第17話「後日談②ですわ!」
前回のあらすじ!
ヌシやっつけた。
大活祭終了から6日後──。
「あ、おーい! こっちだよー!!」
チョモ村に魔王軍が到着したと連絡を聞き、私は応対すべく東門に向かっていた。
東門で待機している姿を見止め、手を振って呼びかける。
すると、特に目立つ兜の兵士が私の前に出てきたかと思えば兜を外し、ぺこり──とお辞儀した。
「アイラ前世話役長、お久しぶりです! ご壮健そうで何より!」
「その風貌……カーシーか! そっちこそ死滅らずに元気そうじゃないか。十龍数年ぶりかい?」
「17龍年以来となります! 当時の自分は10歳の訓練兵だったので! 魔王子さまのお世話の傍ら、管轄外の自分たちまで気にかけてくれてたのをよく覚えているので間違いようがありません! 孤児の訓練兵も多かった中、本当に母親のようでした!」
「だとしたら悪いことしちゃったね。あの時は急に私が辞めたものだから皆動揺しただろう?」
「確かに自分含めて長期間落ち込んでましたね。あの時の出来事は『魔王TKO事件』として裏で語り継がれておりますよ」
「不祥事だねアンタら」
「いいんですよ、理由を思えば、魔王さまにブチ切れるのも納得ですもの」
──魔王TKO事件。
世話役長時代に魔王の阿呆陀羅を周りが止めに入るまでボコボコにした事件だ。当然、私は即日解雇になったが後悔はしていない。ちょうど産休を検討していた頃で寧ろ潮時だったのだ。
「だって聞くところによると魔王さま、アイラさんが世話役を勤めてた当時3歳の魔王子さまが「弟妹欲しい」と仰るなり頭ごなしに泣かせといて、自身は隠し子作ってたそうじゃないですか。しかも、その不倫相手が「子ども認知しろやぁ!!」と襲撃こんできた際も養育費払うだけ払って無理矢理帰らせたって話ですから、そら解雇上等で殴るよなと今なら思いますよ」
「話しすぎだよ。アンタのおしゃべりは昔から変わってないね」
「失敬、再会に舞い上がってたようで。まくらもこれくらいにして本題に入りましょう。現場への案内お願いします」
「分かった。ついておいで」
村内を移動しながらもカーシー始め大勢の兵士が「この顔に覚えはありますか?!」と私に話しかけてきた。全員面影を残しつつも立派に鍛えられており、元世話役長として喜びもひとしおというものだ。
しばらく歩いて現場に着くなり、カーシーは「わぉっ」と声を上げる。防衛砦は解体工事が進んでいて、同時に村人総出で温泉整備に勤しんでいたからだ。
「どうしたんですかこの温泉? ここ対魔物大行進の砦と耳にしてましたが? ……あぁ、チョモ村では大活祭でしたっけ?」
「その大活祭で掘り当てちまってね。最初は取り敢えず溢れないようにしよう程度の工事だったが、ネッカが「温泉で商売できるかも?!」って直ぐに施設化に乗り出したのさ。全く商魂逞しいよ」
「それで魔王軍に伝書鳥飛ばしてきたんですね。確かにこれは人手が必要だ。にしてもどうやって掘り当てたんです?」
「魔力砲台でドッカンさ。そういうことでまだまだ人手は欲しいし、魔王の溝滓への追加人員要請頼んだよ」
「あぁ、なーる。でも人手の追加は難しいかもですよ?」
「それまたどうしてだい?」
訊けば、カーシーは「お耳を失礼」と顔を寄せてきた。
「ここだけの話、魔王城から人間界の人質が逃げまして、今現在追跡中なんです。つい最近も『タミテミの町』で町長の不祥事調査に足止め喰らって、簡単に人手を割くわけにはいかないってのが魔王軍の現状です」
「何やってんだい魔王の糞呆けは。人間界に自己顕示欲丸出しの戦争吹っ掛けといて、しょうもないったらありゃしないよ」
「実際早く終戦しないかな……って空気が一部で広がってますわ。それで、例の人質なんですが、なんでもその隠し子たる軍兵と世話役とワンちゃんを連れてるそうなんです。タミテミからは幼子を連れている可能性もあります」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出る。先日の旅人一行を思い出したからだ。
一人は、両眼を魔力で覆った、角黒眼族の嬢ちゃん。
一人は、「わぁ、温泉だ♪」と現実逃避しながら花粉症なった、魔力が尋常でない角魔族青年。
一人は、やたら世話役時代を思い出させる口調の尖耳族の嬢ちゃん。
一人は、黒眼族のおチビちゃん。
そして、魔界犬……──。
……なんだろう、猛烈に嫌な予感がする。
「アイラさん? どうしました?」
「……! いや、まさかあん時の隠し子が出てくるとは……ってね。その一行の特徴は?」
「人質はシーラという人間界の姫で、角型カチューシャを購入して角魔族に扮してる可能性があります」
うん?
