第25話「翌朝ですわ!」
前回のあらすじ!
『PSMC』完結!
【プルタ避暑地での偽名】
姫……フィーナ
ジェック……ジック
リツ……ミリ
ルル……ムム
そして、翌朝──。
姫一行は、ホテルのチェックアウトを済まようと受付ロビーを目指していた。
「いやぁ、素晴らしい料理バイキングでした♪ 料理が美味しかった宿泊先を5つ聞かれたら確実にオススメしますわ♪ ムムちゃんは何が美味しかったですか?」
「おさかな、おいしかったのー」
「じゃあ、次に行くコルタス港町でも魚料理を探してみましょう。名前からして新鮮な魚が期待できますわ♪」
「わーいなのー」
「ブルジョ地主さまが手配しただけあり、宿泊者へのサービスから宿泊部屋の手入れも隅々まで丁寧でございました。私め、色々と学びを得ました」
「防音設備もしっかりしてたもんな。おかげでぐっすり眠れたよ」
「ならもう少しはしゃいでも良かったですわね。他の宿泊者も居ります故『ホニョちゃん愛で』も控えめでしたから」
「それは自重してくれ。でも、犬猫連れ用の部屋があって助かった。動物可の宿泊施設ってあまり聞かないからよ」
「やはり目の届く範囲で寝たいですからね。ねぇホニョちゃん♪」
「イヌッ!」
腕の中のホニョちゃんが元気な一声を鳴らすとほぼ同時に受付へ辿り着き、手続きを済ませる。
「さて、チェックアウトも済んだことだし行くとしよう。まだ時間こそあれど、さっさと乗っとくに越したことはない」
「了解しましたわ。それはそうと、何故貴方が仕切っていらっしゃるのでしょうか? 今までもちょいちょい仕切っておりましたし、出発宣言云々は私の役目でなくて?」
「なんだオマエ、物事の中心は自分でありたいタイプ?」
「はい!」
「正直で好きよ俺。そりゃオマエ、乗船券は俺が手に入れ、このリゾートホテルも俺のおかげで泊まれたんだ。つまり今回に限りは俺がルールだ」
「魔王みたいなこと言いますわね貴方」
「前言撤回していい? するわ」
「駄ぁ目ですわよーだ! 一度ほざいたからには言葉に責任を持ちなさい!」
「嫌だ! 魔王と同類なんて勘弁だ! 幼稚な態度はオマエだけにしたい!」
「なんですとコノヤロー! 私にはしょっぺえ言動が許されると思っているのですか?!」
「うん!!!!」
「すっごい正直!!」
「オマエら、喧嘩するなら脇に退いてくれや。受付させてくれ」
「「あ、さーせん」」
「──て、あら……」
道を譲りながら、既視感のあるやり取りと聞き覚えのある声に顔を上げれば、そこに居たのはグレストさんでした。
「グレストさん。貴方もこのホテルでしたのね」
「ジックと大会を盛り上げてくれた副賞だってさ。ま、船代は自腹だけどな」
「そこは正々堂々だったので諦めていただいて」
「あぁ、ケチつけようってんじゃないんだ。審査員の判定に文句言う気は毛頭ないし、寧ろ抗議する奴が存在たらシバいてやるさ」
まぁ、強いて言うなら──と、グレストさんはジェックさんに顔を向ける。
「アンタとはいずれサシで戦闘りたいと思ってるぜ。冒険者としての戦闘欲がウズウズ湧いて仕方ねんだ」
「あら。でしたら今やってきてもよろしくてよ? 出航前には呼びますので、軽くで良ければ浜辺で手合わせするといいですわ」
「オマエが返事するんかい。まぁ、いいけどよ」
「? なんだアンタら、何も聞いてないのか?」
「? 何をですの?」
「あ、マジだなこれ。なら外を覗いてみろよ。百聞は一見にしかずだ」
「はぁ……?」
そう言われるので、外へ出てみると──、
「ぶえっ……!」
顔を出すや否や、私の顔は水浸しになりました。
外は暴風雨で大荒れで、海はドッカンバッコン荒波立っていた。
「あー、ひとがいるのー」
そんな空の下で、ブルジョ地主さんと複数名の付き人が、港から走ってきている船乗りを誘導している姿を見つける。
「はーい、皆さま! 外を出歩いている方は直ぐ最寄りの建物へ、宿泊者は宿泊施設から出ないようにしてくださいザマス! 乗船券の払い戻しは各宿泊施設の受付でしてほしいザマス!!」
「すいませーん! コイツら状況説明求めてまーす!!」
「おや、グレスト選手とジック選手とそのお連れの皆さま」
防雨外套に身を包んだブルジョ地主さんが、グレストさんの呼びかけで私たちに気付き、こちらへ向かってくる。
そして、私たちの前に立つなり深々と頭を下げた。
「申し訳ないザマス。ご覧の通り、突然の暴風雨は8日間は続く見通しと航海士が仰るので、大事をとって『豪華客船によるコルタス港町とプルタ避暑地の往復ツアー』は中止の運びとなったザマス。乗船予定だった方にはお詫びと避難も兼ねて、宿泊先で可能な限りのサービスを無料でご提供させていただくザマス」
「ツ、ツアー中止!?」
瞬間、旅路計画が瓦解する。陸路だと12日歩かねばならないところを5日で済むというからジェックさんを大会に参加させて乗船券をもぎ取らせたというのに、これでは踏んだり蹴ったりではないですか!
