第22話「開会宣言ですわ!」
前回のあらすじ!
イベントにジェックを参加させた(無断)。
【プルタ避暑地での偽名】
姫……フィーナ
ジェック……ジック
リツ……ミリ
ルル……ムム
「わー。ひとがいっぱいなのー」
浜辺に着くなり、ルルちゃんが声に出す。
イベント会場となっている浜辺は、既に多くの人で賑わっていた。あまりの混雑っぷりに、ルルちゃんとホニョちゃんに至っては抱っこしてないとはぐれてしまいそうですわ。
「ムムちゃん、ジックさんに肩車してもらってください。ミリさんは、ホニョちゃんをお願いしますわ」
「わかったー。かたぐるましてなーの」
「おう、しっかり掴まってろよ」
「かしこまりました。ホニョさま、私の腕の中へ」
「イヌッ!」
両者共々素直に応じてくれる。人混みの中での聞き分けの良さは本当にありがとう。
「しかし、色んな人が来てるもんだなぁ。関係者から観光客まで。こういうの縁がなかったもんだから、軍の集会と違って変にソワソワしちまう」
「イベントとは多種多様な民だけでなく、色んな業界人が招かれてるものですわよ。ほら、あそこの関係者席にも、如何にもブルジョワ〜なツインお団子サングラスドレス尖耳族女性が居りますし」
「特徴全部盛りで言語化するなや。情報過多にも限度があるんだよ」
「じゃあブルジョ」
「どうして途中で力尽きたんだよ。ワまで貫いてやれよ」
「わがままですわね貴方」
「わがままなのー」
「俺が悪いの?」
「御二方、そろそろ始まります故、清聴いたしましょう」
「「うす」」
リツさんに窘められ口を閉ざすや否や……程なくスタッフが登壇し、綺麗に加工された魔力拡声石で元気良く声を響かせた。
「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます! 早速ですが、開会のご挨拶に移ろうと思います。イベント主催者ブルジョ・ウワ地主さま、お願いします!」
そう司会者か仰ると、先程例に挙げたブルジョワ〜な(割愛)尖耳族女性が起立し、魔力拡声石を受け取った。
「ホントにブルジョだったよ」
「みらくるなのー」
「ドヤァ……!」
「うるせぇよ」
そうこうしているうちに、ブルジョ地主が登壇し、丁寧に一礼すると、魔力拡声石を厳かな声で鳴らした。
「皆さま……現在、魔界と人間界は戦争をしているザマス」
──しん……。
この開口一番に、参加者・スタッフ関係者全員が畏まる。
「多くの生命が失われているのに今こうして楽しんでいるのは不謹慎ではないか? 明日は我が身ではないか? 戦争から逃れられないと示唆するばかりに地図の発行が停止されたのもあって、そう不安を抱く方も少なくないザマスでしょう」
たまたま近くに居たグレストさんが「地図売られてねぇの、やっぱそういうことか……」とボヤく。地図について心当たりあるようだ。
これに釣られて周囲の顔色が悪くなっていく。いつ戦争に巻き込まれるやもしれない現状を再認識してしまっている。
すると、ブルジョ地主は「だからこそッ!」と不安を掻き消すように叫び、私たちへ訴える。
「だからこそ、私は娯楽を求めるザマス! 人が最も恐れるべきは生命を失う以上に、人目を気にして笑顔を失うことで日々の彩りを損ない、終には心身を壊して生涯安らげなくなってしまうことザマス!」
「……そ、そうだ! 俺たちゃ塞ぎ込むより楽しみたい!」
「戦争なんかの思い通りにはならないぞ!」
ブルジョ地主は「それでこそザマス!」と上機嫌に中指を立てた!
「なれば不謹慎上等! 戦争への最たる抵抗は笑顔を生み出してやること! 人々の笑顔を、心を守るためなら、私は娯楽を催すザマス!」
そう言って、ブルジョ地主は魔力拡声石を通すことなく、声高らかに宣言する!
「今だけは不安を差し置き、戦争クソ喰らえ! と楽しもうではありませんか! PSMC開幕を、ここに宣言するザマスッ!!」
──わっ!!
ブルジョウ地主の宣言と同時に、とめどない拍手が会場を包み込む。その拍手は収まる気配を見せず、彼女が壇上を去ってからも暫く続いていた。
「めっちゃ名演説だったなぁ」
「どうましょう、ブルジョ地主さんのこと、もう好きですわ。戦争終わらせたら、ワンチャン対談を実現したいくらいに」
「めっちゃ気に入ってんじゃん。しかも終戦宣言とは大きく出たもんだ」
「目標はどデカくですわ。祖国後継者として、私たちのくだらない戦争を次世代に持ち越す気は毛頭ございませんことよ」
「違いない。んじゃ、参加者の誘導も始まったようだし、行ってくらァ」
「行ってらっしゃいまし〜」
「いってらっしゃいなのー」
「どうかお気をつけて」
「イヌッ!」
◇ ◇ ◇
「あーなるほど。そういうことか」
そして、ジェックは誘導先で手渡されたものを見て、姫が何故イベント内容を黙っていたのか、それを見事察したのだった。
フィーラのことだから、俺の「遊ぶどころかゆっくり眺める暇すらなかった」発言から、まともに装着したことないコレでちょい照れすると踏んだのだろう。アイツのことだから俺のちょい照れを愉悦くろうという魂胆だ。実際、初めての姿ってソワソワするよね。
「おいおい、何を固まってやがるんだ?」
色々と憶測を立てていれば、グレストが話しかけてくる。振り返ると、彼は既に準備を終えていた。
「今更怖気付いたってんなら辞退を進めるぜ。自信失った状態で臨むほど無謀なこともねぇからな」
「いや、出ると決めた以上は出るよ。というか怖気付いてたんじゃなくて、やっと予選内容を察して面食らってたんだ」
「なんだよ、参加しといて内容知らなかったんか? 申し込み用紙にも書いてあったし、ああいうのはざっくりでも目を通すもんだぜ?」
「俺が確認する前に申し込みされてたんだよ。さっきケンカしてた連れの女に」
「結構悪魔だなアンタの連れ」
「否定はしない。ま、未経験ってわけでもないし、経験不足はフィジカルでどうにかしてみせるさ」
「随分自信ありじゃねぇか。それでこそ張り合いあるってもんよ」
「抜かせ、返り討ちにしたらァ」
こうして準備を終えた俺は、なんか律儀に待ってくれてたグレストと待機場所へ移動した。
ところで……グレストの距離感って、初対面だよね?
初対面からいい具合に距離詰めてきて馴染んでくる人って居るよね。
次→明日『18:00』




