第2話「タミテミですわ!」
前回のあらすじ!
「脱走しましたわ!」
「姫さん誘拐したエイジン探して祖国の方角聞き出そう」
「となれば、先ずはアレだな」
「どれですの?」
魔王城を脱走したところでそう切り出してきたジェックさんにそう私が返しますと、「その合いの手は要らない」と彼はぶった切って、続けます。
「1日ほど西へ行った所に『タミテミの町』っていうそれなりに大きな町がある。先ずはそこを目指してエイジンが来なかったかの聞き込みをしよう。先刻も言った通り鳥魔族は目立つから、立ち寄らなかったとしても空を横切ってたなら覚えてるハズだ」
ここで私はある疑問が湧き、挙手をする。
「質問よろしくて? ジェックさん」
「しょうもなくなければ」
「鳥魔族は目立つと仰られますが、魔族方は人種が多いと聞く割に社会進出が少ないのですが? そこら辺いまひとつピンときてないですことよ」
「なんて?」
「つまるところ姫さまは、鳥魔族の社会進出がどれだけ珍しいのかを知りたいそうですわ」
「要約感謝します世話役どの。今後とも要約すべきか判断していだたけると助かります」
「ちょっとジェックさん今馬鹿にしましたか私のこと?」
「うん」
「むき〜〜ッッ!!」
これに腹を立てて護身術指南役仕込みの百裂拳を繰り出そうとした私。しかし、彼は片手で私の頭を掴み上げると「せっかくだから、一から説明しよう」と移動を始めながら口を開きました。
「まず初めに、魔界には魔族が住んでる訳だが、その魔族にも多種多様な種族がある。俺のように角が生えてる『角魔族』。世話役どのみたく耳が尖ってる『尖耳族』に、他は......今はいいか。そして鳥魔族エイジンのように動物的特徴が色濃く現れてる『獣人族各種』といったところか」
「その動物族各種の社会進出が珍しいのは何故ですの? 多種多様なら地元に限らずあちこちに暮らしてるのではなくて?」
「大前提として自然での暮らしで事足りてるんだ。結果として飛行移動が中心、或いはのびのび走っていたい獣人族にとって建造物や曲がり角の多い町は煩わしいだろうし、同様にストレスだ。だから住処の森が燃えたとか余程の生活苦じゃなければ無理に社会進出する必要がない。因みにもっと珍しいのが植物族だな。光合成が基本の植物族にとって日当たりの悪さは致命的だからな」
ほーへーはー。
「つまるところ、動植物族にとって地元を出るメリットが少ないから、必然的に社会進出してる総数が少ないのですわね!」
「すげぇ要約されたなぁ」
「仕返しですわ。レロレロレロ」
「投げるぞ?」
「すいませんでした」
ジェックさんは咳払いをして、「と、まぁこんな感じか」と結論付けて解説を終えた。
「それじゃあ、説明も終わったし、さっさと村目指すぞ。魔王城は犬猫追い払うのに2〜3日はてんてこ舞いだろうが、脱走したばかりなんだし、捜索網拡げてくるのも時間の問題だ」
「でしたら、その前に着替えを推奨いたしますわ。王族衣装と世話役服と兵装は色々と目立ってしまうでしょうから。姫さまには必然的に私めの私服を着てもらうことになりますが、サイズなら問題ないでしょう」
そうリツさんは提案しながら、手に提げてる大型鞄をアピールしてきましたわ。
私は、現在の姿で町村を出歩く様を想像してみました。
──ママ〜。おひめさまとメイドさんとたたかうさんとワンワン歩いてる〜。
「......絶対目立ちますわね」
「だな。じゃあ二人は今のうちに着替えてこい。俺は見張っとく」
「あらジェックさん、貴方は着替えないのですか?」
「俺は町に着いてから装備一新するよ。小規模の町でも武具屋くらいあるだろうし、鉄も素材になるから買い取ってくれるハズだ」
