第11話「チョモ村ですわ!」
爆発オチ。
「ほら、孤立してんのがそっちへ行ったよ! 早く取り囲みな!」
櫓上から女性の声が鳴り響く。爆音轟く戦場にも関わらず、よく通る声で地上組に指示を出す。
「1匹たりと逃がすな! チョモ村の力を見せつけてやれ!」
地面を駆ける村民が周囲に発破をかけつつ武器を振るい続ける。戦場での常套句は愛しき祖国の兵士たちを思い出させるが、彼らは元気だろうか? 戦争中だが犠牲少なく済んでいるだろうか?
「ウッヒョオオオオオオ!! これまた今回も大漁だァ!! 稼げ稼げ稼げえェェェェェッッ!!!!」
その付近を推定『金の亡者』が速攻で……且つ最小限の攻撃で魔物を次々と仕留めていく。稼ぎたがり故に、魔物を必要以上に傷付けたくないのでしょう。
「ヒャッハアアアアアッッ!! もっとだ! もっと俺に斬られにこいやァ!!!!」
同じく巨大剣を持った村民が超おおはしゃぎで次々と攻撃を仕掛けていく。剣を持つとテンション上がってひたすらに振り回したくなる『ブレードハッピー』を実際に見るのは初めてだった。
また、その近くで……──、
「……………………じゅるっ」
怖ァッ!?
「プギャアアーーーー!!」
「グルオォォーーーー!!」
「チョエェェェエ!!!!」
それでも、決して怯むことなく、寧ろ速度を上げて猛威を振るってくる魔物の群れ。
「埒が明かねぇですわ〜〜〜〜ッッ!!!!!!」
そんな魔物の群れと相対する、早く戦い終えたい私の叫びは、『チョモ村防衛砦』の中で虚しく霧散した。
◇ ◇ ◇
数時間前──。
「お、見えてきたぞ」
グロウさんに別れを告げて一晩──、朝早くから移動していた私たちは、昼食を頂いてから程なくチョモ村の村門を捉えていた。
「それじゃあルルちゃん、先程話しました通り、お願いしますわ」
「はーいなのー」
ルルちゃんの前でしゃがみ込み、私の眼に魔力を「もにぇ〜」と纏ってもらい、リツさんが取り出した手鏡で確認する。
「……よし、完璧! ありがとうございますわ、ルルちゃん!!」
「へへっ……なのー」
ルルちゃんの『変化魔法』で、私の眼は彼女と同じ『黒眼』となっていた。名称通り、眼球が黒い『黒眼族』の特徴ですわ。グロウさんの時も咄嗟にやってもらっていたが、これのおかげで人間族であることを隠す手段が角型カチューシャ頼りにならずに済んでいる。
というか……4歳時点でこの寸分違わぬ魔力操作、ルルちゃんは保護者目線抜きにしても天賦の才をお持ちではないか?
これで発展途上とするならば、練習次第で外見どころか性質までも変化させられるかもしれない! 泥団子の見た目を石に変化させたら、正しく見た目通りの硬さになったみたいな!
まぁ、そこはルルちゃんが興味を持ってからですわね。こっちの興味本位で不本意なことをさせてしまってはやる気喪失で本末転倒、保護者としての線引きはしっかりせねば。
それよりも、さっさと村に入ってしまおう。いつまでも村の前で立ち往生は不審者極まれりでしかない。
こうして私は「ありがとうございますわ」とリツさんの手鏡を返して、いざ、チョモ村!
「はい! というわけでチョモ村にやって参りましたわ!」
「新聞記者?」
早速ツッコんできたジェックさんと、私は顔を見合せる。
「そういうノリあるんですの? 魔界の新聞記者さんは」
「取材のスイッチ入れる方便と聞いたことがある」
「結構役立つそうですよ。広報課に務めてました私めの友人も仰っていましたが、仕事モードに入りやすいとのことです」
と、リツさんの言葉を聞いて、私はふと思い出す。
「あぁ、アレですか。忘年会の兵士が一曲披露する際、羞恥心を捨てる? だかで凄っげぇメイクしてましてよ」
「なにその曲めっちゃ気になる」
「開口一番『バブ〜と生誕28歳、彼女居な〜い!!』でしたわ」
「期待するんじゃなかった」
「実際バックドロップで退場させられてましたわ」
「そらそうだ」
「その翌年、彼女できてましたが」
「彼女さんのセンスを疑う」
「現在は3つ子の父だそうで」
「実在するんだな」
「因みにその当時彼女現在奥さんは私の世話役でしたわ」
「あ、もう満腹です」
突然の裏切り!
「急に梯子を外さないでくださいまし! ここから「姉も同然だった世話役が奪われた気分になって夜な夜なギャン泣いた」と続ける気でしたのに!」
「知らん知らん知らんそんな連想ゲーム! あと、せめて声を押し殺す努力をしろよ! 夜中のギャン泣きは犬猫不安になっちゃうでしょ!!」
「当時5歳の私にそう言えまして?!」
「最近じゃないんかい! すまん!!」
「許します!」
「あれどうして俺謝ってるの?」
ジェックさんの謝罪で気が済んだところで、ルルちゃんから質問が入る。
「フィーラさんも、5さいだったころ、あったのー?」
「ええ、ありましたわ。昔の私は、ルルちゃんと同じくらい小さかったのですわ」
「ジェックさんとリツさんも、5さいだったころ、あったのー?」
「あったなぁ、そんな頃」
「私めも、ルルさま同様の身長でしたわ」
「じゃあ、ほかのひとも、そうだったのー?」
「そうですわね。でしたらルルさま、あちらをご覧ください」
そう言うリツさんの手が示す先には、お婆さんと多分孫娘と思われる少女の姿があった。
「あの大弓担いだお婆さまも、ルルさまくらいの時期を確かに経験していますし、同様に隣で矢箱を運んでいる推定お孫娘さまも、お婆さまくらいの年齢になる日が必ず訪います。子どもから始まり、いずれは大人となり、最後はお爺さまお婆さまを経て、やがて天へと昇り、また子どもとなる。全ての生き物がこの循環を巡っているのでございます」
「へ〜、なのー」
「それよりも持ってるものに触れさせてもらっていい?」
「同意見ですわジェックさん。あれを無視しては気になってお婆ちゃんになるまで眠れませんわ」
「思ったより深刻」
「今は質問が先決でしてよ」
また掛け合いたい気持ちをグッと抑えて、私は道行くお婆さんに話を聞いてみた。
すると……お婆さんは大弓を指差して言った。
「これかい? 『大活祭』のための準備だよ」
「大活祭?」
聞き慣れぬ単語に、私たちはこぞって首を傾げた。
姫さまとジェックの掛け合い大好き。
次→明日『18:00』




