第1話「脱走ですわ!」
約7ヶ月ぶりの長編です。
第7話までは1時間ごとに投稿いたします。対戦よろしくお願いします。
人間界のホワイトロック王大国にて──。
「国王さま!」
「どうしたんだいそう慌てて? 税金のバランス調整と城下町の整備費振り分けと対魔王軍の軍議と姫の見合い相手以上に優先すべき案件かい?」
「その魔王軍に姫さまが誘拐されました!!」
「オーケー緊急会議ィッッ!!」
◇ ◇ ◇
というわけで皆さまこんにちは。私はシーラ。人間界のホワイトロック王大国を治めるユタ=ホワイトロック王の一人娘兼正当後継者ですわ。
早速ですが、私は敵対中の魔王軍に誘拐されてしまいました。私としたことが油断していましたわ。
だって、まさか肉眼で見えない高さから鳥型魔族兵が垂直降下してきて庭園にいた私をガバンチョと抱きかかえるなりそのまま魔界までレッツゴーするなんて誰が思いますの? 庭園で「あ、ちょうちょ」と微笑んでいた愚かな自分をぶん殴ってやりたいですわ。
しかも聞いてくださいまし? その私を連れ去った鳥型魔族兵のエイジンさんたら
「ゼヒュッッゼヒッッガハッゲホッゲホッオエッッッ!!」
と、こちらが心配する程に息も絶え絶えでして、なんでも人間界を移動中に目撃されないよう
「魔界出発時点から肉眼で見えない高さまで登って、そのまま人間界へ飛んでいけ。バレないよう誘拐成功まで降りるなよ」
と、魔王に指示されたそうですわ。ブラック軍すら「クァ〜〜〜! ペッッ!」するレベルの深淵っぷりに思わず
「もうヤダよ今の職場!! 地元の仕事より給料良いし育ててくれた爺ちゃん楽させたいからスカウトを機に転職したらしたで業務上飛び回るのは割り切るとしても羽が痛くなるまで飛び回ってばかりだし十分も休憩できずにまた飛ぶ羽目になるし果てには一晩中飛ぶのもザラだし月の休みは一日あるかないかだし一日中寝過ごしてるから休日な気がしないしなんなら半日経たずに出動命じられたりなんかしょっちゅうだから仕送りばかりで全然実家に顔見せに帰れてねぇよ!! しかも同僚にしんどいの打ち明けたっておまえにしかできない仕事なんだと良心の痛む引き止め方してくるし(略)(略)(略)(略)(略)とかホントマジでふざけんなだよだから僕以外の鳥魔族皆辞めてってんだよクソボケカスブラック大魔王!! 本気で転職して偵察伝令業務に大打撃与えてやるかそれとも●●の●●●で●●●●●●●●●●●●●●●●ッッッッッッッッ!!!!!!!!!!(割愛)」
と、気の済むまで愚痴らせてあげましたことよ。実家に帰ったら兵士方の給与休暇満足度と取得率を徹底調査いたしましょうそうしましょう。
ともかく、そんな部下の心身を鑑みない魔王の監視下で人質生活なんて送っていれば気分も下げ下げ。ぶち込まれてる監禁部屋は実家の宿泊部屋位には広いし清潔だし、耳の尖ってる糸目世話役の方はあてがわれてるし、当然監視付きではあるものの適度に外を散歩させてくれますし、習い事や政を考えずに済むのを踏まえればなんだかんだ居心地良いですが脱走してみせますわ!
......え? 無茶すんなって? 心配は無用ですことよ。何を隠そうこの私、実家では名の知れた脱走常習者! 毎日の絶え間ない習い事から政に嫌気が差してはあの手この手で城下町へと脱走し、そこで『フィーラ』と名乗って友情を築いた同世代とチョケパンポンなる遊戯やら飲食店巡りで遊び呆けてきた結果、「姫さま今日は何する〜?」とすっかり『フィーラ=シーラ』と覚えられる始末! それだけに脱走技術は突出している自負がありますわ!!
ということで、魔王城脱走計画スタートですわ〜〜!!
◇ ◇ ◇
一龍週間後──。
先ず脱走を試みるのは監禁部屋ですわね。一日の始まりならぬ脱走の始まりは後にも先にも部屋からですわ。
部屋の位置は四階。一階や地下なら床を掘って脱出してやりましたが、下が何部屋か分からない以上それは得策ではありません。監禁部屋の位置を外から確認できる場所を散歩させてもらえないのも徹底していますわね。
入口には一人の角が生えたフルフェイスの見張り兵が常時居て、体格的にもちろん、目視せずとも感じ取れる強大な魔力量からして相打ちすら不可能でしょう。仮に何かの間違いで殴り合いを制したとしても「人質に死滅ばられたら元の子もない」と監禁部屋までの廊下途中に設置された医療室の前を必ず通らねばなりませんからそこで「ぶえぇ......!」と気絶か「確保ォ!」でジ・エンドですわ。
となれば残すは窓。はめ殺しですが、ぶち破りさえすればロープを垂らすなりでどうとでもなりますわ。三〜四階からの昇り降りにも耐えられる握力をご覧遊ばせ。
そうと決まれば計画の細部を練りましょう! 決行は食事が運ばれてきた昼時!!