「でも、言うて魔族兵装は目立ちますし、足音がガシャガシャうるせぇですわ。せめて脚だけでもメイドスカートで隠してみては如何でして?」
「要らん要らん要らんそんな気遣い。異性に自分の服着られるとか世話役どのが嫌がるだろう」
「私めは構いませんわ」
「そこは抵抗してください異性として。仮に履いたとて想像してみ? メイドスカート履いてる甲冑男なんてパーリナイの悪ふざけでも目を疑う見てくれだぞ?」
私たちは『メイドスカートを履いた甲冑姿のジェックさん』を想像してみます。
──おかえりなさいませっ、お姫さまっ!!(キャピッ☆彡)
「気色悪いことこの上ないですわ!」
「目潰ししてやりたくなる腹立たしさですこと」
「イヌァァッッ!!」
「想像の中の俺何したの?」
「ごめんなさいジェックさん。言い出しっぺの私が悪いのは承知ですが、着替えてる間は死角に居るよう徹底してくださいまし」
「視界の片隅にちょっとでも入ったらグーパンしてしまうやもしれません」
「シャアッッ!!」
「何したのーーーーッッ!!??」
◇ ◇ ◇
翌日、日中──。
ということで、タミテミの町に着くなり武具屋へ直行した私たちはジェックさん厳選のもと冒険者風の装備を購入。その後は装備を新調すべく今も店内に居るジェックさんを隣接している広場で待っておりました。
しかし、戦闘を職としている兵士としての性でしょうか、中々出てくる気配がありません。なので私たちは──、
「ホニョちゃア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ん!!!!!!」
「イヌッ!」
「愛らしいですわ、愛らしいですわ」
「イヌッ!」
ひたすらホニョちゃんを愛でておりましたわ〜〜ッッ!!
あぁホニョちゃん、貴女はどうしてこうも愛おしいのでしょう?! このつぶらな瞳、この少し上向きの口角、このフカフカの毛並み、このちょっと短くて小さな足に、このプニプニした微笑ましい肉球!! なんならこの爪すらも可愛いですが流石に切り整えましょうそうしましょう。
「こちらの爪切りをどうぞ。抑えるのは私めにお任せを」
「ありがとうございますリツさん。ホニョちゃん、暫し我慢してくださいまし!」
「イヌッ」
「あらぁ〜〜良い子ですわ〜〜〜〜ッッ!!!!」
抵抗せずに爪を切られてくれるだなんて、なんと聞き分けの良い子なのでしょう!! やはりこの子は天才秀才超神童!!
「はいホニョちゃんお疲れ様でしたそれでは行きましょうご褒美にオヤツを在庫切れまで買い尽くしましょうね〜〜〜〜ッッッッ!!!!!!!!!!」
「止めなさい」
「ぐえっ!!」
最後まで我慢してみせたホニョちゃんを抱っこして雑貨屋へ足を向けた瞬間、ジェックさんの声と共に奥襟を掴まれましたわ。
「ちょっと何するんですか私は今からホニョちゃんのご褒美を買いに行く使命があるんですことよ!」
「買いすぎたら痛むまで保存するやつが出てきて、ホニョが食べれなくなっちゃったの見て落ち込んじゃうでしょ! だからホニョの食費に関しちゃ俺が財布を握る!」
「任せます!!」
「即断じゃねぇか自身に見切りつけるの! というか武具屋まで聞こえてきたぞ姫さんの溺愛大騒ぎ。愛でるのは構わねぇが少しは自重しろや」
「ちゃんと声量下げてましたわよ──!」
──ワンちゃア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ん!!!!!!!!!!
──ホニョちゃア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ん!!!!!!
