表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/70

第31話「後日談③ですわ!」

前回のあらすじ!

料理が迷子。

 出航から5日後、コルタス海域──。


 海龍シュウウが立ち去って以降、航海は順調だった。海魔物も時偶に襲ってくるくらいで、ぼんやり日光浴できる程に順風満帆の一言だった。


 そんな快晴の下、大剣『大海』を抱えつつ、独り黄昏ながら見張りをするジェックに近付く人影があった。


「いや〜まさかシュウウさまがぶっ倒れてきかけたアッチョンバーを食べてくれただけでなく帰り際に良き舌鼓を打たせてくれた褒美なのか知りませんが嵐を消してくださったおかげで以降は海魔物に殆ど遭遇することなくコルタス港町近くまで来れるとは思いもよりませんでしたわ」

「長いな独り言」

「そういう気分でしたのよ」


 隣を失礼──と、(わたくし)はジェックさんの左隣に並んで海を眺める。


「どうですか海は? 何事もありませんか?」

「問題なし。強いて言えば半魚人たちがハリセンボンでキャッチボールしてた」

「何それスッゴイ気になります。なんで呼んでくださらなかったんですか」

「船を見るなり潜っちまったんだよ。ハリセンボンもあさっての方向に投げられまくってたし、誤投したくなかったんだろうな」

「ならしゃあないですわね。見たかったァ……」


 (わたくし)たちの間を静寂が包む。

 訊くのだったら、今ここでしょう。


「……アッチョンバーのこと、まだ引きずってます?」

「…………」

「あっ、そっぽ向きましたわ。図星ですわね」

「……くそっ」


 吐き捨てる彼は、見張りと称してやたらと独りになりたがっていた。もしかしてと思って聞いてみたわけだが予感的中でしたわ。

 ジェックさんは「はぁ……」と溜め息を吐いて、悪態をついてくる。


「なんで気付くんだよ……さり気なく程度に見張り買ってたってのによ?」

「そのさり気なくの頻度が増してれば気付きますよ。どれだけの付き合いだと思ってるんですか?」

「ひぃふぅみぃ……出会ってから今日まで2龍ヶ月以上は経ってるか?」

「それくらいですわね。魔王城に6〜7龍週間は滞在してましたもの」


 というか──と(わたくし)は決定的証拠を突き付ける。


「貴方は不本意で牢屋或いは人質の見張り兵をやらされていたのに、それを率先してやりたがる時点で違和感バリバリですわ。グレストさんと共同でやればいいにも関わらずですから尚更ですことよ」


「…………………………」


 ジェックさんは「はぁぁぁぁぁッッ……」と深い深い溜め息を吐くと、悪戯を見抜かれた子どものように告白した。


「……アッチョンバーの転倒、本当なら防げた」

「あぁ、あれは面食らいましたわね。すかしっ屁同然に倒れてきましたもの。ですが、あの時のアッチョンバーは完全に力尽きてから倒れてきてましたし、貴方が責任を感じる必要はございませんわ。理想通りの戦闘ができるなら世の兵士は置き土産を喰らっておりません」

「いや、そうじゃない」

「はい?」


 じゃあ何ですの? と(わたくし)が続きを急かせば、彼は親に叱られる子どものように、更に身を縮こませて、暴露した。



「…………魔法使えば倒せたのに、使うの躊躇した」



 ジェックさんはポツリ、ポツリ……と昔話を始める。


「4龍年前、大規模な魔物討伐遠征があった。山の洞窟に『危険度6』の魔物グモが繁殖用の巣を作っていたんだ」


 危険度6……魔物の中でもかなり上澄みだ。人間界基準と一緒なら、危険度は『1』が最低で『8』が最大だ。


「だから麓の町村に被害が出ないようにと魔王軍に討伐依頼が来た。魔王軍は複数隊で一斉に叩こうと複数の先遣隊、支援隊を編成した。俺は先遣隊だった」


 13歳の若さで先遣隊に編成されるのは祖国なら例外中の例外。これが実力でなく魔王の嫌がらせなら反吐ってしまいそうだ。


「けれど、実際に行って、直ぐ見通しが甘かったと気付いた。その『危険度6』は特殊進化個体で、通常個体よりも繁殖を超短期間で行えていた。巣に到着した時点で、中は腹を満たしたくて仕方ない産まれたての子グモで溢れかえっていた。俺たちは『危険度8』のクモの巣に首突っ込んじまってたんだ」


