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第26話「出航作戦開始ですわ!」

前回のあらすじ!

「出航するには人目を掻い潜って、船着き場を通り抜けねばいかん。家で準備もしたいのう」

「なら私にお任せあれ!」


【プルタ避暑地での偽名】

姫……フィーナ

ジェック……ジック

リツ……ミリ

ルル……ムム

 船着き場……を通り抜けてかなり歩いたところ──。


「──ということで、おじいさんを送る体で家へ向かい、荷物を纏めて、船着き場を超えました!」


「「時を超越しやがった!!」」


 ジェックさん共々驚愕するなり、グレストさんは唖然とジェックさんに話を振る。


「凄ぇなお宅の経路(ルート)構築力。最短最速避難誘導員に一切遭遇()わずとあまりに滑らかな移動だったから、正直今も「あ、抜けた?」って感覚だわ」

「実際、地元でも度々家を抜け出しては城下町で遊んでたんだよコイツ。手段も富んでるから余計タチ悪い」

「クソガキやん」

「だからこそ(わたくし)たちは出逢えたわけじゃあないですか。あまり呆れないでくださいまし」

「こうやって開き直ってるし」

「であえたなのー」

「イヌッ!」

「子どもとイヌも味方につけちゃうし」

「ジックの勝ち目が見当たらねぇ……」

「勝つ気にもなれんわ。……で、ミリ。爺さんは大丈夫か?」

「ご安心くださいまし。心拍は落ち着いてきました」


 そうリツさんが話す傍らで息を整えるおじいさん。程なくして呼吸も安定して、流暢に喋れるようになった。


「いやぁ、凄いの嬢ちゃん方。気付けば家に着いて、気付けば船着き場を通り過ぎていたから、おったまげて息をするのも忘れてしまったわい」

「そこは忘れないでくださいな。こんな形で人殺しになりたくありませんわ」

「そこは心掛けとるよ。船乗りが死んでいいのは孫や曾孫の顔を拝んだ後の自宅のベッドの上だけじゃ」

「しっかり長生きしてますわね」

「そうとも言うの。さぁ、ここからは儂に任せんしゃい。パドックまで案内する」

「「「うーい」」」

「了解しました」

「なのー」

「イヌッ!」


 (わたくし)たちは各々返事をして、先行するおじいさんの背中を追いかけた。


 ◇ ◇ ◇


「これが儂の船じゃよ」

「「「「「おお〜〜……!!」」」」」

「イヌ〜〜……!!」


 隠された入口から進入したパドック代わりの洞窟で、(わたくし)たちは感嘆の声を漏らした。


 随分と立派な船だった。荷運びがてらざっと内部に目を通せば、20人どころか40人は余裕で乗り込めそうな規模で、定期的に来ているのか手入れも隅々まで行き届いている。

 そして、使い込まれた複数の古大砲に、甲板に出れば至るところに古傷が見られる。その様はまるで……──。


「漁船というより、戦闘船ですわね」

「じいさん。アンタ海洋冒険家だったりしたんか?」

「そうじゃよ♨」


 おじいさんはあっさり認めた。


「儂が船長兼舵取りとして船の安全を確保し、仲間たちが海の魔物や違法漁業者どもをエンヤコラと倒していく。あの頃は本当に楽しかった。もっと続けたかった儂の青春じゃ」

「続けたかったって……思わぬ解散だったんですの?」

「そうなんじゃ」


 おじいさんは甲板の上で、しみじみと洞窟の天井を見上げ……そして告白した。



「儂含め全員、陸の女とデキ婚しおった♨」



「聞くんじゃなかった!!」

「いやマジでびっくりしたわい。女房になる前の女房が身篭ったと言うから、ケジメとして脱退を申し出たら「んな偶然ある?」「実は俺も」「僕もですがな」「オイラもやんす!」と全員が同時にデキ婚したの暴露しやがったから、皆馬鹿だなぁと笑い合っての円満解散じゃった♨」

「「バーカバーカ何度と言うぜ! 心の底からバーカ!!」」


 野郎どもが暴言を吐き散らかし、何故かリツさんが膝を着く。


「ブブォッフォォオ! んフフフひひ……! フフフふひヒヒ……!!」

「ミリが笑ってる! 過去に類を見ないレベルでツボり散らかしてる! 何処だ?! 何処がツボだった?!」

「びゃー! おじいさんの初ツボ泥棒ー!!」

「オマエさんらも気を付けるんじゃぞ。身なりからして冒険者じゃろう? 冒険者からいきなりの転職は余程の特技がなければ難しいし、女房も身篭ってる間しょっちゅう具合悪くしとったからヒヤヒヤしたわい。まぁ、儂は船長兼舵取りの経験を活かして直ぐに転職してみせた貿易商船でガッポリ稼いで娘3人嫁がせて女房の墓参りしながら悠々自適の生活じゃ。ふぇっふぇっふぇっ♨」

