第28話「アッチョンバーですわ!」
前回のあらすじ!
「タァァァァァイ!!!!」
【船での偽名】
姫……フィーナ
ジェック……ジック
リツ……ミリ
ルル……ムム
「ヴィギャシャアアアアアアアアッッ!!!!!!」
「ふっ!!」
アッチョンバーが繰り出した『大振り』の巨大一本角を、ジェックさんは踏ん張りながら虚空へ受け流す。
「ヴィギャシャシャシャシャシャアッッ!!!!!!」
アッチョンバーは即座に攻撃を小刻みに振り回す『連続薙ぎ』へ切り替える。一撃任せでは流され続けると理解しての攻撃でしょう。徹夜明けに付けられたような名前に反して知性は高いようだった。
「ふんふんふんふんふんふんふんッ!!!!」
ジェックさんも負けじと応対する。船をも見下ろす巨躯から放たれる攻撃をよくもまぁ捌くものだが、そう長くは続きそうにない。
「ちょっと武器への負荷がデケぇな! いつ折れるともおかしくねぇぞ!!」
「了解しました! グレストさん、フォロー行けます?!」
「無理! タイ!!」
「タァァァァァイ!!!!」
視界の端で一瞥すると、グレストさんは私以上の勢いで迫り来る『〇〇タイ』を次々仕留めていた。あれでは当分動けそうにないが、その分引き付けてくれているとも解釈できる。
「なら私がやってやります! 伸びよ槍!!」
殴り込んできた『ナグリタイ』を叩き落としがてら伸ばした槍がアッチョンバーの腹部に刺さり、アッチョンバーも「ヴィゲェェェェェッッ!!!!!!」と悲鳴を上げながら後退する。
この距離なら射程充分! 帆柱に装着されてる船内通信管の蓋を開き、私は叫ぶ!
「きっと居るでしょうミリさん、お願いします!!」
「かしこまりましたー」
「ヴィギャァァァァァッッ!!!!!!」
船の前方から放たれた砲弾がアッチョンバーに直撃する。リツさんが砲撃室に移動して準備してくれていたのだ。彼女ならそうしてくれると信じていた!
「ありがとうございますミリさん! 引き続きよろしく!!」
通信を切り、槍を握り直す……が、ちょっと彼女たちが気になり、もう一度通信管の蓋を開けて耳を澄ましてみる。
──さぁルルさま、一緒に砲弾を運んでくださいますか?
──はこぶのー。
──イヌッ!
愛娘ルルちゃんがさり気なく手伝えるようにしつつ、和気藹々と砲撃準備を整えているようだった。
ホッコリをありがとう──! 蓋を閉じて、変わらず連撃を捌き続けるジェックさんに問う。
「ジックさん、進捗は?!」
「一箇所に切り傷を集中させてる! 武器耐久は限界!!」
「よろしい!!」
私は連撃が止んだタイミングを見計らい、ジェックさんの元へ駆け寄り、「失礼!」と彼の片手剣に触れる。
これで準備万端!
「ヴィギャシャアアアアアアアアッッ!!!!!!」
振るわれるアッチョンバーの巨大角を弾き退けんと剣を振るジェックさんに合わせて、片手剣を巨大化させる。久々に使ったが、これで競り負けまい!
「ジックさん、嘗てのやっちゃって!!」
「ヨーソロー!!」
ジェックさんは掛け声に合わせて、巨大化片手剣を振り切った!
「ヴィギェェェェェェッッ!!!!!?」
アッチョンバーが仰天し、ガラァンッ──! と、一本角が甲板に音を立てて落っこちる。ジェックさんは見事、巨大一本角をへし折ってみせた!
「よし折れた! 武器はギリギリ!」
「ナイスですわ! ミリさん、今のうちに砲弾を叩き込んでやりなさいな!!」
「申し訳ありません。無理です」
「なんですと?!」
通信管から聞こえた拒絶に私も仰天する。あのリツさんが断った?!
「! おい、見ろアレ!」
タイの群れを蹴散らしフリーとなっていたグレストさんに促され、船から身を乗り出す。
「あ……!!」
大砲の発射口を覗かせている筈の窓が、アッチョンバーの腹でピッタリと塞がれてしまっていた。
リツさんが断ったのはこれが原因か! あの状態で発射すればリツさんたちごと吹き飛ばしかねない!
