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第23話「予選ですわ!」

前回のあらすじ!

開会式。


【プルタ避暑地での偽名】

姫……フィーナ

ジェック……ジック

リツ……ミリ

ルル……ムム

「さぁ、皆さまお待ちかね! 参加者が続々と集まり、間もなく予選が始まろうとしています!」


 司会の声に伴い、筋肉自慢が次々と入場してきて位置につく。オーソドックスな巨漢筋肉からしなやか筋肉とまちまちだ。


「あー、ジック(偽名)さんだー」


 ルルちゃんの声が届いたのか、ジェックさんが手を振り返してくる。特に恥ずかしがってる様子もないのがちょっと悔しいが、一心不乱に臨んでくれるならまぁ良いだろう。


 そして、カウントダウンが鳴り響き──、


 ──3!

 ──2!!

 ──1!!!



「──マッスル!!!!」

「「「「「オオォォォォオオォォォォオオオ!!!!」」」」」



 ()()の筋肉男女が、一斉に浜辺へ駆け出した!


「んふははは!!」


 この大騒ぎな光景に、(わたくし)は思わず吹き出してしまった。駄目だ、もう面白い。

 今日まで想像もつかなかった筋肉の嵐。視覚情報全てが喧しくて、ジェックさんに至っては相変わらずフルフェイスマスクなシュールさも相まって、それが失礼ながら面白くて仕方がない。面白いんですが……笑って大丈夫ですわよね?


「さぁ、圧巻過ぎる筋肉たちのスタートダッシュにちょっと笑えてくる『(プルタ)(シー)(マッスル)(コンテスト)』予選・プルタトライアスロンが始まりました! 司会は私、マッスル・マウスがお送りいたします!」


 杞憂で済みましたわ。良かった。


「それはそうと! どうしてコンテストでありながらトライアスロンを予選に組み込んでいるのかと気になっている方も居ると思いますので、早速説明していただきましょう! 企画者のブルジョ地主さま!!」


 魔力拡声石(マイク)を手に取ったブルジョ地主は「理由は単純明快ザマス」と言い切って、続ける。


「筋肉とは努力の結晶! 努力で培った筋肉であるならば、どれだけ酷使しようとも真なる輝きを放つもの! 海龍さまに捧げるのも憚られる見てくれだけの筋肉では、荒波に耐え切れず打ち負けてしまうザマス! なれば先ずはトライアスロンでふるいに掛けて、しっかり鍛え抜いた本物の筋肉を選出するザマス!!」


「ということです! ありがとうございました! そうこうしているうちに、早速第一関門『ビーチフラッグ』に先頭組が突入だ! 5つしか立っていないフラッグを取り損ねれば最後尾から再挑戦しなければならない! ここで参加者は早速ふるいに掛けられるゥ!!」


「デリャァァア!!」

「チョイヤーー!!」


「それを最初に取ってみせた2人はジック選手とグレスト選手! 歳若そうな筋肉が早くも激突だァ!!」


「良いですわよジックさーん! そのままぶっちぎってしまいなさいなー!!」

「いえ、フィーナ(偽名)さま。それは時期尚早みたいですわ」

「え?」


 リツさんの()に首を傾げていれば、どっ──! と浜辺から歓声が上がる。

 見れば、煌びやかな金髪ロング尖耳族しなやか筋肉男性が、ジェックさんたちに引き続いてフラッグを獲得したところだった。


「2人から程なく3人目の突破者となったのはビレイケ選手! 陽の光に反射せし美しき金髪と、天が与えた美麗面(イケメン)! 更にはしなやか筋肉で美麗極まれりィィィイッ!!」

「「「「「キャーーーーーーッ!!!!!!!!」」」」」


 観客への金髪ロングアピールを欠かさぬビレイケ選手に女性たちから色めき立った歓声が飛ぶ。どうやら俗に言う()()()のようですわ。

 ……ビンタしたいですわぁ。


「あのビレイケ選手、叩けば良い声で泣きそうでございます」

「あ、ミリ(偽名)さんもそう思います?」

「絶妙に腹立つ美麗面(ツラ)だと、私めは思います」


 (わたくし)たちは静かに握手した。


「さぁ、続いての第二関門は『流木運び』! 悪天候の際に流れてきたりする『なんかいい感じの流木』を競技用に加工したものをジック選手とグレスト選手、少し遅れてビレクト選手と立て続けに背負って運び始めます! 再利用で環境にも優しいです!!」

「何処の筋肉を必要とするのか、持って初めて分かるのが運搬というもの。真に鍛えている方ならあれくらいの流木へっちゃらザマス!」


 そうブルジョ地主が解説した通り、大勢が運び方で難儀しているようで、後方がつっかえてきている。あれならジェックさんは上位2人以外に追われる心配はないが、これもそうはいかない。


「あぁーとッ! ここで更なる刺客が現れたァ! その名はドボスコス・ボブ! プルタ避暑地が誇る交易運搬業者ドボスコス・ボォォブ!! 参加者随一の大巨漢が、誰よりも逞しい優しき背中で流木を赤子のようにあやし、圧倒的な力強さで砂を鳴らして後方から追い上げるゥゥゥゥウッ!!」

