第21話「イベント受付ですわ!」
前回のあらすじ!
プルタ避暑地到着。エイジンの行方聞き込み。
【プルタ避暑地での偽名】
姫……フィーナ
ジェック……ジック
リツ……ミリ
ルル……ムム
プルタ避暑地灯台──。
その下で行われていたイベント受付に並ぶ人々を誘導している尖耳族スタッフを見つけると、私が声をかけるよりも早く、向こうから笑顔で近寄ってきた。
「ようこそプルタ避暑地へ! イベント受付ならこの列だけど間違いないかい?!」
「合ってましてよ。ところでお聞きしたいのですが、今日いっぱい船便を停止しているというのはどうしてでしょう?」
「あぁ、知らずに船を利用しに来ちゃったのかい。そいつは運が悪かったね。今日は見ての通りイベントでね、皆『海龍さま』に一目見てもらおうと全力だから、船なら近場のホテルで一泊して待つのをオススメするよ」
「海龍さま?」
「おや、旅のお姉さん知らないのかい? お姉さんくらいの歳なら知ってると思うんだけど……?」
ヤッベ、失言した。
世間一般的には私は世のあれこれを大体知っているお年頃。下手に魔界の世間知らずを露呈すれば変に印象が残ってしまう。
そうなっては、後からプルタ避暑地を尋ねてくるだろう魔王軍に「そういえば、妙に世俗に疎そうな子が……」と追跡材料になりかねない。急いで弁明しなければ!
「かいりゅうさまって、なにー?」
──と、誤魔化しに適した言葉を大急ぎで纏めていたら、これから知見を広げていくだろうルルちゃんが興味を持って質問してくれました。ナイスですわ、ありがとう!!
「あぁ、お嬢ちゃんは初めてかい? なら一から説明しようか!」
これにスタッフは違和感を抱くことなく応じてくると、こほんっ──と喉を鳴らして語り始めた。
「僕たちは魔神さまを崇めているけど、創造主は別に存在する。それが龍さ! この世界の大地、海、空はそれぞれ『地龍』『海龍』『空龍』が生み出したとされていて、その海龍さまが初めて作った場所がこの『プルタ内海』と言い伝えられているんだ!」
此処、内海だったんですのね。
魔界にも、外海・内海があったんですのね。
雲の上を誘拐ばれてきたとはいえ海を見かけなかったのは真夜中若しくは寝ている最中に渡洋したからでしょうか?
……改めて魔王、鳥魔族さんにとんだ無茶させてましたわね。
「そんな海龍さまは『荒波に負けないよう肉体を鍛え抜いた者』を祝福すると言い伝えられていてね、それで始まった催しがこの『P・S・M・C』さ!! 特にそこのお兄さんは鍛えてるみたいだし、興味を持ってくれたら嬉しいね! 飛び入り参加OKだからさ!!」
確かに筋肉量的に参加するならジェックさんが適任だろう。しかし、これを聞いたジェックさんは聞く耳持たない。
「つっても、俺たち急ぎ西南西に向かわにゃいかんのよ。どうするフィーナ、遠回りになっちまうが陸路行くか?」
「あら、西南西に行きたかったの? だったら尚更参加しなきゃ!」
「と言うと?」
これに私が問い返すと、スタッフは待ってました! とばかりに宣伝する。
「何を隠そう、今回の優勝賞品は『豪華客船による内海往復ツアー』の無料チケット! チケット1枚につき5人までなら乗船可能だし、その中にペットが居ても大丈夫! たくさんの美味しい料理を無料で食べられるし、しかも停泊する対岸はお姉さんたちが目指す西南西の町『コルタス港町』! 陸路だと南から12日は移動しなきゃいけないところを半分未満の5日で済むから、優勝を目指してみる価値はあるよ!!」
「5日!」
私は思わず声を張り上げる。出港日までを含めても6日で到着、しかもその間は豪華客船でくつろげるとは破格極まれりですわ!
