第33話「検問ですわ!」
前回のあらすじ!
港の魔王軍を誤魔化そう。
「はーい、検問です。ちょっとお時間頂戴します」
グレストが船と港を繋ぐ橋を設置するなり、港の魔王軍兵が挙って集まってくる。
「お疲れさまでーす。検問って、何かあったんですか?」
「実は魔王軍の兵士が脱走中でして、上層部からの指示で全船の検問を行ってるんですよ。なので密航していないか確認させてほしいなって」
表向きは脱走兵の追跡として兵を出張らせているらしい。まぁ、家出娘を連れ戻すために部下を私的に使っているなんて口が裂けても言えないだろう。
「あ、そうなんですね分かりました。直ぐに船長を呼びますので少々お待ちくださいってワァッ!?」
そこへ猛ダッシュで突っ込む大荷物を抱えた人影を、グレストと魔王軍兵が咄嗟に止める。
人影の正体は、打ち合わせ通りに飛び出してきたクリスクおじいさんだった。
「ええい、何をするか?! 早う通さんかい!!」
「ちょっとおじいさん危ないよ! 安全第一!」
「知ったことか! 孫の誕生日を祝うべくわざわざ護衛を雇って嵐の中を進んできたんじゃ! 快晴冒険団クリスクを舐めるでないわァ!!」
「え、おじいさん、快晴冒険団のクリスクさんなの?! サイン貰っていいですか?!」
「仕事中だろ憲兵おい」
「いいよ♨」
「軽いなクリスクさんも。名前の安売りが過ぎるぜ」
「ファンが居るのは何龍年経っても嬉しいものじゃよ。ほれ書くもの寄越しんさい」
「じゃあ兜の裏に…………ありがとうございます! 部屋に飾ります!」
「喜んでくれて何より。ほんじゃの♨」
「はいお達者でとはいかないんですよ検問させてください」
「なんじゃコノヤロー!!」
暴れるクリスクおじいさんを複数の魔王軍兵が抑える間、グレストは別の兵士と話を進める。
「ということで、脱走犯が潜んでないかお話聞かせてください。他に乗船員は居りますか?」
「俺とクリスクさん以外だと5人だな」
「その5人とは?」
「犬を1匹合わせてだ」
「犬以外の4人は?」
「子どもが1人だ」
「他3人は?」
「女性が2人、男性が1人だ」
「めっちゃ情報刻みますねお兄さん。ちょっと怪しく思えてしまいますよ?」
「船酔いから復帰したばかりで頭が回らねんだ勘弁してくれップるじゃあオラァ!!」
「病み上がりでしたか無理しないでください。水飲みます?」
「いただきます」
グレストは受け取った水筒をグイッと一口飲み、ふぅ……と息を吐く。
「……で、なんの話してたっけ?」
「鳥頭が過ぎますよ本当に大丈夫ですか? 体調厳しいなら聴取は切り上げますので、船内調べさせてもらいますね」
「あぁ、だだたら俺が呼んでぎすよろろっぷ……んじゃオラァ!!」
「呂律回ってないじゃないですかマジで無理しないでください」
「オラァッ!!」
「いや本当にいいですって。他の乗船員はこっちで探すからマジで休んで──」
「その必要はございませんわ」
「はい?」
寸前まで変装を決行しあぐねていた私たちは、満を持して甲板から降りた。
「出遅れてしまい申し訳ございません。今さっきまで私たちも船酔いとトラブルに苛まれており、互いに仲間の介抱でお手を煩わせてしまいました。どうかご理解を」
「あぁ、だから中々通してくれなかったんですね。酔ってるところあまり見られたくないですもんね」
「そういうことです。それでは早速ですが、検問してもらってよろしくて? 話は移動中に聞こえてきましたので」
私は堂々と魔王軍兵の前に立つ。誤魔化しは臆せず先手を打った方が成功しやすいのだ。
「御協力ありがとうございます。それじゃあ始めますね」
言うと魔王軍兵は、腰に提げていた『魔晶石の付いた棒』を取り出した。
「なんですの、それ?」
「嘘発見器です。私が魔力を注いでいる間、先端の魔晶石が対象者の隠し事に反応して閃光を放つ仕組みとなっております。避けたら即時『成りすまし犯関係者』と見なさねばなりませんのでご容赦ください。手は後ろで組んでくださいね」
あ、詰んだ!
質問攻めされると踏んで多数の質疑応答パターンを用意してきたというのに、変装も質問対策も根本から覆される魔道具が出てきてしまった! これでは作戦の意味がない!!
だが、一寸先が闇に染まった間にも、魔王軍兵は遮光眼鏡をかけて、嘘発見器をかざしてくる。内心頭を抱えている場合ではない!
