第37話「轟ですわ!」
前回のあらすじ!
大都市リプフォード到着!!
「それではこれより、第24回・リプフォード大武闘会、開会式を行わせていただきます!!!!」
そして、無事に偽名で参加登録を済ませた私たちは、程なく行われた開会式に臨んでいた。
晴天に花火が打ち上がり、ファンファーレが鳴り響き、参加者と観客からどわっ──! と歓声が上がる。ビリビリと揺れるこの空気と、お祭り特有のこの熱気は何にも変え難くて、そして心地好い。
大武闘会に集まった参加者は総勢400人前後はくだらない。ビラの裏面で分かっていたことだが、実際に目にすると圧巻の一言に尽きる。
観衆席は更にそれを超えていた。リプフォードの人口は知らないが、観光客と思われる面々も合わさって、リプフォードの全体人口を遥かに上回っていると断言出来る観衆数だ。
そんな熱気に当てられたのだろう、私も私で隣のジェックさんに声をかける。
「強烈い熱気ですわね、ジャックさん。プルタ避暑地の『P・S・M・C』の比ではないですわ」
「そうだな。だが、『P・S・M・C』と大武闘会じゃあ内容も違うし、『P・S・M・C』が毎龍年開催に対して、大武闘会は3龍年に一度だ。見逃したら暫く待つ羽目になる分、悔やみたくないって足を運ぶやつが多いんだろうよ」
「確かに私も外出が難しい身分上、城下町のお祭り屋台は是が非でも行きたいですわ。不定期で訪ねてくるサーカス等なら尚更」
「と言いながら脱走しまくってたんだろ?」
「はい」
「少しは悪びれろよ。というか、なんでフィーリとリラも参加してんだ? 参加しようって提案したのは俺だけど、無理に出なくて良かったんだぜ?」
「戦闘はチョモ村である程度こなせると分かりましたので心配無用ですわ。それにトーナメント戦で貴方とかち合えれば私たちが棄権して、貴方を消耗なく進められますし」
「あー、一理あるな。……ん? トーナメントって何処で知った? ビラには書いてなかったよな?」
「適当こきましたからね」
「事前情報履修しとけ」
「トーナメント戦は本当ですよ」
右斜め後ろに立っていたグロウさんが割って入ってくる。因みに私の右隣はリツさんで、ジェックさんは真後ろに立っていて、その左隣にグレストさん。ルルちゃんとホニョちゃんは観衆席ですわ。
「本戦はトーナメントですが、その前に予選でのふるい落としが2回行われるそうです。ただし予選内容は毎龍年変わるから、魔法相性次第では実力者でも予選敗退が有り得るそうです。受付のオネエさんに教えてもらいました」
「そこはお姉さんでありましょうよ」
「受付長でした」
「ベテランでしたわ」
「それでは、挨拶は程々にしてとっとと選手宣誓といたしましょう! 第21・22・23回大会優勝者のエイティ・フットさん!!」
「あ、エイティさん」
私たちが駄弁っている間に優勝者のエイティさんが司会者の隣に立つ。そういえばビラに『3連覇中』と表記されていた。
彼は魔力拡声石を受け取り、口に持っていく。
──が、少し逡巡すると、司会者に返して、大きく息を吸った、次の瞬間!!
「宣セェェェェイ!!!!!!」
観衆席に防御結界が展開されたかと思えば、とてつもない爆音ボイスを私たち参加者に放ってきた!
「「「「「ぐわぁぁぁぁぁぁああああ!!!!??」」」」」
参加者全員絶叫を上げて耳を塞ぐが、反応の遅れた参加者たちは次々と吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。声は空気の振動で伝わる現象で、オペラ歌手は声量だけでグラスに入ったスプーンを揺らすと聞くが、エイティさんのはその比どころじゃない!!
「我々選手一同はァァ! 日々培った力・知識・勇気を遺憾無く発揮しぃぃぃぃ──!!!!!!!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
エイティさんの声で全然聞こえないが、後ろ目でグロウさんが吹き飛ばされまいと身を屈めながら泣き喚いている。そりゃ泣きたくなりますわこの生物音響兵器! かくいう私も足の踏ん張りが効かなくなってきた!
「エンターテインメントの範疇で血湧き肉躍る勝負をすると誓いまぁぁぁぁあす!!!!!!!!!!」
「ぼぎゃあ!」
「危ぅぅぅうア゛ァ゛ア゛!!」
遂に宙に浮いてしまった私の足をジェックさんが咄嗟に掴んで離さない。よく見ると私同様に吹き飛ばされかけてるリツさんの足も掴んでいて、つまり彼は両耳を捨てて私たちの救助を優先していた!!
「ジャックさん、足を離してくださいまし! 貴方の鼓膜が爆散しちゃいますわ爆散!!」
「なんて?!」
「ああ、既に手遅れ!?」
これ以上ジェックさんの耳を悪化させられない、と着地すべく地面を掴もうにも身体は「耳から手を離すな!」と拒絶する! 結局民より我が身なのか私は?!