「隠し子軍兵はジェックという角魔族で、世話役はリツという尖耳族、幼子はルルという黒眼族、ワンちゃんはホニャちゃんという可愛いポメラニアンです」
おん?
「そして、武具屋の売上履歴からして、片手剣、槍、弓矢を所有している模様です」
「………………」
私は天を仰いだ。かの一行と結構特徴が被ってるからだ。
随分と「ですわ!」「でしてよ!」とお姫さま口調だった角黒眼魔族の槍使いフィーラ。
軍兵だったならあの実力にも納得のいく片手剣使いシック。
弓術歴は浅いと断言していた、世話役を彷彿とさせる口調のナノ。
そして──、黒眼族のルルちゃんに、魔界犬ホニャちゃん。
…………アイツらだね。
名前は違うけど、多分あの一行だね。
少なくともルルちゃんとホニョちゃんは、疑う余地なく同一存在でいいね。
武器もモロかぶりだね。
フィーラが両眼に纏ってた魔力も、一行の誰かが魔法を隠し持ってて、それを使って黒眼族に擬態したと仮定するなら筋が通るね。
うん……脱走中っていう一行に違いないね。
ま、だからといって、魔王に協力してやる筋合いないけど。
「アイラさーん?」
「! いやぁ、話に似た一行を今朝方見たなぁと」
「本当ですか! その一行は何方へ行ったか分かりますか?!」
「西門へ向かってったが、そっからは知らないよ。西かもだし北西かもだし南西かもだし更に細かく言うなら……」
「ざっくり分かれば充分です! 目撃情報が今朝ならまだ離れてない筈ですから、当分は此処を拠点に捜索させてください! もちろん、その間の滞在費は支払いますし、ご協力できることがあれば何なりと!」
「なら今来てる兵士7割の貸出と追加人員派遣を要請するよ。温泉開発に乗り出すためにも、今はとにかく人手が欲しいんだ」
「こっちが人手割けないって話聞いてました?!」
「魔王の下衆を気遣う筋合いないよ! 話聞けないってんなら魔王の実話に基づいた風評被害拡散するって伝えときな!!」
「うわーん訓練兵の実質母親代わりが脅迫してくるよォーーッッ!! ママァーーーーッッ!!!!!!」
これで当分の間、魔王軍はチョモ村付近を重点的に探すようになる。そうなれば5日前に出て行ったフィーラ一行は更に距離を稼げるって寸法さ。魔王側に情報提供は不本意だが、下手に誤魔化して不審がられた末に何も知らない村人へ聞きに行かれて「5日前に南西へ進んで行った」と悪気なく暴露されるよか余程マシだ。
彼女らが目指すのは当然人間界として、どのようにして向かうつもりだろうか? とりあえず、南西へ進んでいったあたり、次に辿り着くだろう『プルタ避暑地』で情報収集か。
どうか無事に逃げ延びれますように──。子を持つ母親として、そう祈るばかりだった。
因みに1龍年後、ネッカ主軸の温泉事業は大成功を収め、花粉症に悩む魔物たちも湯浴みに来てはスッキリして立ち去るようになり、魔物大行進が終わりを告げることを、現在のチョモ村は知る由もない。
◇ ◇ ◇
一方、その頃──。
「あら、此処にも温泉が湧いてますわ!」
「大活祭で掘り当ててから地中が刺激されたのでしょうか? こんなに温泉を見つけるの、私め、初めてですわ」
「どうぶつさん、はいってるのー」
「なら人体への影響も少ないだろうよ。ちょうど昼時だし、火起こしできそうな場所もある。火の準備しとくから、プルタ到着前の景気付けに入浴しとけ」
「ヨッシャアですわ〜〜ッ!!」
「イヌッ!」
アイラの祈りなど知ったこっちゃなく、姫さま一行は野生の温泉を満喫していた!
ということで、『チョモ村編』終了です。面白かったら評価・ブクマ・リアクション・感想・あわよくばレビューしてくれたら嬉しいです!
それでは、また明日からもよろしくお願いします!!
次→明日『18:00』




