第16話「悪魔ですわ!」
前回のあらすじ!!
ジリ貧になってきた。
【チョモ村での偽名】
姫……フィーラ
ジェック……シック
リツ……ナノ
ルル……ルル
「ホニョちゃア゛ア゛ア゛ア゛アん!!!??? 何処行くんですのオオオオオ!!!???」
自分でも信じられない声量で名前を叫ぶも、ホニョちゃんは構わず戦場を駆けていく。
そして……やっと止まったかと思えば、今度は地上を跋扈していたオオカミ型魔物──ショッキングウルフのリーダー格へ鳴いた。
「イヌッ! イヌイヌッ!!」
「ウルフ? ウルフウルフ」
「イヌイヌ、イヌイヌイヌッ! イヌイッヌ!」
「ウルフ、ウルフフフ」
「イヌッ!!」
「ウルフッ!!」
ショッキングウルフはヌシの方へ踵を返すと「アオーーン!!」とオオカミたちの統率を始め、ヌシの足指に向かって「オンッ!!」と咆哮を放った。
次の瞬間──、ヌシの足指が波打って爆発する! 突然の足指破裂にヌシも「オオオンッ!?」と堪らず歩行を止めた!
魔力を乗せた咆哮で対象者の血管を膨張させて破裂させる、ショッキングウルフの得意技ですわ! ホニョちゃんと会話するなりこれを放ったということは、そういうことでしてよ!
「アイラさーん! ショッキングウルフの群れが協力してくれてるうちに、ワンチャン倒せる一手考えましょー!!」
「分かってる! もう向かわせた!!」
そう仰る彼女が示した先には魔力砲台を目指す村人たちの姿。魔力砲台がちょうどヌシと向かい合う位置に設置させているのは「これが破壊されたら村は終わり。だから壊させてたまるか!」という決意表明でしょう。
「ボオオオオオオオオッッ!!!!!!」
「あちゃちゃアチャ!!!!」
だがしかし、無抵抗に攻撃されまいとヌシは火球を吐いて進行を妨害する。あれでは迂闊に攻撃準備を整えられない!
かといって強行すればそれこそ狙い撃ちされるのがオチだ。どうにか隙を作らねば! 何かヒントは無いか?!
「何ィ!? そいつは本当かワンコ!!」
と、あれこれ思案していると、応急処置を済ませて戻ってきたブレードハッピー・ウォーリーさんが、いつの間にか保護されていたホニョちゃん相手に仰天していた。
「なんてこったよ! そういう理由で逃げてきたんなら俺はヌシを恨めねぇよ!!」
ウォーリーさんは何も言えない表情で地面を叩く。これにアイラさんはすかさず反応して問いただした。
「ウォーリー! アンタは言語通訳できる魔法を持ってたね?! そのワンちゃんが何を言ってんのか教えな!! ヌシは何から逃げてきた!?」
「あぁ、聞いてくれアイラさん! このワンコ曰く、ショッキングウルフはヌシから逃げてきたわけだが、そのヌシも逃げてきた身なんだ!!」
そう言ってウォーリーさんは、ヌシを指差し、砦中に聞こえるように叫んだ。
「ヌシはギス花粉に耐えかねて、ちょうど向かい風に位置するチョモ村側へ逃げ延びようと必死! つまりヌシは──花粉症だッッ!!!!!!」
「「「「「え?」」」」」
あまりに素っ頓狂な真相に、私たち皆は言葉を失う。
そんな中でもアイラさんは遠眼鏡を覗き込み……一度天を仰いでから、声を大にして私たちへ告げた。
「…………目元、めっちゃ腫れてる!」
「「「「「えええぇぇぇぇえええ!?」」」」」
私たちは、盛大にズッコケた。
「そ、そんな! ヌシは俺たち同様、ギス花粉被害者だったというのか!?」
「チクショウ、もう死滅れなんて言えねぇよ! 俺も散々ギス花粉に泣かされてきた身だ! 到底他人事とは思えねぇよ!!」
「だがヌシは村を踏み潰してでも花粉から逃れるのに躍起だ! 村の存続のためにも、こればかりは見過ごしちゃあならない!!」
「ん? んんんんん??!」
村人3人の言葉を聞いて、私の脳裏にとある説が浮上する。もしかしなくても、もしかして……?
