第35話「路銀ですわ!」
前回のあらすじ!
レイン、幼少期。
人間界から打って変わって、魔界──。
朝食を済ませて歩を進める姫一行は、未だに叶わなかったコルタス港町観光を引きずっていた。
「うぅ〜……お料理……食べ歩き……観光名所ぉ……」
「我慢しろや。魔王軍が居る町で観光は自殺行為だったろうが」
「食材と調味料も最低限しか買えませんでしたわ。魔王軍が居なければもう少し吟味できましたのに」
「炊事番としては妥協できないよな。でも長居は禁物の状態だったからな」
「なのー……」
「ごめんなー。流石に追手が滞在してる場所で観光は危な過ぎたんだー」
「イヌゥ……」
「イヌゥ……めっちゃ愚図るじゃんオマエら」
ジェックさんは遂に痺れを切らして、私たち女性陣の方を振り返る。
「もう戻れないからこそ愚痴るものですわ。現地での駄々は諦めが余計悪くなるだけですが、既に通り過ぎた現在ならどうせ戻れない分、言うだけ無償ですもの。あぁ観光……!!」
「言いたい放題だなフィーラてめぇコノヤロー。仮に観光したとて、魔王軍欺いた変身もルルの魔力に依存してんだ。複数人への魔法同時使用も初めてだったわけだし、ルルの魔力が何時まで保つか検証していなかった以上、目的達成即出立が定石だったろうよ」
「そう言いつつ本音は?」
「女体化から早く解放されたかった」
「はい〜〜ッッ!!!!」
──瞬間、両者の間で愚劣喧嘩のゴングが鳴った!
「結局貴方の願望じゃあないですか! そりゃあルルちゃんに無理はさせられませんし、敵地は早々に去ってナンボですが、昼食くらいは街中でも良かったではありませんか!!」
「その時点で俺の心はベギベギだったんだよ! 見てたろオマエ?! いきなり女体化させられたかと思えば一気に胸元が引っ張られて気恥ずかしいへそ出しルックをする羽目になった! 服とズボンからだって毎秒嫌な音がして常時ハラハラだったわ!!」
「正直すっごい面白かった」
「悪魔かオマエは! 良かったんか? 良かったんか?! 連れが街中で服を破裂させて上裸痴女になっても良かったんか?! 俺は嫌だ!」
「でも、腰巻き外套で上手いこと誤魔化せてたではありませんか」
「隠せたのは特にヤバかった上半身だけでした! 呉服店に駆け込むまでまでおん……? て町民に一瞥される程度で済んだものの、試着室で脱いでみれば服は勿論、臀部もガッツリ破けてたからな!? そりゃあ二度見もするよね服も破けてれば実はズボンも破損してた女が全力疾走してんだもの!!」
「けれど、同サイズの服とズボンは新調できたではありませんか」
「その新調時も気まずかったぞ?! 俺を試着室に案内してくれた店員に同じサイズの持ってくるよう頼めば「サイズ測り直さなくて大丈夫?」って何度も確認してきたからな!? そんな時に限ってオマエらはどっか行っちまうしよ!!」
「久々の呉服店にはしゃいじゃいました♨」
「ビギィィィィィイィイイイィイイイ!!!!!!」
ジェックさんは地面に両掌を着けながら、人とは到底思えない悲鳴を上げた。はい私の勝ち。
暫くして、色々吐き出してスッキリしたのか、冷静になった様子でジェックさんは顔を上げた。
「落ち着きました?」
「うん。……でも、仮に検問突破した直後に魔王軍が去ったとしても、満足いく観光は出来なかったと思うぜ。食糧買い足してたリツは理解ってるだろうが」
「? どういうことですか?」
ジェックさんは立ち上がり、懐に入れていた財布をひっくり返した。
中からは、節約しても2日分の食糧を買えるかどうか程度の小銭しか出てこなかった。
「このように、路銀が底を尽きました!!」
「なんですとぉ!?」
一体何を言っているのだ? コルタス港町で食糧調達しても節約すれば4~5日分は保つと船の中で皆と確認したというのに!?
「どういうことですか?! 実は破損寸前になってた槍の新調やリツさんの新装備を買ったりはしましたが、衣服は見るだけに留めましたし、コルタス港町での買い食いも情報収集時以外ではしていませんよ?! いやプルタ避暑地では結構買い食いしていましたが!?」
「それに関しちゃ、とやかく言わない! けれど、コルタス港町で想定外の出費があったんだ! ヒント、呉服店!!」
「え? でも衣服の新調代は確かに頂戴して……あ!!」
ここまで言ってやっと私は思い出す。取り調べ時点で破けたのは上の服だけだ。
それ即ち──!
「ズボンは自腹でした☆彡 あ、痛い! ちょ蹴らないで!? 寄って集って脛を蹴ってこないで!?」
「貴方の所為ではありませんかどうしてくれるんですの?! どう責任を取るんですの?!」
「仕方ないじゃん! 服とズボンが同日に死ぬなんて誰だって想像しないじゃん! 元を辿れば急に女体化提案即実行してしたフィーラが全ての元凶じゃん!!」
「チクショウぐうの音も出ませんわ! けれどどうするのです?! 道中で食糧や換金素材を調達出来るとは限りませんし、私たちはともかく、ルルちゃん・ホニョちゃんにひもじい思いをさせるのは御法度ですわよ!?」
「分かってる! だから今からする提案にどうか耳を傾けてほしい!!」
「提案ですか?」
私たちが足蹴を止めれば、ジェックさんは「情報収集時のことだ」と脛をさすりながら話を切り出す。
「大荷物を運んでやった婆さんが教えてくれたんだ。鳥魔族が飛んでった南へ進めば『大都市リプフォード』という大きな町がある。ちょうど3龍年に一度の大会が行われる時期だしカジノもあるから、通り過ぎたりしない筈だってな」
「大会、ですか……? どんな内容です?」
ジェックさんは、ようやく痛みの引いただろう脛から手を離して、私たちに言った。
「大武闘会。優勝賞金は高級ホテル代三龍ヶ月分相当」
「……あぁ、なるほど。先が読めました」
「なら話が早い。魔王軍と鉢会った手前博打だが、オマエ、好きだろ?」
「大好きです」
私は女性陣に顔を向ける。
「お望みとあらば、私めはどこへでも」
「おまつりなのー」
「イヌッ!」
私は「返事良しっ!!」と南を指差す。
「それではひと稼ぎしようではありませんか! 急ぎますよ! いざ、リプフォードの大武闘会へ!!」
ということで、次回から『大武闘会編』です!
気になる方はブクマして待機してくれると嬉しいです! なんなら「期待して待ってるわよ」と評価してくれたらもっと嬉しいです!! あわよくば感そ(ry
次→明日『18:00』