だが、エイティさんが「誓います!」と言った以上は、宙を舞う参加者の嵐も直に収まる筈だ! もう一波乱ある気がしてならないが、それに賭けるしかない! というかそうあれ! 防御結界に一瞬ヒビ入ったの見逃しませんでしたわよ!?
「ということで開催者に代わり『轟』エイティ・フットォ! 第23回・リプフォード大武闘会開催を宣言するゥゥゥぅゥウウゥウウゥウウゥゥウウゥううぅうぅァァァアァあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁあ!!!!!!!!!!!!」
「はいやっぱりぃぃぃィイ!!!???」
分かっていてもキツいものはキツい! 早く終わってぇ!!
「らァァァアァあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁ!!!!!!!!!!!!!!」
もう叫びたいだけだった。
「ふぅ……」
エイティさんはやっと落ち着いた。嵐が収まった。
戦士一同が立っていた武舞台は息も絶え絶えな生存者、地面に突っ伏す参加者、壁まで吹き飛ばされて叩きつけられて気絶した参加者で地獄絵図と化していた。始まる前から満身創痍だった。
「……ハイッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
どっかん──。
不意打ちにまた数人吹き飛ばされた。まだ続いてた!
「──という感じで、どうだ司会者! 総勢387人をえーと……48人まで減らしたぞ!!」
「はい! ふるい落としありがとうございました! しかし今龍年は結構残りましたね!」
「だな! 30人までは減らす気でいたが、今回の参加者は優秀なこった! ガッハッハァッ!!」
「「「「「殺す気かあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁ!!!!!?」」」」」
2人の会話に参加者から激昂の嵐が巻き起こる! かという私も人生初のブーイングを行い、リツさんに至ってはルルちゃんに見せられない指の立て方をしていた!
「だから際限なく参加者受け付けたんだな大会運営コノヤロー!! エイティ・フットもグルってんじゃねぇぞォーーッッ!!!?」
「そういう頼みだったんだバカヤローーーー!! 戦士なら初見殺しにも対応しやがれ!! 魔物が正々堂々戦うと思うなーーーーッッッッ!!!!」
「「「「「ド正論言うなーーーーッッッッ!!!!」」」」」
参加者の怒号は増々ヒートアップしていく。この際全員で殴りに行こうかという雰囲気さえ出ていたが、それを悟ったのか司会者は何食わぬ顔で進行する。
「さぁ! 戦士たちの熱が冷めないうちに予選開始といきましょう! 今龍年のお題は『巨人狩り』です!!」
「巨人狩りィ?!」
「巨人狩りです! 足元ご注意!!」
「はいィ?! ……って、わぁ!?」
司会者が地面を指し示すや否や、武舞台のあちこちがボコボコと湧き上がったかと思えば、そこから現れた魔物の軍勢が私たち参加者を取り囲んだ!
「人口防衛魔物『ゴーレム』です! 今大会特注の巨大ゴーレムたちと皆さまには戦っていただきます! スタッフお願いします!!」
「おおっ、何だこれ?」
観衆席から光が飛んできたかと思えば、私とジェックさんとリツさんの胸元に紅い刻印を灯す。周囲を見回せば、他の参加者にもそれぞれ別色の刻印が浮かび上がっていた。
「運営スタッフの魔法で色分けさせていただきました! 今から皆さまには同色の刻印が浮かんでいる最寄りの3人でチームを組み、ゴーレムの討伐数を競っていただきます! あ、他チームへの妨害はうっかりでも失格ですよ! 戦士なら周囲もよく見るものですから!!」
となると、広範囲攻撃魔法の使い手は発動タイミングが大幅に狭められる。グロウさんの言った通り、予選内容次第で有利不利が大きく決まる大会だ。
「そして、3連覇者のエイティ・フットさんには単独で挑戦していただきます! 超広範囲攻撃魔法の彼は無事に突破できるのか、こうご期待です!!」
そう司会者さんに煽られるも、エイティさんは不敵な笑みを浮かべていた。それだけで、冒険先でこの手の場面に幾度となく立ち会い、乗り越えてきたのが伺える。
と、まぁ分析はこれくらいにして、先ずは目先の予選を突破しよう。優勝賞金はそこからだ。
「ジャックさん、リラさん。ご準備よろしくて?」
「あぁ……とりま、サクッと予選切り抜けて、全員で本戦進むぞ」
「かしこまりました」
「それじゃ、行きますわよ!」
「本戦進出は上位6チーム! 負傷しても回復魔法士が控えておりますので存分に攻撃してください! それでは皆さま、ご武運を!!」
カーン……──!!
予選開始のゴングが鳴った!!
ということで、丈藤作品名物『爆音おじさん』の選手宣誓で大武闘会開始です! 評価ブクマリアクション感想レビューよろしくお願いします!!
次→明日『18:00』