「あのう……もしかしてですが、チョモ村の大活祭即ち魔物大行進の原因って……?」
「「「「「この時期の花粉症!!」」」」」
「はいやっぱり〜〜ッッ!!」
魔物大行進の原因はまさかまさかのギス花粉! 祖国でもお父さまを始め多くの兵士が業務停止に追い詰められる程の環境問題ですわ! 人間界全土が対策に難航しているものですが、魔界でも魔物大行進に発展する規模で蔓延しているとは思わなんだ!!
──ですが、これなら或いは!
「ナノさん!!」
「かしこまりました」
名前を呼ぶなりリツさんは、素早い身のこなしでヌシの横を駆け抜けて、砦を去っていった。まだ何も言ってませんが意図を汲んでくれたと信じて、私はアイラさんが居る櫓を軽快によじ登る。
「アイラさん、少し提案よろしくて?!」
「うわぁ外側から登ってくんな! というかナノを何処へ行かせた?! 戦場で勝手な行動は亀裂になるよ!!」
「その亀裂が生じる前に魔力砲台を放つ一手を思い付きましたの! お耳を失礼!!」
「あ、ちょっ!」
私はアイラさんの返答を待たずにゴニョゴニョゴニョ……とリツさんに汲んでもらった打開策を打ち明けた。
すると、アイラさんは怪物を見たような形相を私に向けてきた。酷い顔!
「アンタ……外道って言われない?」
「クソガキィとは呼ばれましたが、民を救うためなら外道と罵られても構いませんことよ! やるのかやらないのか決断を! はいやる!!」
「おい待て勝手に決めんじゃないよ!?」
「なら他に手はありまして?! あるものはなりふり構わず全部使う、それが防衛でしてよ! それとも貴女は、正道を貫くために故郷を捨て去るのですか……?!」
「ッ!!」
私の言葉にアイラさんは押し黙る。
その目は揺れ動いていた。チョモ村のために一時的でも人理に反するか決めあぐねていた。
──が、程なくしてパチンッ! と己の頬を叩くと、アイラさんは櫓から身を乗り出して「注目!!」と一気に視線を集めた。
「今から逆転の一手を試みる! その後の出来事に関しては私が全責任を負うから、とにかくヌシの足を狙ってその場に留まらせな!!」
「ちょっと待てアイラさん!!」
「なんだいシック!!」
「フィーラが合流したのが見えたが何を吹き込まれた?!」
「ちょっとシックさん流石に無礼でなくて!?」
「じゃかあしいわ! オマエのことだから碌なこと──!」
「だから全責任を私が負うんだろうが! 分かったらさっさと動く!!」
「チクショウ大惨劇確定だイエス、マム!!」
ヌシの足元で「リーリー!」と挑発するジェックさんに釣られて村民が次々「やってやらァッ!!」と射撃を始める。このフォーメーションを気が遠くなるまで続けて、そして──、
「フィーラさま、お待たせしました」
と、ヌシを見下ろせる位置に、リツさんが姿を現した!
「「「「「ッッッッ!!!!??」」」」」
そんなリツさんの姿を認めるなり、ジェックさんと村人方の顔が強ばる。
彼女の手には『ギスの枝』がひと束握られていたからだ。
その『ギスの枝』を持ったまま、リツさんはヌシに飛び移り──、
「え、おいおい……!?」
「まさか……嘘だろ……?!」
ヌシの目元へ移動して──、
「おい待てナノ、考え直せ! 今ならまだ戻れる!!」
「嬢ちゃんそれだけは! それだけは勘弁してやってくれ!!」
両手に『ギスの枝』を取り分けて──、
「「「「「やめろォォォぉォオオォオオォオオォォオオォおおぉおぉァァァアァあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁ!!!!!!!!!!」」」」」
ちょっとバサバサバサッ……と振ってから、ヌシの両|下まぶたにそっ……と置いたのだった。
「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!」」」」」
「ギャオオオオオオオオンッッッッ!!!!????」
次の瞬間、ジェックさんたちの絶叫とともに、ヌシは盛大にその場で暴れ出した! 目論見は上手くいきました!!
