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第19話「龍命人ですわ!」

前回のあらすじ!

温泉満喫♨

 その金髪騎士は、勇ましく森の中を駆けていた。

 その短髪騎士は、だだっ広い人間界で馬を走らせていた。

 けれども、その中肉中背の前進に迷いはなかった。肉眼で目視できない高さで誘拐されたシーラ姫がどの方角へ連れ去られたのか、確信を持って進んでいた。その者でなければ叶わない足取りだった。


 そう、姫を想いながら泣き喚くその姿はまさに──、


「姫さまア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 忠誠心が天元突破しすぎて超新星爆発してしまった、脳味噌丸焦げ通り越して炭の騎士のそれだった。


 そんな騎士に、後方から続く女性が2人──。

 2番目で馬を走らせている、おめかしバッチシスタイル抜群長身赤髪ギャルピッピ軍人は声を張って叫ぶ。


「ちょっとレイン! そんなに急いでたら馬が保たないよ! もう少し速度落としてあげな!!」


 これに続き、最後尾から2人を追う、垂れ糸目の茶髪ゆるふわボブカット小柄女性が軍人に有るまじきおっとりした声で呼びかける。


「遠征用に品種改良されたお馬さんでも体力はあるからね〜。お馬さんが居てくれてこそのフィーラ姫ちゃん救出遠征だよ〜」


「分かってます! 分かってますよ!! この平原超えたらちゃんと休めますよ!! それでも、それでもッ……! 姫さまア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「ウマァァーーーーッッッッ!!!!??」

「ウママァァーーーーッッッッ!!!!??」

「ギョエーーーーッッッッ!!!!??」


「あぁ、馬たちがパニクった! 落ち着けどうどう!!」

「馬は耳が良いからね〜。レイちゃんの水平線まで轟くハイパーボイスを間近で聞けば三半規管も超振動(バイブレーション)だよ〜」

「それは誇張が過ぎる……よね……?」


「ごめんなさい馬さん一旦離れます! これを機に進路確認してきます!!」


 レインは即座に下馬して、少し距離を取った場所で垂直に超跳躍する。少しすれば地上からは見えない位置まで跳躍し──、


「見えた!」


 落下を始めながら、空中に漂う姫君の微かな魔力の残滓を、その目でしかと捉えた。


 残滓はまだ、北東に続いていた。


 レインは落下の衝撃を完全に殺して地上に着地して、ちょうど馬を落ち着かせたところの幼馴染み2人に伝える。


「姫さまの魔力の残滓はまだ北東に続いています! 馬の休息終わったらこのまま目指しましょう!」

「了解だよ〜。レイちゃんの超視力ホント助かるよ〜」

「改めてなんで見えんのさ。姫ちゃんが誘拐されたの9龍週間前だってのに」

「逆にどうして見えないんですか?」


 レインが真顔で問い返してくる。これを『龍命人の因果』関係なくやってるから忠誠心とは恐ろしい。


「でもおかげで、フィーラ姫ちゃんがこっそり垂れ流してくれてた魔力の残滓を追えるからね〜。これがなきゃ、フィーラ姫ちゃん奪還遠征、もうしばらく先だったよ〜」

「その上で無断出発かましたのがレインだけどね」

「寧ろ7龍週間我慢したのを褒めて欲しいです! 本当なら姫さまの魔力の残滓を見つけた時点で出発したかったんですよ?!」

「その残滓を見れるのがレインだけだから「レインが負傷離脱(ダウン)したら途絶える軌跡一つに依存できない」って国王さまが懸命に目撃情報集めてたんじゃん。結果として無駄だったけれども」


 実際、他の手掛かりを得られなかったからこそ「急ぎレインと合流して娘の元を目指せ! こちらも軍を編成次第追う!」と馬を出されたのだ。でなれけば減給は確定として謹慎処分どころじゃ済まない。


「だからこそ早急に姫さまの元へ向かわねばならんのでしょう! きっと陰湿で狭い牢獄に囚われてるに決まってます!(※真っ当な部屋で丁重に扱われてたし、もう脱走してます)」

「でも姫ちゃんのことだから何かしら逃げる算段は立ててるんじゃね? 残滓だって、私らといち早く合流するためだろうし」

「シリスさん的にはそれでも急ぐに越したことはないですよ! 国王さま夫妻と引き離されて、きっとひとりで寂しい思いをしてる筈ですし!(※仲間作って元気にやってます)」

「フィーラ姫ちゃんのことだから、きっと何人か懐柔してると思うよ〜。私たちも、フィーラ姫ちゃんを通じて出会ったんだし〜」


 少なくともレインは、フィーラ姫ちゃんことシーラ姫が何処からともなく連れてきてつるむようになった人物だ。それを思えば姫が繋いだ縁は計り知れない。


「そうは言ってもマリナさん! 姫さまは美しいお方ですから道行く先々で不埒な男に目を付けられたっておかしくないです! 最悪複数人からその……なんだ……乱暴されてるかもしれないでしょーー!?(※世話役(メイド)と結託して兵士(おとこ)の服を剥ぎ取ろうとしています)」

「雑か表現」

「仕方ないよ、レイちゃん乱暴系はてんでダメだもん。この前だって乱暴系読んじゃって寝込んだし」

「だからオキニの恋愛小説、最新刊読むなり泣く泣く処分してたのか。前巻から『ヒロインの哀しき過去』って仄めかしてたもんね」

「でもアレ、ゴブリンの生態描写はいい加減だったよね。屈辱的な落書きはしてくるけど、●●行為云々の被害は聞いたことないのに」

「あ、マリナその単語は──」


「ぐあああああああああああッッッッ!!!?」


「泣いちゃった!」

「不憫だわぁこの子……」


 大の字になって泣き喚くレインを2人して宥める。この子は愛情表現として書かれたものは平気だが、乱暴表現として書かれたものには拒絶反応を起こしてしまう。その類が書き連なってたことで相部屋から姿を消した小説は数知れずだ。


