部の欠けたゴーレムが地面に倒れ込んで土塊と化す。
音の爆心地に居たのは、グレストさんだった。
「ゴーレム討伐第一号は『翠チーム』のグレスト選手! 爆発魔法で『爆撃』の異名を持つ彼は17歳の若さで既に18の洞窟・ダンジョンを単独攻略し、同時に崩落未遂で9箇所が出禁となっております! 魔物の巣窟を破壊しかける程の爆発魔法の使い手は果たして大闘技場を爆破せずに有終の美を飾れるのか乞うご期待です!」
「出禁は余計だバカヤロー!」
グレストさんは噴出孔を囲うように開けた鉄製棍棒を振り回しながら野次を飛ばす。攻略先の半数から出禁を言い渡されているとは、改めてとんだ問題児ですわ。
「マールさん、ゴーレムがバックジャンプしますので足止めを! サカクさんは追撃してください!」
「ほいっと了解! サカク!」
「チェストォ!」
「ゴーレェェ……」
「よし先ず一体! ありがとよグロウちゃん! そのまま避けつつ先読みしててくれ!!」
「はいッ!!」
「ああっとぉ! あちらの『蒼チーム』はグロウ選手を司令塔にゴーレムを倒しているゥ! 会話的に『予知魔法』の使い手と思われる彼女として本戦進出を見込めるかァ?!」
おお……グロウさんは思考を透視れるようになりましたか。ジェックさんの「相手の思考透視たりとかできそうだけどなぁ」という呟きを「その解釈最高」と採用してましたが、まさか本当に習得していたとは。
出会った当初は「透視れるだけ」と己の魔法を自嘲していたというに。いやはや、ふとしたキッカケの成長とは恐ろしいものですわ。
「因みにマール選手とサカク選手は共に参加したシカック選手との角魔族三兄弟! 開会宣誓時の大咆哮ではぐれたシカック選手は……あ、ちょうど戦闘不能になりました」
「「シカックゥゥゥゥゥッッ!!!?」」
それはそれとしてマール選手とサカク選手はシカック選手の退場を声高に嘆く。凄くどうでもいい。
「さぁさぁ、今回初出場の戦士たちが躍進を遂げていますが、外せないのはやはりこの男! 現場のエイティ・フットさ〜ん?!」
「なんだァーーーーッッ!!!!!?」
どごしゃぁぁぁ……──!
エイティさんが叫んだ軌道上に居た3体のゴーレムが一気に崩壊する。なのに周囲の私たちの鼓膜には不思議と影響はなかった。
「妨害にならんよう『声』に指向性持たせるの気ィ遣うんだぞコノヤロー!! 話しかけんじゃねェェェェエ!!!!!!!!」
エイティさんは一喝するも、やはり私たちの鼓膜が悲鳴を上げることはなかった。3連覇者の実力は伊達じゃあなかった。
「おっと!」
私の視界の端で捉えたゴーレムの攻撃をバックステップで回避する。こちらもうかうかしていられない。
「ジャックさん!」
「いつでもどうぞ!」
「ありがとうございます!」
私の声掛けに応じるように、ジェックさんはゴーレムの手指を斬り捨てる。
ゴーレムは「どれだけ身体が崩れようとも魔力中心部たる頭部がある限り、崩れた箇所に土を付着させれば元通りに出来る」とジェックさんの口から聞かされている。故に妨害判定を恐れる一部のチームは頭部を破壊し損ねては修復される悪循環に陥って「ギャフン!」していた。
けれど、その修復方法には致命的な欠点があった。修復自体はとても速いが、ゴーレムは負傷したら必ず修復を優先する!
ここからが連携の真骨頂! ジェックさんに傷付けられた手指の修復に気を取られているその隙に、私が「そいやっさ!」と巨大化させた槍でゴーレムの足を刺して固定して──、
「脛ェ!!」と、ジェックさんがゴーレムの両脛を斬って転ばせて──、
「チェストッ」と、ちょっと遠くで身構えていたリツさんが、超爆走接近任せの飛び蹴りで頭部を蹴り砕く! コルタス港町で購入しておいた『足甲』が良き火力を放っている!
「見ましたでしょうか観衆席の皆さま! あちらの『紅チーム』はゴーレムの特性に逸早く気付き、拘束→補助→最終一撃と華麗な連携でゴーレムを倒しております! シンプルイズベストで私は好きです!」
そうでしょうとも、そうでしょうとも! もっと言いなさい!
「さぁ、御二方! この調子でゴーレムを倒していきますわよー!!」
「はいほらさっさー!」
「おーですわ」
「返事バッラバラ!!」
揃わない返事に気が抜けながら、私たちは新たなゴーレムを求めて武舞台を駆け巡る。
◇ ◇ ◇
「結果発ピョーーーーウ!!!!」
そして、20分後──。
ゴーレムが出てこなくなったかと思えば、司会者は早速「上位6チーム発表です!」と宣言した。
「観衆席から各チームの討伐数をカウントしていた審査スタッフの集計が終わりましたので、早速参りましょう! 先ず討伐数最多記録者は?!」
観衆席のドラムがダララララ……と鳴り響き、ドラムロールが終わると同時に、エイティさんに付着していた『橙色』の光が音を上げて打ち上がる。エイティさんは「おおっ?!」とちょっと驚いた。
「第一位突破は我らが『轟』エイティ・フットォ!! 複数体を一気に仕留める破壊力を持ちながら決して周囲を巻き込まない精密な『音魔法』で余裕の一位通過を果たしましたァ!!」
「しゃああああああッッッッ!!!!!!」
パーン……──!
橙色の閃光は花火となって晴天に散った。結果発表まで遊び心に拘っていて凄い好き。
「続いて第二位の発表です!」と司会者が告げると、また閃光が打ち上がる。今度は『翠』だったが、
「わっ。……あら?」
──私たちの『紅』も同時に打ち上がった。
「こちらはなんと、ふた組が同率二位! 紅チームと翠チームだァァ!! 紅チームは拘束→補助→最終一撃でさり気なく自身たちを囲うように倒すことで一部区間のゴーレムを独占、シンプルイズベストな戦法で初出場第二位に躍り出たァァァ!! 同じく同率二位の翠チームはグレスト選手の高火力魔法で漁夫の利被害を最小限に抑えて躍進ンンン!!」
観衆席からドンドン! パフパフ! とファンファーレが上がる。ジェックさん・リツさんの実力あってこその成果だが、凄い気持ちいい。
「続いて四位はグロウ選手の指揮が輝いた『蒼チーム』! 地道ながらも堅実に討伐数を重ねて本戦トーナメント進出です!!」
「はぁぁぁぁ……! おえっ……!!」
「よくやったぜグロウちゃん! 安堵で腰抜けたか?」
「本戦進出に導いてくれてありがとよ! 出番までゆっくり休みな!」
へたりこんだグロウさんに、チームメイトのマール選手とサカク選手が次々と賞賛と労いの言葉を贈る。居たら便利程度──と己を自嘲していた少女とは思えない大躍進に正直ハグしてあげたい。後でしよう。
「まだまだありますよ! 続いて第五位は──!!」
結果発表はまだ少し続く。
『〇〇・マウス』ってプルタ避暑地にも居たよね。
次→明日『18:00』
 