「──くらいまでは!」
「五十歩百歩!!」
「それはそうとジェックさん、貴方ガラリと変貌しましたわね。顔晒してないのは変わりありませんが」
彼の片手剣装備は超一転。走る度ガッションガッション音を鳴らす全身鉄装備の重装兵から、腰巻き外套に、腕と膝関節部のみ鉄装備の軽装兵となっていましたわ。あとカパカパ開閉するタイプの兜は、サイコロの『6』みたく空気孔を開けたフルフェイス。
そんな極端な装備切り替えに、私は思わず問います。
「防御面、大丈夫ですの?」
「全部躱すか防げば問題ない。俺ならやれる」
「ならばよいですわ」
「理解ってもらえて何より。それと、ほい」
と、彼は左手に持っていた物を掲げると、それを私の頭に乗せてきた。
「どうしましたの、これ?」
「角型カチューシャだ。査定を待ってる間、店内を彷徨いてたら奇跡的に姫さんと同じ金髪色のを見つけた。角カバーも付けといたから、当面は角魔族と誤魔化せる筈だ」
おぉ、なんと素晴らしい気遣い。
「ナイスセンスをありがとうございますわ。ところでジェックさん、私たちに言うことがあるんじゃなくて?」
「何のことだ?」
「私たちの服装ですわ。さんっはいっ」
リズムに合わせて私とリツさん、右足を軸にくるりんぱっ。
ポニーテールに髪を纏めた私はさすらいの槍使いみたいな装いで、機動性を重視したロングズボン。故に鉄装備は胸当てのみですが、それでも軽い素材のを選んでくれましたわ。
対して、弓手スタイルのリツさんは左半身側のみの胸当てと、変わらずのロングスカートながらスレッドの入ったタイプで典型的な遠距離支援風。髪も散らばらないようにルーズサイドテールにしておりす。これらに対してジェックさんは──、
「そういや触れてなかったな。動きやすそうで良いじゃないか」
「60点」
「なんて?」
「ちゃんと服の利点を上げたのは善しですが、可愛いかとか美しいかとか何処がどう似合うかを挙げるんですわ! それが出来れば40点追加の100点満点! さんっはいっ!!」
「知らんよォ! そんなの知らんよォ! 服は着れれば良いとしか考えたことないから似合うとか知らないよォ!!」
「なんですとぉ!? 貴方は美しい可愛いカッコいい素敵の感性四拍子を育んでこなかったというのですか!? 私の城下町の愉快な仲間たちと服飾店に行った際にはきゃ〜可愛い〜似合う〜! って互いを褒めちぎり合っては感性四拍子を互いに鍛え上げてきたものでしてよ!!」
「別に良いじゃん! 俺は俺! 姫さんたちは姫さんたちで楽しめればそれで良いじゃん! イヌは微笑ましいのが分かれば良いように、最低限の情報さえ分かればそれで良いじゃん!!」
「なら許します!」
「許すんかいッ!」
「おひめさまなのー?」
「「ドゥワァオ!!??」」
突如幼き声に話しかれられ、私とジェックさんは飛び退きます。
振り返ると、5歳未満だろう黒眼の少女が、こちらを見上げておりました。ビックリしましたわ!
というか、この子の眼はどうして黒いのでしょう? 内緒話の声量でジェックさんに問うてみます。
「ジェックさん、あの子の眼、隅から隅まで黒いですけど何かの病気じゃありませんわよね? だとしたら早いところ医者を探さねばなりませんわ......!」
「黒眼族っていう、生まれつき眼球が黒い魔族なんだ。病気の兆候とかじゃないから安心してくれ」
「なら良いですわ」
病気でないなら一安心。ほっと息をついて、私はずっとその場で疑問の解消を待っている少女と目線を合わせます。
すれば、少女は先程と同じ質問をしてきました。
「おねえさん、おひめさまなのー?」
「えぇ、そうですわ。お仕事で魔界に来た別の国のお姫さまでして、今からお家へ帰るところですの」
「そっかー」
少女は納得いった様子で返事をすると、じっと私と見つめ合います。会話を終えるか続けるか逡巡しているみたいですわ。
私は何も言わずに、彼女の次の言動を待ちます。
暫くすると、彼女は口を開きました。
「わたしはルルなのー」
自己紹介でしたわ。そう言えば名乗ってませんでしたわね。
「私はシーラです。お友達からはフィーラと呼ばれておりますわね。貴女からもそう呼んでいただけると嬉しいですわ」
「フィーラさーん」
