第3話「潜入ですわ!」
前回のあらすじ!
「きな臭い町長の家に行きましょう」
「ちょ、待てよ」
タミテミの町、道中にて──。
町の少女ルルちゃんに教えてもらった町長宅へ向かっていると、後ろから続くジェックさんが「ちょっと待てよ」と私を説得してくる。
「おい本気か姫さ……フィーラさんよ。敢えて聞くが、町長の家に行って一体全体何をする気だ?」
「決まってますわ、きな臭い町長の裏取りを行います。ジェックさんの発言でほぼ確ですが、私の予想が正しければ、町長は魔物討伐依頼費と偽り、町民から不正にお金を巻き上げていますわ」
「それは分かる。だがアンタは現在進行形で追われてる身だ。胸糞案件だとは理解できるが、魔王城から1日歩けば辿り着けるこの町で時間を使えば追いつかれて本末転倒だぞ」
「自負していますが、いずれは祖国を治める身として見過ごせませんわ。それに問題を解決するメリットはありますことよ」
「言ってみろ。内容によっちゃ直ぐにでもホニョを回収して町を出る」
「ここの問題を解決して魔王軍に匿名通報すれば、軍は実態調査に時間と人員を割かざるを得なくなります。さすれば必然的に追手を足止めすることに繋がるハイリスクハイリターン且つ問題を解決できて気分スッキリですわ」
「よっしゃ乗ったそういうの好き」
「ご理解いただけて何よりですわ。それでは急ぎ参りましてよ」
こうして、私たちの町長宅を目指す歩は加速する。
◇ ◇ ◇
「ぐっふっふ。今回もたんまり集まったわい」
暗がりの中で、一人の男の下卑た笑い声が響く。
「えぇ、スーゲ町長さま。今回も良い額を徴収できましたなぁ」
その男の傍にいる執事が、これまた下品に口角を上げて相槌を打つ。
「しかし、アークよ。よくもまぁ、この方法が思いついたものだ。其方の『誘導魔法』で遠い縄張りから呼び寄せた魔物を儂の『洗脳魔法』で操ることで町民から体良く討伐依頼金をせしめて、暫くしたら魔法を解除し、後は帰巣本能で帰らせる。時偶にしか行えぬ贅沢ではあるが故に足がつく心配もない。毎度ながら感心するわい」
「いえいえ、おかげさまでスーゲ町長さまのおこぼれに預かれるのですから、私など大したものではございませんよ」
「違いない」
二人の間で笑いが起こる。
「それでは乾杯するとしよう。今日は取り寄せた肉を食べるとするか」
「でしたらあのワインがお口に合うかと。ただいま持ってくるといたしましょう」
「ほぉ。日中から飲酒を薦めてくるとは、中々に大胆であるなぁ?」
「大丈夫でございますよぉ。カーテンは閉まっておりますので、太陽も我々に気付くことはございませんとも」
「お主も悪よのう」
「スーゲ町長さまこそ〜」
「ぬっふっはっはっは……!」
「ひっひっひっひっひ……!」
二人の昏い笑い声が、暗がりの部屋で静かに反響した。
◇ ◇ ◇
そんな会話を私とリツさんは、煙突の中から耳をそばたてて聴いていましたとさ。
「聴きましたわねリツさん。撤収しますわよ」
「しかり記憶しました。いつでもどうぞ」
極力絞った声量でリツさんがしっかり握り直したのを確認してから、私はコウモリ状態から姿勢を直して「収縮」とロープ代わりのドレスを少しずつ縮めていった。
「フィーラさま、着きましたわ」
煙突にぶつからぬよう慎重に縮めていき、ようやく煙突の入口にリツさんの手がぶつかりました。
そしたら今度は「縮小」と唱えて、つっかえ棒代わりの槍を細くして一人通れるだけの隙間を作ります。そこからリツさんが出たら私も後に続き、屋根の上でグ〜〜ッ……!と 背伸び。
「や〜〜っと外ですわぁ」
三階屋根まで続く煙突でしたから昇降に時間かかりましたわ。高所な分、外から目視にくいのも利点ですけど。
ですが、だからと言って長居は無用。とっとと槍を背負って退散し、町長宅付近で待機させていたジェックさんと合流する(体格的につっかえかねなかったのですわ!)。
「おつかれ。首尾は?」
早速訊いてくる彼に「上々ですわ♪」とピースサインを送り、更にその場を離れながら説明する。
「不定期で、悪徳執事の魔法で遠方から魔物を引き寄せ、そいつを悪徳町長が魔法で洗脳して町回りを彷徨かせる。そうすることで困った町民から魔物討伐依頼費を集めて、頃合いになったら魔法を解いて住処に帰らせるを繰り返しておりましたわ。後は不正な集金でお肉やらワインを買ってカンパーイハッハッハですことよ」
「不定期なのが違和感持たれにくくて小賢しいな。だが、そういう事情なら俺の領分だ」
「その通りでしてよ」
町長宅から程よく離れた頃合いで、私はジェックさんとリツさんに向き直ります。
「それでは、これからの動きを指示いたします。ジェックさんは察したと思いますが、件の魔物をとっちめてくださいまし。その魔物も巻き込まれた身ではありますが、町民を安心させるには討伐遺体を用意するしかありませんわ」
「了解だ」
「リツさんには再び町長宅に戻ってあるものを探してもらいますわ。私仕込みの潜入術があれば貴女一人でもできますことよ」
「かしこまりました」
「改めてとんでも発想だよな、脱走術は潜入術に転用できるって。ホントに成功させるし」
「脱走経路の把握は、潜入経路の把握と表裏一体でしてよ」
「ドヤるなよ非合法外出者。んで、フィーラはその間何してるんだ?」
「ジェックさんついて行きますわ。魔物討伐に有用且つ同時に追手を欺く手段がありますことよ」
「オーケー。いざって時まで俺の後ろに隠れてろよ」
「若しくはルルちゃんと合流して、一緒にホニョちゃんを愛でてましてよ」
「俺の後ろに隠れてろよ」
「つれねぇですわねぇ」
こうして私は、リツさんと一時別れを告げて、ジェックさんと森へ向かいましたわ。
姫さまが真っ当(?)で本当に良かったと思ってる。
評価等してくれたら嬉しいです。
第4話→本日『15:00』