こうなったら、魔晶石が光るなり金的かまして逃走を試みる他ない! 後ろに回した手で『逃走準備』のジェスチャーを送り、魔晶石を注視する。
「では始めます。貴女は脱走兵の関係者、若しくはこちらに都合の悪い事情を秘匿している!」
「ッ……!」
しかも幅広く嘘を見抜ける質問をしてきた!
こうなったらやるしかない……! 私は「いいえ!」と答えながら右足をさり気なく構えた!
「…………反応無し! 御協力ありがとうございました!」
──が、魔晶石が閃光を放つことはなかった。
「え?」
「ん?」
「……あ、終わりですの? 分かりにくいですわね……」
「やっぱ思います? 真面目に改良案出すか……」
咄嗟の言い逃れだったが、魔王軍兵は気に留めず、リツさんたちにも次々と「反応無し!」の太鼓判を押していく。
一体何故回避できたのでしょう? 嘘発見器の不調、それともルルちゃんが纏わせた魔力が微弱過ぎて感知できなかった……?
まぁ、いっか!
「さて、あと一人ですね……そこに隠れてる方、出てきてください」
あ、ジェックさんがまだでした。
「…………」
しかし、彼は一向に出てこようとしない。否──今は彼女か。
「早く出てきなさーい。私が引きずり出しますわよー」
「………………」
私が急かすと、ジェックさんはようやく甲板から降りてきた。
「うぉ、デッカ……」
「どこ見てんだ」
「あうぅんっ」
同席していた女性魔王軍兵が嘘発見器兵に兜を鳴らされる。だが、彼女が口に出すのも無理はない。
ジェックさんは、女体化していた。
身長と筋肉はそのままに、けれど提案した私もビックリのドォンッキュッドォンッ! に彼はなっていました。服なんかもうパッツンパッツンのピッチピチで、上の服はドォンッ! に引っ張られるあまりへそ出しルックと化していて、ズボンに至っては今にもはち切れそうな状態で「誰か助けて」と悲鳴を上げていた。
正直、すっごい触りたい。確実にアイアンクロられるとしても鷲掴みたい衝動を抑えるのが大変で仕方がない。
嘘発見器兵の前に立ったジェックさんに、あんぐり口を開けたグレストさんが聞く。
「ジック……オマエ、女だったんか?」
「え? そこのお兄さん知らなかったの?」
「んゔっふぅ……ッッ!!」
駄目だ笑うな吹き出すな。全力で内頬を噛み締めろ。流石に今は笑いどころではないと腹筋に言い聞かせて、ジェックさんに代わって応対する。
「彼女は女パーティーだからと舐められないようサラシを巻いていたのですが、先程最後の一枚が服の中で爆散四散しましたの。ギリギリまで手直ししておりましたが、集めたところで多勢に無勢でしたわ」
「寧ろよくあの大きさをサラシで抑えられてましたね。え、本物ですよね? ちょっと詰め物じゃないか確認させてください」
そう女性魔王軍兵は言って、ジェックさんを船内へ連れて行った。
中から「うおぉ……」と聞こえた。
程なくして、ビリッ……と音がした。
暫くして女性魔王軍兵は、腰巻き外套を上に羽織って、更にへそ出しルックと化したジェックさんを連れて戻ってきた。
「先輩すいません本物でしたが着直させたら服破けました弁償代ください!」
「こちら服代です通ってよし!」
「お疲れさまでしたァ!!」
私たちは服代を握りしめて、コルタス港を逃げるように去った。
◇ ◇ ◇
その後、クリスクおじいさんを娘夫婦宅付近へ送り届け、馬車に乗ったグレストを見送り、鳥魔族エイジンの目撃情報を掴んだ姫一行。ジェックと超ジャンケンの末にコルタス港町観光全カットで、鳥魔族エイジンの目撃情報があった南へ下った!!
◇ ◇ ◇
「ねぇ、グークさん」
「なんだ、ドーラ?」
「あの巨漢の女性、ジェックスでしたね」
「あぁ……何故か女体化していたが、間違いなくジェックスだった」
「いつから気付いてました?」
「検問中だ。抑えてるつもりだったのだろうが、船内から覚えのある魔力を感じた」
「彼、日に日に魔力増してましたもんね……逃げ切れるといいっすね」
「だな……アイツの逃避行に幸運を」
【オマケ】
「わぁ、じいちゃんだー! じいちゃんだー! じいちゃん、じいちゃん、じいちゃんだー!!」
「やぁ孫、誕生日おめでとう。ほれ、プルタクッキーの詰め合わせじゃ。遊びに来ては食べたがってたじゃろ」
「わぁ、じいちゃんありがとー!」
「それと、ほれ。インテリアにアッチョンバーの角♨」
「ぎゃー!!!?」
つーことで『コルタス港町編』2話で終了です♨
滞在しようがないもんね♨
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次→明日『18:00』