アッチョンバーもそれが分かっているのか、ヒレを甲板に固定して離れようとしない! 早々の砲撃が裏目に出てしまった!
「ヴィゴォォォォォッッ!!!!!!」
「なッ!?」
更にアッチョンバーは頭を高い位置へ持っていき、口に魔力を溜め始めた! そんなの聞いてない!!
「いかん、アッチョンバーが奥の手を放とうとしとる! アレを喰らえば沈没船まっしぐらじゃ!!」
「ジック! 一か八か魔法使え! それだけの魔力量ならワンパン見込めるぞ!」
「駄目ですわグレストさん! 彼が船沈ませかねませんわ!」
「そんなにヤバいの?!」
「じゃったら風じゃ! 儂が思いっきり逆風吹かせて振り切ってみせよう! 柱に掴まれ!!」
「いや、その必要はない」
「「「え?」」」
「チャイヤァッ!!!!!!」
私たちが顔を向けると、ジェックさんは右腕の筋肉をビキビキと膨らませて、片手剣をアッチョンバーの鼻頭に直撃させた!
「アゴバァッッッッ!!!!!?」
──次の瞬間、アッチョンバーは魔力を制御できなくなり、口内で爆発させた!
爆煙がアッチョンバーを包むその様を見上げながら、ジェックさんは堂々断言する。
「頭を持ち上げたってこたぁ、邪魔されたくないと言ってるもんだぜ」
「「「カッコイ〜〜〜〜イッッッッ!!!!!!」」」
私たちはヤンヤ、ヤンヤとジェックさんをもてはやす。
しかし、それも束の間の高揚だった。
「ヴィギャアアアアアアアア……!」
力尽きたアッチョンバーの巨体が、船側に倒れてきたからだ!
「ごめん、しくった!!」
「「「いやぁァァァァァァァアッッ!!!!!!」」」
私たちはのたうち回った!
けれど、アッチョンバーが倒れてくることはなかった。
アッチョンバーが、巨影の中にすっぽり食べられてしまったからだ。
「え?」
甲板上の私たちは呆然と見上げる他なかった。
船を見下ろせるアッチョンバーの巨体が、海面下から迫り上がってきた『更なる巨体』に一吞みにされた。アッチョンバー以上の超巨体に、だ。目の前で起こった非現実的な出来事にいつまでも思考が追いつかない。
「おや……小腹を満たしてみれば、昨日のナイスバルクたちが居るじゃあないか」
更には『更なる巨体』が明瞭な人語で声を発した。一先ず分かったことは声的に雌だ。
「……ん?」
少し冷静になったところで私は頭の片隅に引っ掛かりを覚える。『昨日のナイスバルク』というか……、聞いたことある声だった。
そんな中、先んじて我に返ったのは、船長兼舵取りのクリスクおじいさんでした。
「おお……シュウウさまじゃ」
「は?」
「! なんだい、アタシのことを知って……ん? よく見たらアンタ、アタシの祝福を受けているね。ということはクリスクか。ナイスバルクが随分と萎んじまったね」
「おぉ、憶えてくれてましたか。お会いしてから40龍年経つというのに恐悦至極の限りですじゃ」
クリスクおじいさんと『シュウウさま』が私たちそっちのけで会話を弾ませる中、私はまた引っ掛かりを覚える。確かコンテストの受付中に祝福だかなんだと言われたような……?
と、首を傾げていれば、「ちょ、ちょっと待ってくれ!」とジェックさんが両者の会話に割って入る。
「さっきから『ナイスバルク』に『祝福』と聞き覚えのある語句が頭の中をまごついてたが、嘗ては『ナイスバルク』だったじいさんが受けた『祝福』が魔法とするなら確信が持てる! アンタは『荒波に負けないよう肉体を鍛え抜いた者』に『祝福』を授ける『海龍』だ! 違うか……?!」
「……あ!!」
ジェックさんの推測に殴られたように目をカッ! と見開いたグレストさんが続く。
「そうだ、そうだよ、クリスクさんは『快晴冒険団』活動中に『P・S・M・C』で優勝したって伝記に書いてた! それなら色々合点がいく!」
2人は「「どうなんだ?!」」と了解に詰め寄った。
「そうだよ♨」
「そうじゃよ♨」
「「あっさり言ったァ!!」」
2人は盛大にズッコケた。
「アッチョンバーで一話書けるな……!」と急遽一話分に書き直したのを覚えています。
次→明日『18:00』
 