「「「「「ボォォォォォォブ!!!!!!」」」」」


 思わず名前を呼びたくなるドボスコス・ボブさんが流木を苦にもせず運ぶ様に、漁港関係者と思われる観客男性陣が雄叫びを上げる。にしても、本当にデカいですわ。


「あら、いい背中」

「おやミリさん、ああいう逞しい殿方が好みなのですか?」

「あの逞しい上腕二頭筋と大胸筋でハグされてみたいですわ」

「ですわ口調で(へき)の話をされるとは思いもしませんでしたわ」

「へきってなーにー?」

「10歳以上になると分かりますわ」

「なるへそー」


 ルルちゃんはそれだけ聞いて「わー」と予選に熱中する。5歳から癖話は流石に英才教育が過ぎますことよ。


「さぁ、予選も佳境! 最終関門『水泳』へ突入しようとしています! 先頭は変わらずジック選手とグレスト選手、それに続く3番手はビレイケ選手! その後ろから『流木運び』で一気に上位十名にくい込んできたドボスコス・ボブ選手と、走者上位半数が固まってきたァ!!」


「「ジェヤアァァァアァァアッッッッ!!!!」」


「そして今! 先頭両名が海に飛び込んだァ! 泳ぐコースは指定されており、そこを外れると左右前後不覚と見なされ失格となります! そうなったら体力が有り余っていても会場のスタッフが救助に向かう取り決めとなっているので悪しからず! 安全第一で泳ぎましょう!!」

「過去にも、ふらふら泳いでる選手を観察してみたら、足を攣っていた事例があるザマス。なれば泳ぐ余力が残っていてもコースアウト即救助体制となっているザマス!」

「とのことです! 逆に言えば、コースアウトすれば直ぐに救助スタッフが駆けつけてくれるということなので、体力の限界を感じたら無理せずコース外をめざしてください! 安全第一で泳ぎましょう!!」


「ブルジョ地主さま、安全管理を徹底しておりますね」

「問題が起こってからでは遅いですからね。最善は無傷ですがそれがほぼ不可能である以上、軍でもよく『どれだけ問題を最小限に抑えられるか』を議題に挙げてますことよ」


 実際、軍人にとってどうしても「あ、駄目だこれ」と直感する戦闘があると聞く。そういう時は決まって「被害を最小限に撤退する」ことを即断即決せればならないから、ブルジョ地主の少々やり過ぎに思えるくらいの備えが寧ろちょうど良いのだ。


 そして、それをちっとも気にしていないだろうジェックさんとグレストさんのクロール対決は終盤に差し迫っていた。


「やるじゃねぇかジック! 長いこと旅をしてるが、ここまで俺と競り合えるヤツは珍しいもんだ!」

「こっちの台詞だ! 生命の張り合い以外でこれほど必死こくのは久しぶりだよ!」

「ならもっと全力引き出さねぇとな! 簡単に置いてかれんなよッッ!!」

 

 言って、グレストさんはクロールからバタフライへ泳法を切り替える。ビッタンビッタン疲れるだけのイメージたるこれがすっごく速かった!


「なっ……!?」

「おおっと、ここに来てバタフライを始めたグレスト選手が急加速ゥ! これにジック選手は思わず──?」


「負けるかァ!!」

「怯むことなくクロールのギアを上げたァ! 最後の一騎打ちに観客席が怒号のような声援を飛ばしています! 果たしてどっちが勝つのか?! ゴールはもう目と鼻の先だァ!!」

「頑張りなさいジックさん! あと少しですわよーーッッ!!」

「頑張ってくださいましー」

「がんばえなのー」

「イヌーーッ!」


「「ダリャアァァァアァァァアアッッ!!!!!!」」


「さぁ、遂にグレスト選手が浜辺に到着してゴールテープへ駆け出した! ジック選手は遅れて上陸しますが充分に追いつける距離! 果たしてどちらが一着の栄光を掴み! 掴み? 掴みィィィィイッ!!!?」


「しゃぁぁぁぁぁぁあああッッッッ!!!!!!」


「グレスト選手が、ゴールイィィィンッッ!!!! ジック選手を僅かながらも引き離し、逃げ切ってみせたァァァァアッッ!!!! これが予選だと忘れてしまう大白熱を提供してくれた両名に、皆さま拍手をお願いしまァァァァす!!!!」


「「「「「オオォォォォオオォォォォオオオ!!!!」」」」」


 観客たちが大地を揺るがす大喝采を巻き起こす。

 そんな中、ジェックさんがグレストさんに歩み寄り、手を差し出した。


「決勝では負けねぇ……!」

「それでこそだ……!」


 2人は握手を交わした。

 2人の間に、確かな友情が芽生えた瞬間だった。


「さぁ、他選手も続々とゴールし、上位8名が決まりましたので、これより15分間のトイレ休憩とさせていただきます! 5分前になったらまたお知らせしますので、遅れないように注意してください!」


「だそうですわ。ミリさん、ムムちゃん、今のうちに行っておきましょう。本命の決勝に出遅れたら勿体ないですわ」

「そうですわね。ところで、ひとつよろしいでしょうか?」

「なんですか?」

「ドボスコス・ボブさま……帰ってきてなくないですか?」

「あら?」


 言われてみれば、ボブの姿が見当たらない。明らかに決勝へ進むだろう雰囲気を醸し出していたボブの不在に周囲もおや? と首を傾げていれば、観客の1人が司会者に問う。


「なぁ司会者。ドボスコス・ボブが居ないようだが、何かあったか?」

「救助スタッフから遠い位置で足を攣って溺れかけた女性選手の救助を優先してコースアウトしたそうです!」

「「「「「ボォォォォォォブ!!!!!!」」」」」


 予選歓声一番のボブコールが、会場中に響き渡った瞬間だった。


 因みに、後日ドボスコス・ボブは救助した女性選手から熱烈アプローチを受けて交際に発展。1龍年後には結婚したそうな。


「知るか!!」

水着女性のセクシーより、水着男のバカ騒ぎを書きたいです♨


次→『18:00』

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