 基準に違いがなければ、『危険度8』は将軍級を全投入してやっと勝てる規模。一人でも出し惜しめば壊滅的打撃はほぼ確定だ。


「先遣隊は親グモに到達することなく負傷して撤退、足止めの物資もあっという間に枯渇した。かくいう俺も気絶した仲間を連れて逃げるのに精一杯だった」


 そもそも13歳が『危険度8』に挑むのは死に急ぐようなものだ。当時撤退に徹したのは間違っていない。


「けれど……洞窟を出て、本陣の支援隊と合流するなりある可能性が脳裏を過ぎった。結果を出さなきゃ魔王(クソ親父)は同隊員諸共厳罰を下してくるってな。アイツならやりかねないって負の信頼があった」


 ここでも出るか『魔王の呪い』は。奴はどこまで道を外せば気が済むのだ。


「だから俺は先遣隊の撤退を確認するなり、踵を返して洞窟へまた走った。着いた頃には獲物を取り逃して痺れを切らした親グモが入口から顔を覗かせていて、俺は咄嗟に魔法を発動させた」


 あ、うん。結末が読めた。


「したら、クモごと洞窟が……洞窟ごと山が消し飛んだ」


 案の定だった。

 実際、チョモ村で力の片鱗は感じていた。「3秒間しか魔力を注げない仕組み」の魔力砲台を1秒で満タンにしたんだもの。


「以来、俺次第でいつでも生態系壊せるのが怖くて魔法は使ってない。そうこうしているうちに魔力量は当時以上になっちまった。それが、アッチョンバー相手に魔法を出し渋った所以だ……」


 そう締め括り、彼は再び黄昏た。

 その背中は、今までで一番小さく見えた。



 故に(わたくし)は、彼の左手を取り、自身の胸に押し付けた。



「…………何してんのオマエ?」

(わたくし)の胸に、貴方の左手を押し付けてますわ」

「それは見れば分かる。なんで押し付けた?」

「心拍を感じ取っていただくためです。(わたくし)の心臓は高鳴っていますか?」

「………………多分、平常だな」


 そういうことです──と(わたくし)は顔を上げる。


(わたくし)の心臓が示すように、(わたくし)は貴方の告白に軽蔑も何も抱いていません。ましてや今以上に未熟だったでしょう13歳当時の貴方に、負傷者と、且つ確執ある父親の十字架を背負った状態で冷静な判断を熟すのは至難の業です。分かりますね?」

「…………だろうな」

「納得してませんね?」

「…………あい」

「では、これだけ言って気が晴れないのなら、課題を課しましょう」

「課題?」


 課題です──とオウム返して、(わたくし)は続ける。


「昨日賜った『大海』とともに、放出以外で魔法を使う術を探し、会得なさい。グロウさんに魔法のアドバイスをしていたのですから、『魔力纏い』なり『身体強化』なりと思いつく筈です。期間は人間界到着までです。できますね?」

「……善処します」

「よろしい」


 (わたくし)はジェックさんの左手を解放する。


「それじゃあ、コルタス港町も近いようですし準備しましょう。貴方はグレストさんと錨を下ろす準備をしていてくださいそれが終わったら港に船を固定するロープも出しといてください(わたくし)は旅の荷物を出入り口に寄せておきます」

「凄ぇ捲し立てんじゃん、どうした急に?」

「どうもこうもないですわそれではお先にアウチッ」

「危ねっ」


 踵を返したところで己が足と足がぶつかり合い、思わず転びかける。ジェックさんが咄嗟に肩を掴んでくれなければ顔面から転倒していた。


「おい大丈夫か? 今になって船酔いじゃねぇよな?」

「あっ……」

「あっ……? あっ……!!」


 しかし、不幸だったのは、酷く目を泳がせて、真っ赤に染まっているだろう(わたくし)の顔を覗き込まれてしまったことだった。


「おま、オマッ……!! 今更恥ずかしくなってんじゃねぇよ!! 俺まで居た堪れなくなるだろうが!!」

「仕方ないじゃないですか殿方に胸触らせるの初めてだったんですのよ!! こうなったら貴方責任取りなさい!!」

「ふざけんなッ! こんな形で責任負いたくない!! 責任を取るなら真っ当に交際して真っ当に段階踏んで真っ当に大人の階段登ってからにしたい!!」

「あら結構順序大事にするタイプ?」

「それがありきたりで普通ゥゥゥゥゥッッッッ!!!!!!」


 結局、様子を見に来たリツさんが脇を(くすぐ)ってくるまで、(わたくし)たちのケンカは続いたのでしたとさ。


 コルタス港町は近い。

ジェックの過去が少し明らかになったところで、『海編』終了です。締め括りなのに締まらない2人ですね。

面白いと思ったら広告下の『☆☆☆☆☆』『Good』、続きが気になったら『ブックマーク』を押していただけると幸いです。

つーことで、物語折り返しです!


次→明日『18:00』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