第27話「海ですわ!」
前回のあらすじ!
嵐の中、無断出航! 地主ブチ切れ!!
【プルタ避暑地での偽名】
姫……フィーナ
ジェック……ジック
リツ……ミリ
ルル……ムム
「クリスクさん帰宅次第船没収ッ!! ジック選手一行とグレスト選手は『PSMC』出禁ザマスッッッッ!!!!!!」
◇ ◇ ◇
一方──、甲板上の姫一行も、ブルジョ地主の姿を見つけていた。
「皆さん……窓から顔出してるあれ、ブルジョ地主さんではなくて?」
「本当だ。なんか叫んでるな」
「ありゃあブチ切れとるな。帰ったら船免剥奪じゃ済まないの♨」
「であれば、私めたちも出禁でございますね。少なくとも『PSMC』は」
「できんって、なにー?」
「町村やイベントの出入りを禁止されることだぜ嬢ちゃん。もちろん俺もな。ま、プルタ避暑地でやってみたかったことはやれたし悔いはないさ」
「それもそうですわね」
グレストさんの発言に、アッハッハッと私たちは笑った。
「すっげえ自然についてきた!!!!!!」
そして今更過ぎる事実に、ジェックさんは驚愕しましたとさ。
「なんか流れで一緒に来ちまった。まぁ、乗りかかった船だし路銀も浮くから構わねぇさ。クリスクさん、護衛代を船代にさせてくれ!」
「いいよ♨」
「軽ッ!?」
「彼の言う通りですわジックさん。戦闘員は複数居てナンボですし、ミリさんのお紅茶でも頂くとしましょう」
「それもそうだ。さっきの海魔物が本格化するまで休めるだけ休もう」
言ってジェックさんも胡座をかいて、「1杯頼む」と要求した。
「適応早いな。ミリさんも紅茶セット何処から出したん?」
「手持ちの鞄から出しました。従者の超収納術ですの」
「明らかに収納できる大きさじゃなくね?」
「超収納術ですの」
リツさんは顔色一つと変えずに言い切る。このゴリ押しにグレストさんも「そうか……」と深い追求を止めたが、実際どうやって収納ってるんでしょう? 服一式から何まであの中ですし……?
「ところで……アンタらは何の集まりなんだ? 見たところ、ジック以外戦闘経験少ないだろ。ミリさんに至っちゃ従者と名乗ってたし」
「魔王城下町の幼馴染みですわ。私フィーナは名門貴族、ミリさん世話役、ホニョちゃんは私の愛犬。ジックさんは元魔王軍の兵士」
私は即座にでっち上げ、違和感ない程度に経歴を矢継ぎ早に捏造する。
「いつか旅したいねって語り合っていたところ、魔王軍兵だったジックさんが魔力放出制御不全に陥り解雇になりまして。私もちょうど不本意な政略結婚を迫られておりましたので、家出を機に勧誘して名前も変えて活動開始しましたの。自由もへったくれもない政略結婚から逃げたかったのと、無慈悲に解雇しやがったクソッタレな魔王から彼を一刻も早く引き離したかったので」
「だから『P・S・M・C』の受付でも『お忍び名義』言ってたんか。家出なら追手も有り得るしな。政略結婚とやらも魔王も碌でもねぇな」
グレストさんはすんなり信じてくれた。真実を一部織り交ぜた嘘が一番通りやすいとはこのことですわ。
「それでジックのヤツ、膨大な魔力を徒にアピってるわけだ。コンテストの時もエグいチラついてたぜ?」
「実際、前に暴発させて地面にどデカい穴開けちまったからな。どう放出しようかリハビリも兼ねて検討中」
「早いとこ治ればいいな。それで、そこの嬢ちゃんは?」
「道中の町で孤児院から引き取りましたムムちゃんです。世界巡りに興味があったようなので」
「道理で似てねぇもんだ。良かったな嬢ちゃん、父ちゃんと母ちゃんができて」
「12歳差の親子って居るものですの?」
「年齢差的に兄ちゃん姉ちゃんじゃね?」
「それもそうだ。悪いな嬢ちゃん」
「…………」
「嬢ちゃん?」
ルルちゃんは押し黙ると、私とジェックさんを交互に見やった。
それはもう、何回も交互に見やった。
そして、見やるのを止めて少し逡巡すると……──、
「…………ポッ」
何処か嬉しそうに、顔を赤らめたのだった。
「──ッ!!」
瞬間、私の脳裏をそれはもう素ん晴らしい見知らぬ記憶が駆け巡った。
「おい、どうしたフィーナ?」
「いえ、ちょっとムムちゃんとの5龍年間の思い出が一気に溢れてきまして」
「何? セルフ記憶捏造した?」
「何を言ってるのですかジックさん、私は確かにこの子を産んだ憶えがあるのです!」
「あー駄目だこりゃ。完全にイッちゃってるわ」
「イッちゃってるとはなんですか! ちゃんと認知してくださいよ!!」