「ヨッシャア! 大成功ですわァ!!」
「さぁ、今のうちに魔力砲台へ行きな! 勝利はもう目前だよ!!」
「いやフィーラ! フィーラおま、おまおま、オマエェェェェエッッ!!!? これはやり過ぎだろォォォォオッッ!!!!!!」
「なんでこんなん採用しちまったんだよアイラァ!! 流石に非道が過ぎるだろォォォォオッッ!!!?」
「あのナノちゃんだかも躊躇ねぇなあ、オイ!!!?」
「というか、俺たちに花粉が飛んできたらどうすんだ?! 花粉症のヤツだって参加してんだぞォ?!」
「外道!! 悪魔!! フィーラ!! アイラァァァァア!!!!!!」
しかし、砦中からはブーイングの嵐。気持ちは理解るが、これに私たちは真っ向から言い返す。
「悪魔で結構! 上に立つなら時に冷酷になる覚悟を持つものですわ!!」
「だから責任取るっつってんだろうがァ!! この後で花粉症状現れたヤツは私に言いな!! 薬代全額保証する!! フィーラがこれ提案したときに堕ちる覚悟は決まってんだよ!!」
「「「「「こんな形で堕ちるなァァァァアッッッッ!!!!!!」」」」」
「じゃかあしいわ! それより早く魔力砲台起動しないかい! つーことでシック! アンタが一番近いから行きな!!」
「イエス、マム!! ……チクショウ職業病!!」
ジェックさんは「フィーラあとで説教だからなマジで!!」と宣いながら打ち上げ式の魔力砲台の照準を合わせる。しかし──、
「導火線無くねコレ?!」
「魔力を纏わせて注ぎ込むんだよ! そうすりゃ魔力が砲弾代わりに飛んでいく!!」
「ちょっと待て! 俺の魔力じゃ砲台がキャパオーバーか、仮に発射できても最悪砦吹っ飛ぶぞ!!」
「そうならないよう3秒間しか魔力注入できない仕組みだし、仮にキャパ最大になっても発射口が開いて自動発射される仕組みと聞いてる! どうせ生半可な魔力じゃ倒せそうにないんだから気にせず込めな!!」
「最大見たことねぇのかよ! ……どうなっても知らねぇぞ!!」
そうジェックさんが自信なさげに魔力を込め始めると、アイラさんは「退避!」と戦場に告げて、カウントダウンを始める。
「カウントダウン開始!! 3──!」
──パカッ。
「「「「「え?」」」」」
なんとも間抜けな音に、砦中の村人が思わず足を止めて魔力砲台へ注目する。
そう。魔力砲台は、1秒足らずで開口し──、
「ちょ待っ──!?」
ジェックさんの静止を聞くわけもなく、ヌシ目掛けて魔力砲弾を打ち上げ──、
「た、退避急げーーーーッッ!!!!!?」
「「「「「うおおおおおおッッッッ!!!?」」」」」
村人が砦に飛び込んだ次の瞬間、ヌシを赤黒い光で包み込んだ。
巻き起こった衝撃と突風が収まり、顔を上げる。
ヌシはすっかり消えていて、戦場にはぽっかりと大穴が空いていた。
そして、大きな地響きがしたかと思えば、
──プシャー……!!
大穴から、温水が噴き出できましたとさ。
それを見上げながら、ジェックさんは一言。
「わあ……温泉だ♪ ……バクション!!!!」
世界一最低な勝ち方だと私は確信しています。
次→明日『18:00』