これにはジェックさんも「ほぉ……!」と関心を寄せる。
「コルタス港町まで半分の日数、且つその間船内で身体を休められるのは有難いな。実際、チョモ村からここまで毎日歩いて来たわけだし、俺はともかく皆は脚休めたいよな。しかも豪華客船とわざわざ銘打ってるくらいだから食事には当然困らないとして、それなら近々心配になってきた路銀もかなり節約出来るから、1日犠牲になるとしてでも出場する価値はあるんだけど勝手に書かねぇでくれねぇかなぁフィーナてめぇコノヤロウッッ!!!?」
ジェックさんが私の偽名を出して声を荒らげる。彼がリスク・リターンを整理している間に私が出場申し込みを手続きしていたからだ。もちろん、ジェックさんのプルタ避暑地限定の偽名『ジック』で。
これに私は何食わぬ顔で応じる。
「移動時間を縮められるなら大いに越したことはないですし、その間をまったり休息できるなら尚更ですわ。それに私たちの中だと貴方しか参加条件の『筋肉自慢』を満たせてませんし」
「そうだけど! そうだけど!! こういうのは話し合って決めるもんじゃん!! 俺が参加するのは異論ないけど、当事者ガン無視で進めることじゃないじゃん!!」
「結局出るならどっちにしろですわよ。それに何より、貴方が出たら面白くなりそうですわ!」
「よぅし、ちょっと港の端っこに立て! ジャーマンスープレックスでオマエごと海に落ちてやる!!」
「嫌ですわよ! 落ちるなら貴方だけ落ちてくださいまし!!」
「おまえが落ちることに価値があるんだよ! オマエだけびしょ濡れにならないことに感謝しながら落とされやがれ!!」
「御免蒙りますわァァァアッッッ!!!!」
「なぁ、アンタら。喧嘩すんなら砂浜でやってくれや。受付させてくれ」
「「あ、さーせん」」
喧嘩してたら、後から並んできた黒眼族の旅人風装備の金属棍棒お兄さんに怒られた。
私たちは脇に退いて旅人風お兄さんに道を譲る。
「「!!」」
そこで私は、ジェックさんと同時に気付く。
「ジックさん」
「ああ……アイツ強いぞ」
視界に収めた黒眼族旅人風金属棍棒お兄さんは凄まじい魔力を放っていた。チョモ村で共闘した誰よりも力強く、もし本人がその気になれば訓練を積んだ新米軍兵複数人をも一度に倒してしまえるだろう。しかも余裕で。
「おお、実力はしっかり把握できるか」
黒眼族旅人風金属棍棒お兄さんは聞こえていたのだろう、受付を済ませるなり私たちに振り返る。
「さっき路銀がどうのと呟いてるのが聞こえたが、俺も内海を渡りてぇし、手持ちが心許ない身なんだ。ここでの手合わせは叶わねぇが、勝ちを譲る気は毛頭ないぜ」
黒眼族旅人風金属棍棒お兄さんは、ジェックさんと視線を交わす。背丈はジェックさんの方が僅かに高いが、五十歩百歩といったところ。
「俺の名前はグレスト。そっちは?」
「此処ではジックだ。お忍び名義で名乗らせてもらう」
「構わねぇさ。それじゃあジック、アンタがカナヅチでないことを願うぜ。決勝で会おう」
そう締め括って、グレストさんは浜辺方面へ向かう人混みに紛れて姿を消したのだった。
「……ジックさん」
「だな。今まで以上に臨まねぇとだわ」
「よろしい」
と、ここまで言ったところで「ん?」とジェックさんは首を傾げる。
「ところでフィーナ、グレストがカナヅチ云々言ってたが、イベントの内容は? おまえが勝手に手続きしてたから、俺知らねぇぞ? 決勝言ってたが、予選が何回かあるのか?」
「予選は1回ですが、貴方なら大丈夫ですことよ。さぁ、もう開会式が始まるみたいですし、皆さん行きましょう!」
「かしこまりました」
「いくのー」
「イヌッ!」
「何か隠されてる気がすんだよなぁ……」
ジェックさんは疑念の視線を向けてくる。
しかし、それ以上の追求をしてくることはなく、私たちは開会式場が行われる浜辺へ足を向けた。
あ! 好敵手フラグだ!!(こういうの好き)
次→明日『18:00』