「「うわーん人生成功過ぎてバーカと言えないよー!!」」


 野郎どもが超うるさい。


「それはそうと、おじいさん。ホテルで仰っていましたが、この嵐を()()()()呼ばわりできる手段とはなんですの?」

「あぁ、あれか。これじゃよ」


 そう言っておじいさんは「ほいっ」と甲板で踵を鳴らした。

 すると、おじいさんを中心に魔力空間が発生して船をすっぽりと包み込む。

 そして、魔力空間の内側に入ったザッパンザッパン激しい波打ちが、スン……と嘘のように穏やかとなった。


「ご覧通り、儂が作った『快晴空間』内にあるものは皆穏やかとなる。だから嘗ては悪気候もへったくれもなく出航できたんじゃ」

「すっごいあっさり高度な魔法使いますわね。……て、グレストさん?」

「ん? んんん?」


 (わたくし)はグレストさんの異変に気付く。おじいさんが『快晴空間』を出してからずっと顎に手を当てて唸っていると、やがて「あ!」と何かを思い出した。


「快晴冒険団!! じいさんアンタ、『快晴冒険団』のクリスクじゃねぇか?!」

「そうじゃよ♨」

「うっわマジか!? 会えるなんて思わんかった!!」


 グレストさんがこれでもかと高揚する。見るからに憧れの人物に出会った反応だ。


「グレストさん、その反応……有名なおじいさんだったんですの?」

「有名も何も、上澄みも上澄みだよ! このクリスクのじいさんが率いていた『快晴冒険団』の海魔物新種発見最高記録数は解散した30年前から未だ更新されてねぇし、密漁者の捕縛数だって治安団体からも一目置かれるレベル! そう元船員(クルー)ヴィーゴさんの伝記に書いてた! 因みに元冒険者の伝記では売上殿堂入り!」

「なんじゃアイツ、冒険団時代を本にしたためたい言うとったがそんなに売れとったか。モデル代寄越せ♨」

「殿堂入りとは凄ぇな。そら見た目はともかく、30年前の人物団体を知ってるわけだぜ」

「いや、えー!! うわ本物だ!! 握手してくれ!! あ、サイン貰っていいすか?!」

「え〜? バカ呼ばわりしといて図々しくな〜い?」

「すいませんでしたッ!!」

「いいよ♨」

「軽ッ!」

「もうすっかりファンボーイですわねー」


 グレストさんは当分マトモな思考は難しいでしょう。カバン蓋の裏に書かれたサインで舞い上がる彼のことは放っておいて、クリスクおじいさんに今後の予定を聞いてみる。


「ところで、出航タイミングはどうします? 荒波は『快晴空間』でどうにかなるとして、嵐の中の追い風ばかりは期待できませんわよ?」

「それも問題ないぞ。ほれ」


 おじいさんがパチンと指を鳴らすと、上下左右から強弱のついた風が指を鳴らす度に吹いてきた。


「儂、色々あって、魔法ふたつ持ち♨」

「「……」」


 (わたくし)とジェックさんは、未だ笑い転げているリツさんと今もカバン蓋の裏に見惚れてるグレストさんを各々落ち着かせながら、顔を見合せた。


 ◇ ◇ ◇


 プルタ避暑地、姫一行が泊まっていたホテルの避難誘導員・捜索員本部──。


「皆さん、クリスクさんとジック選手一行、グレスト選手は見つかったザマスか?!」

「まだです! クリスクさんのご自宅は誰も居ませんでした! 船着き場からも発見報告は来ていません!」

「自宅周囲と船着き場の捜索は続行! 取りこぼしのないよう隈なく探すザマス!」

「「「はっ!!」」」


 捜索員は返事して、本部を後にする。


「むぅ……ッ!!」


 ブルジョ地主は表向きは冷静に指示を飛ばしながらも、内心は酷く焦燥していた。


 クリスクさんに付き添う形でホテルを出たジック選手一行とグレスト選手の目撃情報。クリスクさんを自宅へ送ったと仮定して避難誘導員に様子を見に行かせましたが、未だ帰宅しておらず!

 即ち嵐の中で立ち往生の可能性大! そう踏んで捜索員総出で捜索していますが、一向に発見報告は寄せらせず、時間ばかりが過ぎていく!

 そんな中で思い出したクリスクさんの来歴。悪天候もへっちゃらで航海していたという伝記通りの彼なら「じゃあ自力で渡航するか♨」と思案してもおかしくない。中止したコルタス港町行きの乗船券購入者リストに彼の名前があった以上渡航予定だったのはほぼ確定だ。


 そして、航海便中止にぴーちくぱーちくブーたれてきたジック選手一行──。


 船長兼舵取りだったクリスクさんなら舵取りに集中すべく護衛を欲しがる筈。そこに実力者なのが見て分かるジック選手一行とグレスト選手が出会ったなら利害一致して悪天候航海決行(クソバカ)をしでかしかねない!

 なのに自宅にも、よく姿が目撃される地帯へ向かう際の通り道たる船着き場にも一向に姿を見せず! これに最悪の事態を考えずに済む方法を教えてほしいと眉間を摘んだそのときだった──。


「ブルジョ地主さま!」

「見つかったザマスか?!」

「はい! 外をご覧ください!」


 そう飛び込んできながら報告してきた部下が開けた窓から目を凝らすと──。


 出航即転覆しそうな嵐の中で、周囲が快晴同然の気候と化している船が全速前進していた。

 舵取りしているのは、案の定クリスクさんだった。

 船に飛び乗ろうとした海魔物を撃墜する者が4名、ジック選手一行とグレスト選手だった。

 どうやらとっくに避難誘導員の目を掻い潜っていたらしい。見事に出し抜かれたこの日のことは今後の教訓としよう。


 となれば、やることはひとつ──。

 私は海に向かって、手に取った魔力拡声石(マイク)を大音量で鳴らした。


「クリスクさん帰宅次第船没収ッ!! ジック選手一行とグレスト選手は『(プルタ)(シー)(マッスル)(コンテスト)』出禁ザマスッッッッ!!!!!!」

つーことで『プルタ避暑地編』完結です。少しでも笑っていただけたなら幸いです。

ついでに評価・ブクマ・リアクション・感想……あわよくばレビューをしてくれたら更に幸いです♨

それでは、また明日からもよろしくお願いします。マッスル!!


次→明日『18:00』

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