第10話「ヒャッホーですわ!」
前回のあらすじ!
女子が現れた。
「ケケケ。ウケケケ」
「オケケケケ」
とある洞窟前──。そこでは、2匹のゴブリンがバッタを追いかけていた。
ゴブリンAが大仰に驚かせて、飛び跳ねたバッタをゴブリンBが掴もうとする。それを執拗に繰り返してから捕まえて食べる様は生命を弄んでるも同然の醜態に吐き気を催したくなる。
「「ふぃ〜……!!」」
違った。割と懸命で追いかけてた。
ゴブリンたちは額を拭うとバッタを半分こにして、そのまま洞窟の中へ入っていった。
その様を、『なんか森の中でイイ感じに拓けた空間』での焼却処分を終えた私たちは、茂みに忍びながら観察していましたわ。
「入っていきましたわね。あそこが拠点と見て間違いないでしょう」
「じゃあ次だ。グロウ、もう一度頼めるか」
「了解でっす」
そう返事をするなりグロウさんは、両眼に魔力を込めて洞窟の中を凝視します。此処を発見するのにも使った魔法ですわ。
「しかし便利ですわね、その『透視魔法』。おかげで草木生い茂る森の中でも「あっちに洞窟が見えます」と一直線に来れましたし、こうして見つけた今もジェックさんを単身偵察に赴かせなくて済みましたわ」
「しれっと孤軍奮闘させようとすんなや。元から偵察にいく気でいたけども」
私の言葉にジェックさんは野次を飛ばし、グロウさんは「ありがとうございます」と洞窟を睨みつつも、どことなく遠い目をしていた。
「まぁ、視えると言っても視えるだけですがね。主な用途はこのように洞窟の中の様子を調べたり、曲がり先の出待ちチェック、後は箱の中身チェックとかで実戦以外でしか使えた試しがないですねぇ……」
グロウさんの自虐に、私はキュッ! と顔に皺を寄せる。めっちゃ心当たりある!
「理解りますわグロウさん……! 私の魔法も『伸縮=形状が変化する』と気付いて「じゃあ伸縮以外にも大小変えれるのでは?」と解釈拡大するまで伸縮の一点張りで、たかが知れてましたもの……!」
「そのうえで碌なことに使わなかったろ」
「黙らっしゃい!!」
「それ言ったら相手の思考透視たりとかできそうだけどなぁ。それで、何が見える?」
「え、ジェックさんその解釈最高やれるようになろ。ちょっとお待ちください、ワンフロアに7、8、9…………うわ、40匹も居る」
グロウさんは「うへぇ……」と顔を顰める。『1匹居たら10匹は居る』が本当に当てはまるとは……なんて思っていれば──、
「……あれ? ちょっと待って。あからさまに武器の手入れしてるし……もしかしてゴブリンロード居る?!」
「あらま、なんてこと! 完全に襲撃の準備ですわ!!」
となれば早急に倒さねば! これを見過ごせば最寄りだろうチョモ村が襲われて聞き込みどころじゃなくなりますし、何より村民が心的外傷を植え付けられかねませんわ!!