「ありがとうございます。これで貴女と私はお友達ですわ」
「ともだちなのー」
ルルちゃんは嬉しそうに目を細めると、ホニョちゃんに気付いて「ワンワーン」と駆け寄って撫で始めました。あら可愛い。
幼子と犬……正直いつまでも眺めていたい組み合わせですが、それをグッと我慢して、ホニョちゃんに夢中になっているその隙にジェックさんとリツさんを手招きして顔を寄せ合いヒソヒソヒソヒソ......。
「ということでお二方、今更ではありますが、今後は私のことを町村に居る時だけでも『フィーラ』と呼んでくださいまし。たまたま姫呼びを聞いてたのが帰省中の魔王軍兵士でしたはマヌケ過ぎますわ。それとリツさんへの『世話役』呼びもなしで」
「だな。呑気に姫呼びしてそれを周囲に聞かれて、追跡ってきてるだろう魔王軍に情報を与えるほど馬鹿なこたァねぇや。俺たちも愛称の体で偽名使うわ」
「尽力いたしましょう。ところで一つよろしいでしょうか?」
「なんですのリツさん?」
「その周囲ですが、やけに人通りが少ない気がするのは、私めの気の所為でしょうか?」
「うん? ……あ」
言われて初めて気付きます。周囲が静かすぎますわ。ホニョちゃんの可憐さに気を取られてましたが、かなり大きな町で日中にも関わらずルルちゃん以外の人気を感じないのは違和感甚だしいですわ。
……なんか、事件いますわね。
三人での内緒話を切り上げ、私はルルちゃんに問います。
「ねぇルルちゃん、外を出歩く人をさっぱり見かけませんが、これから雨だったりしますの?」
「ちがうのー。おおきいのがいるから、だれもあるかないのー」
「大きいの? それってどういうヤツだ?」
「しんぷさん、いってたのー」
ルルちゃんは変わらずホニョちゃんを撫でながら、続けます。
というか、神父と言ってる辺り、恐らくは孤児ですわね……。
「まちのそと、たまにくるおおきいのがまたでてきて、あぶないの。だからまおうぐんにやっつけるよう、ちょうちょうさんがいつもおかねあつめて、たのんでるのー」
大きいの──もしや魔物のことでしょうか? 人間界に限らず、魔界でも魔物問題は起こっているのですね。
「あとねー、ちょうちょうさんも、ビョーキなのー」
「病気?」
「ビョーキなのー」
ホニョちゃんを撫で続けながら、ルルちゃんは続ける。
「こわいのまたでてきてから、ちょうちょうさん、またぷくぷくおおきくなってるのー。あんなにおおきくなっちゃうのは、きっとビョーキなのー」
魔物が出てきてから、町長がまた肥満体化なってる? 居場所が脅かされて、ストレス痩せしているのではなく?
……きな臭ぇですわね。
「ジェックさん」
振り返れば、彼は確信を持って頷き、小声で断言します。
「少なくともここ1龍ヶ月、タミテミの町へ魔王軍が派遣された話は聞いてねぇ。魔物討伐依頼が届いたって話もな」
「分かりましたわ」
私は「ルルちゃん」と声をかけ、彼女に告げます。
「よろしければ町長さんのお家への道を教えてくださいまし。何を隠そう、こちらには戦闘と医学の心得があるのですわ。ね、ジェックさんにリツさん♪」
「うん?」
「! えぇ。私め、医学に精通しておりますの。町長さまの病気に関しては是非お任せを」
「おい? おーい?」
「じゃあ、おねがいするのー。ちょうちょうさんのおうちは、あっちをまっすぐいった、いちばんおおきいおうちなのー」
「ありがとうございますわルルちゃん。それと診にいっている間、ホニョちゃんを預かってておくんなまし。もしかすれば夕方まで診察するやもしれませんし、私たちが帰ってくるまで一緒に遊んでいただけますと幸いですわ。ホニョちゃんもいい子にしていますのよ」
「いいよー」
「イヌッ!」
「おーい!?」
「それでは行ってきますわ。お二方、行きますわよ」
「了解でございます」
「おーーーーいッッ!!??」
こうして私たちは、ホニョちゃんを抱きかかえるルルちゃんに見送られる形で、慌てて追いかけてくるジェックさんを全力で無視して町長の家を目指しますとさ。
子どもと犬が戯れる動画はなんぼあってもいい。
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第3話→本日『14:00』