「待ってそういう形で巻き込まれる?!」
「巻き込むも何も父親は貴方しか居りませんでしょう?! 私母親、ジックさん父親、ミリさん世話役、ホニョちゃんは犬! 父親ならしっかり責任を取ってくださいまし!!」
「疑問に思ってたよね?! 12歳差の親子は聞いたことないってさっき言ってたよね?!」
「この期に及んでまだシラを切りますか!! 12歳で出産だろうが愛は肉体年齢を超越するものですわ!!」
「駄目だ修正の域を超えている!! 誰かァ!! 医者を呼んでくれェェェェエ!!!!」
2人が騒いでる間に、グレストは寄ってきたホニョを膝に乗せつつ、リツに顔を向ける。
「アンタらって、いつもこうなの?」
「愉しいでございましょう?」
「いい性格してるぜ。ところでコイツ重くね?」
「ガブゥッ!!」
「あびゃすッ!!」
「平均より大柄なのだと思います。飼うのは初めてなので存じ上げませんが」
「そういうもんか」
「おぅい、オマエさんたち。そろそろ本番じゃあ」
ジェックさんを父親だと自覚させるべく激闘していると、クリスクおじいさんが戦闘再開の合図を送ってきた。
「海の生き物は潮の流れが激しければ岩の影とかでやり過ごすものじゃ。それは海魔物とて例外ではない。これの意味が分かるか?」
「……安全地帯を取り合う?」
そうじゃ──とクリスクおじいさんは首肯する。
「生存競争の極みじゃな。んで、安全地帯を追われた海魔物は当然他の安全地帯を得ようと躍起になっとる。それ即ち必然的に──、」
と、そのとき、海面が大量の水飛沫を上げ始め、そこからザバンッ──と何かが船へ飛び込んできた。
「先程みたく、この『快晴空間』を奪い取ろうとしてくる!!」
「タァァァァァイ!!!!」
「どぅゃぁぁぁァァア!!!?」
咄嗟に叩き落とせば、魚は「ブェェェ……!!」と断末魔を上げてやがて動かなくなる。
甲板へ飛び込んできたのは、逞しい腕を振り上げた魚だった!
「おじいさん! この魚なんですの?! すっげぇ気持ち悪いですわ!!」
「そいつは『ナグリタイ』! 密漁者から逃れたタイが拳で嬲られた怨みを晴らさんと辿り着いた姿じゃよ!」
「何ですかその人の業を煮詰めたような海魔物!?」
「じゃあじいさん、こっちはなんだ?! ぶっとい脚生えてんぞ?!」
「ジックの兄ちゃんが倒したのは『ケリトバシタイ』じゃな! 足蹴にされる仲間を見たタイが復讐を願い、その姿になったんじゃ!」
「人の業深すぎねぇ?!」
「ではクリスクさま、こちらの極端に大きな牙をお持ちのお魚さまは?」
「ミリ嬢ちゃんが蹴り落としたんは『カミツキタイ』じゃ! 身を噛み千切られながら逃げた怒りと屈辱で進化したんじゃと!」
「牙を取り除けば召し上がれそうですわね」
「ミリさん?」
「ホニョちゃんがやっつけたこのさかな、あごながいのー」
「離れるんだムム嬢ちゃん! その『ブッサシタイ』は伸びた顎で獲物を刺してくるぞ!」
「タイの進化多過ぎるだろ! ならクリスクさん、この疲れ切った目をしたタイは?!」
「もう『オワリタイ』♨」
「「「もうええわ!!」」」
しかし、名前に反して「タァァァァァイ!!!!」が収まる気配は一向にしない。リツさんが「料理に使いましょう」と回収した『〇〇タイ』も食べ飽きそうな量になりつつある。せめて別の魔物に出てきてほしいところだが……──?
「ぉおっとッ!?」
大きな振動が船を襲う。船を揺らせる程の巨体が船底にぶつかってきている!
「ムムちゃんとホニョちゃん、ミリさんと船内へ! 次はデカいです!!」
「もういるのー」
「イヌッ!」
振り返れば、リツさんは既に彼女たちをガッツリ抱きかかえて避難していました。先読み精度が高くて助かる!
「くるぞッ!!」
ジェックさんの合図とともに、海中に潜む巨大な影がザバァァァ……! と波を立てて姿を現した。
船を優に超える巨体だった。あまりの大きさにクリスクおじいさんが『風』を止めてなければそのまま激突して体勢崩してその間にバックンチョ、或いは鼻先から伸びた鋭利な巨大角で一気に薙ぎ払われていただろう。
「タイの大群を追いかけてきたか『一角海獣アッチョンバー』め! その角で突かれるんじゃないぞ!!」
「ヴィギャシャアアアアアアアアッッ!!!!!!」
吼えるアッチョンバーに、私たちは臨戦態勢を取る。
さぁ、ここからが本番だ!!
タイにも色んな種類があるなぁ……♨
次→明日『18:00』