それでも、ジェックさんは先程の激昂が嘘のように冷静でした。
「なら遠慮なくやれるな。でも真正面からは得策じゃないな、数が多すぎて時間を浪費するし、何よりロードが鬱陶しい」
「ですわね。となれば分断か一網打尽ですわ」
実際問題、ゴブリンは一体一体は新兵程度ですが、故に複数行動を基本としており、単体で動いてくれることは滅多に有り得ない。なので2〜3匹ずつ仕留めるか、数を揃えてゴリ押すか、高火力広範囲魔法等で一気に殲滅するかが対策として挙げられている。
「ですが分断するにしても、ワンフロアなのでございますでしょう? 少数ずつ誘き寄せるにしても勘づかれかねませんし、何度も往復してはジェックさんの負荷が激しくなりますわ」
「だったら一網打尽一択だな。けど俺の魔法だと洞窟崩落して森に悪影響だ」
「前から思ってましたけど、力を制御できない悲しき魔物ですか貴方は」
「言うな。気にしてんだから」
「では、火責めは如何でしょうか? 採用なさるのであれば、また私めが枝木を集めてきましょう」
「割とえげつないわねリツおまえ。けど良い線いってるな。でも煙充満する前に出てこられるのがオチだし、出てきたところを一撃でも瞬間的火力を放てるのがあれば……いいんだが……」
「?」
ジェックさんは言いながら、ゆっくりとグロウさんを見た。
◇ ◇ ◇
「ヒャッホーーウッッ!!!!」
洞窟からジェックさんが飛び出してきた次の瞬間、洞窟はグロウさんが所持していた爆薬でボガンッ!! と一発爆風を噴き出した!!
◇ ◇ ◇
「鳥魔族? でしたら昨日見ましたよ?」
洞窟内の処理が終わり、グロウさんに旅の目的をちょっと捏造して話すと、思わぬ僥倖に巡り会えた。ダメ元でも訊いてみるものですわ!
「あら、それは奇遇! どちらに行ったか分かります? 方角だけでもよろしいので!」
「そうですね……、チョモ村を出発して程なく、ふと空を見上げたら飛んでたんですよ。あの方角ならチョモ村の上空も飛んでるだろうし、更に辿りたいのであれば村で聞き込みすれば良いかと」
チョモ村方面へ飛んでいった──。まだ追いつけそうになさそうだが、急な方向転換はしていない。それが分かっただけでも充分な収穫ですことよ!
「グロウさん、ありがとうございますわ! 早速向かうといたしますわ!」
「お役に立てて何よりです。朧気だっていう故郷、見つかるといいですね」
「はい! それじゃ皆さん、レッツゴ〜ですわ〜〜ッッ!!」
──と、号令代わりに手を挙げたときだった。
「……! あ、あの! 最後に一つだけいいですか?!」
「はい?」
私たちが振り返ると、グロウさんは意を決したようにジェックさんの前に立つ。そして──、
「ジェックさん! 図々しいのは重々承知ですが、貴方に師事してもよろしいでしょうか!!」
なんですと!?
「ゴブリンを倒した時の身体の動かし方から極限まで洗練された剣捌き、そして激情を抱えながらも冷静な分析を忘れず、何より私の爆薬を持って躊躇なく洞窟へ駆け込んでいくその豪胆さに感服しました! 私に足りないところを全て持っているそんな貴方に追いつくためにも、是非とも稽古を受けたいです!!」
「ひゃ、ひゃあ〜〜ッッ!!」
目の前のやり取りに、私の開いた口が塞がりませんわ!
まさかジェックさんが師事されるとは! しかも異性からとなれば、そこから「きゃあぁ〜〜!」の関係になるのがお約束と小説で読みましたわ! そんなフィクションを目の当たりにする日が来ようとは!! と、思いきや──、
「なら先ずは、ゴブリン4匹を滞りなく倒せるようになって、そんで何処かで旅する俺たちへ会いに来てください。そしたら稽古をつけよう」
「無理難題押し付けてますわ!?」
「分かりました!」
「間に受けてますわ!?」
「鍛え直して会いに行きます! それまで初めては取っておいてくだされば幸いです!」
「やっぱりやめようかな?」
「なんでですかッッ!?」
「どうしてやめるのー?」
「それは言えない」
「15歳未満のルルさまには教えられない言い回しがあったからでございます」
「なるへそー」
「…………ッ!! すいません! やり直していいですかッ?!」
「どうしようかな〜〜ッ?!」
「イィィィィイッッ!!」
こうして、一期一会の交流は、終わりを告げたのでした。チャンチャン♪
「イヌッ!!」
ということで次回から新天地となります。暇があれば御一読よろしくお願いします。
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次→明日『18:00』