「見つけたぞォ!!」

「!?」


 マリナの膝枕でやっと落ち着いてきたところに、目に見えて野盗そうな男たちが現れる。周囲の気配を探ると更に7〜8人は隠れていた。

 奴らは下卑た感情を抑えようともせず口々に告げてくる。


「騒がしい声がするから来てみれば大当たりだァ! 有り金と装備置いていきなァ!」

「もしくは俺らの相手してくれたっていいんだぜ?! 最近はご無沙汰だからよ!」

「おっと、軍人みてぇだが抵抗はやめておけ? 数ではこちらが圧倒的有利! 武器を取れば余計に痛い目見るだけサバンッッ!!!?」


「「あ」」

「「「「「え?」」」」」


 相対していると、野盗の1人が宙高く浮き、不時着して、動かなくなる。

 野盗が元いた場所には、拳を握りしめたレインが立っていた。


 レインは、乱暴表現を頗る嫌う。そのレインの前で乱暴行為を事実上宣言するということは──、


 レインの逆鱗に触れると同義である!!



「死ねェェェぇェエエェエエェエエェェエエェええぇえぇァァァアァあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁあッッッッッッ!!!!!!!!!!」



 レインは瞬時に剣を抜いて、野盗の蹂躙を始める。こうなってしまっては疲れ果てるか野盗全員倒れるまで止まらないので──、


「マリナ、レイン止めるよ。森が死ぬ」

「了解、森は任せて」


 マリナが取り出した双槌を「コォン……!」と奏でた途端、周囲の木々1本1本が魔力壁(バリア)で覆われる。双槌を『2本の魔法杖』に見立てて「なら魔法効果も倍増かも〜?」と解釈したことで見事有言実行してみせた彼女だからこそ行える超高度魔法だ。

 シリスは抜剣して、我を失い暴れ回るレインの剣技をひたすらに防ぐ。3人の中で特に祖国の遊戯(チョケパンポン)をやり込んでいたシリスの動体視力があってこその防護で、一撃一撃を丁寧に捌きながら隙を狙い──、


「そこっ!!」

「あオッ!?」


 斬撃の合間を縫って、レインの股間を引っ(ぱた)いたのだった。

 するとレインは暫く悶えた後に「あ、えっ……?!」と嘘のように大人しくなる。暴走したレインは股間を(はた)かれるくらいの衝撃を受けないと正気に戻らないのだ。

 シリスは戸惑いの表情を浮かべるレインを横目に、ざっくりと周囲を見回すが、野盗の尽くが気絶していた。奇しくもマリナの魔法で致命傷を逃れたようだが、手足を失ってる者もちらほら居り、当分は幻肢痛に悩まされること必至だ。

 その中で、腰を抜かして()()()()負傷を免れた野盗の前に立ち、漏尿の臭いを払いながら蹴り倒して剣を突きつける。


「ヒイッ!?」

「南へ下った先にある町で自首するか、ここで手足を失って野垂れ死ぬの、どっちがいい?」

「ぜ、前者! 前者でぇッッ!!」

「なら仲間の手足縛ってから行きな。大至急!!」

「は、はいぃッ!!」


 野盗は自身の失禁も厭わずに仲間たちから服を脱がせては縄代わりに拘束していく。これで付近の野盗騒ぎは当分落ち着くだろう。

 ということで、マリナに再度膝枕されて落ち着いたレインに合流する。

 レインは涙目で、すっかり意気消沈していた。


「すいません……、奴らの言葉を聞いてたらグスッ……姫さまがヒグッ……乱暴されてる姿が過ぎっちゃってエッグ……そしたら……頭の中が滅茶苦茶になってぇぇ……!!(※世話役(メイド)ごと温泉に投げ落とされてはいる)」

「いいんだよ、成り行きとはいえ結果的に野盗を懲らしめれたんだから。ただ少し想像力豊かすぎるから、下賎な輩の言葉は聞き流すようにしようね。ああいう奴らの言葉なんて大概内容もへったくれもないんだからさ」

「はいぃ……」


 レインは聞き分けよく返事をするが、経験上、コイツのことだから今後もしでかすだろう。まぁ、そのときはまた止めるまでだ。


「さて……、なんだかんだで時間使ったし、そろそろ出発しますか。馬たちも充分休めたっしょ」

「そうでした! そもそもが馬の休息目的でした! 野盗なんかで時間を浪費している間にも姫さまがお腹を空かしているかもしれません!!(※ルルの「おひるごはんはー?」で昼食準備に乗り出してます)」

「早いな調子戻るの」

「でも、これがレイちゃんらしいよ〜」

「それじゃあ、シリスさん、マリナさん行きましょう! 姫さま奪還遠征再開です!!」

「その前に、私たちも最低限食べるよ。流石にお腹空いたわ」

「イイイィィイイイイィィイイッッッッ!!!!!!」


 龍命人レインの不服極まりない、声にならない抗議の声が森の中でこだました。


 ◇ ◇ ◇


 一方、姫さま一行──!!


「喧嘩してる間に火が消えてますわ!!」

「クソがァ!!」

「マジヤバくねー?」なギャルにする気でいたら一言目でツッコミ役と化しました。おのれ龍命人。


次回→明日『18:00』。

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