ジェックさんも同意見なのでしょう。彼も大慌てでブルジョ地主さんに無謀な説得を試みる。
「おいおいマジか! 俺たちコルタス港町へ急がなきゃならないってのに、なんとか抜け道はねぇもんなのか?!」
「知ったこっちゃねぇザマス! 悪天候で無茶をして生命を落とした船乗りやサーファーの話を私はウジャウジャ聞いているザマス! 人々の生命を守るためなら人々の予定なんて踏み躙ってやるザマス!!」
「チクショウ為政者の鏡ィ!!」
「とにかく! 私の目が黒いうちは8日間の出航は全て停止ザマス! 貴方たちも大人しく宿泊先でサービスを受けながら嵐をやり過ごすザマス! それでは失礼!!」
船を心配がってる人が来ないか見張っとくザマス──! そう指示を飛ばしながらブルジョ地主さんは去っていったとさ。
直後、私たちは「緊急会議!」とロビーに引っ込み、顔を寄せ合った。
「どうしましょう皆さん! 船ルートが完全に絶たれてしまいましたわ!?」
「こうなるなら最初から陸路で行くべきだった! 今からでもそうするか?!」
「ですがこの嵐です。陸路の方も悪天候でマトモな移動は見込めないと私めは思います」
「なんだアンタら、そんなにコルタス港町行かなきゃだったのか? さっきも急ぎだ言ってたし」
「それはその、うーんと……」
グレストさんからの質問に私は言葉を詰まらせる。普段なら息をするようにそれっぽくでっち上げられるのに、相当動揺しているのか思考が纏まらない。このままでは変に口走ってしまいそうだ。
そんなときだった──。
「あー。おじいさんが、あるいてるのー」
「「「「え?」」」」
ルルちゃんの声に視線を移すと……ホテルの前を、腰に手を回した船乗りのおじいさんがトボ……トボ……と歩いていた。
私は咄嗟にホテルを飛び出し、おじいさんの腕を掴む。同じ考えだったのか、ジェックさんとグレストさんもついてきた。
「おじいさん! 避難指示が出されております! どうか私とホテルの中へ!」
「おぉ、親切にどうも。しかし、突然の嵐には参ったのう。おかげでコルタス港町へ行けなくなってしまったぞい」
「爺さんもだったか。俺たちもコルタス港町行きの便がなくなって途方に暮れていたところだよ」
「お互いドンマイケルじゃのう。近々コルタス港町に住む孫の誕生日じゃから、今日出れば間に合う算段だったが、諦めざるを得んわい。嵐の海は魔物が増すからのう」
「そうなんか?」
「そうなんじゃ。いやはや、魔物をどうにかできるのであれば、この程度の嵐、余裕なんじゃがのう」
おおっと……?
「おじいさん。それは即ち、魔物への対抗手段が整っていれば出航できるってことでして?」
「そうじゃよ。けれど、儂はもう連戦できる歳じゃあない。仮に戦えても、パドック代わりの洞窟へ行くには避難誘導員が彷徨いとる船着き場を通る必要がある。どっちにしろ無理じゃのう」
おおおっと……?
「おじいさん。それは即ち、戦闘員が居て、且つ洞窟まで気付かれずに辿り着けさえすれば船を出せるということでして?」
「そうじゃよ。後ろの兄さんくらいの実力者なら申し分ない。パドックまでの道程も、船着き場さえ超えればどうにかなる」
「ではおじいさん。最後に聞きますが……その船、何人乗れます?」
「20人は余裕で乗れるのう」
それを聞いた刹那──、私の中の旅路計画がドガン! と噴火し再構築される!
「ではおじいさん! それらの条件を満たせるなら、乗せてもらってもよろしいでしょうか?!」
「いいよ♨」
「ありがとうございます!!」
これで出航の希望が見えてきた! 残すところは──!
「ジ──!」
「ホテルで多数欠をとる! 異論は認めん! 因みに俺は反対だ!!」
「サンクス!!」
私が振り返るなり、食い気味に妥協案を提示してくれたジェックさんに感謝を述べて、「ちょっとこちらへ!」とおじいさんをリツさんたちの元へ連れて行き、やり取りを説明する。
「あらしのなかのふね、きょうみあるのー」
「ということなので、私めも賛同致しますわ。乗船券の払い戻しもお済みです」
「イヌッ!」
「ヨッシャア賛成多数!」
「そんじゃあ、先ず家に立ち寄らせておくれ。食糧を持てるだけ持ち出す。戦闘と家までの道程、パドックまでの道程は任せたぞ」
「任せてくださいまし! プルタ避暑地の抜け道は昨日のチェックイン後の散策で全て把握しておりますわ!」
「ならよい。では住所を教えるから耳を貸しとくれ」
「了解ですの!」
こうして、プルタ避暑地無断出航作戦が始まった!
──ジックの連れ、とんでもねぇな。
──もう諦めてる……。
──そこシャラップ!!
悪童、始動──!
次→明日『18:00』
 