◇ ◇ ◇
「姫さま。昼食をお持ちいたしました」
「ありがとうございますリツさん。お食事を終えましたら、食器はいつも通り見張りの方に預けますので」
「よろしくお願いいたします。ではごゆるりと」
世話役のリツ・ジョーさんが退室し、パタンとドアが閉まる。
それを見届けるなり私は上品ながらも素早く食事を終えて、スプーンを手に立ち上がり、大急ぎでベッドシーツを剥がして縄状にすれば準備万端ですわ。
さて、それでは始めましょう。私の華麗なる脱出劇!
やり方は至極単純。私の『大小伸縮自在魔法』で巨大化させたスプーンを伸ばしたその勢いではめ殺しの窓をぶち破ったら、そのままつっかえ棒にして入口ドア(廊下から押して開けるタイプ)を封鎖。ベッドに結わえたシーツを窓から垂らして地面まで伸ばしながらレッツゴーです! 「スプーンがあれば獄中も庭さ!」とは愛読書『ユブン23世』の名言ですわ!
うん? 途中で駆けつけられたら引き上げられておじゃんですって? そうなったら外壁に移ってそこを伝って降りていけばよろしくてよ。僅かな凸凹でも引っかけてみせる脱走仕込みの指力を舐めんじゃあねえですわ。
となれば、やはり気を引き締めるべきは最初の窓ぶち破りからつっかえ棒への転用。ぶち破れば大音量確定ですし、見張りの方の入室を許さないためにもそこばかりは急がねば。どうせバレるんですから掛け声も付加けましょう。
「スゥー......フォー......」
窓と対角線上に位置する入口に背中を預け、息を整えて......参ります!!
「伸びよ、銀の匙!!」
発生しながら魔力を注ぐと同時にスプーンが伸び、勢いよく窓が外れて落ちていく。目論見成功!
「シーラ姫! 何事ですか?!」
案の定、背中のドア越しに見張りの方が声を上げる。私は計画に則り、瞬時にスプーンを縮めたら伸ばし直してドアと対角線上の壁とで固定した。
「......!? なんだ、ドアが開かない?!」
案の定、見張りの方はドアを開けるのに四苦八苦。計画通り!
ここまで順調なら勝ったも同然! さぁ、後はシーツを……──!
「ラッセルッッ!!」
「ろっせるっっ!?」
垂らさんと駆け出そうとした瞬間、ドアが爆散しましたわ。
「シーラ姫。これは何で御座いましょう?」
爆散けたドアとともに床を転がり、逆さになった世界を見やると、右手からモウモウと蒸気を上げながらスプーンを持ち上げる見張りの方が。どうやら拳ひとつでドアをぶち破ったみたいですわ。これでは作戦もヘッタクレもありませんことよ。
なので私は言いました。
「そのスプーン、変なんです!!」
「嘘こけよぉ!!」
◇ ◇ ◇
以来、食事中は五分毎に覗き窓から室内チェックが入るようになってしまいましたので、別の作戦を立てましたわ。脱走に準ずる者なら、あらゆる脱走経路を想定しておくものでしてよ。......そこ、「そんなんに準ずるな」言わない。
ということで、次に選んだのは『散歩先の庭』ですわ。庭も脱走ポイントとしてオーソドックスですことよ。
ですが、先の『変なスプーン事件』を機に、今までは遠巻きに着いてきていた世話役のリツさんがちょっと手を伸ばせば私を掴める立ち位置を徹底して歩くようになり、上の指示とやらでお散歩コースも限定されてしまいました。これによって四箇所の脱走ポイントを諦めざるを得なくなり心底で悲壮ですわ。下見不十分で決行する脱走なんてクソ喰らえですもの。
それでも、まだひとつだけ脱走方法がありますの。私の検証が正しければそれはこの日この時間帯に──、
「イヌッ」
「ワンちゃア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ん!!!!!!!!!!」
ベストタイミングでちょっと離れた前方の茂みから現れたワンちゃん目掛けて、私は脚の制御を解放して駆け出した!
そう! 魔王城の庭は犬好きだという魔王の手配で野良『魔化犬』たちの自由な出入りが許されており、この日この時間帯はその一匹が訪ねてくる確率が非常に高いのですわ! 私が大の犬好きなのはリツさんも重々承知ですから急な飛び出しにも違和感ありませんことよ! 「犬って良いよね」と庭を『犬の集会所』にしてくれてる魔王にはこればかりは感謝感激キャッチマイハート!!
「イヌッ!」
「ワンちゃア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ん!!!!!!!!!!」
パアッ──! と顔をほころばせて駆け寄ってきてくれたワンちゃんを抱きかかえ、私はそのまま茂みを目指す。茂みの先はそこそこ高い鉄柵で森と隔てられていますがあの程度の高さならワンちゃんを抱っこしながらでも問題なく越えられますし、私を捕まえ損ねたリツさんとも十分距離が空いてますから余裕で振り切れますわ!
さぁ、参りましょうワンちゃん! 貴女の天上天下唯我独尊たる可愛さがあれば国王さまだろうが将軍だろうが「あら可愛い」と魅了され、更には実家ましてや祖国にもその可愛さは浸透し、やがては人間界でも天下を取るでしょう! いやその前に先ずは名前を付けねばホニャホニャした笑顔が大層愛らしいので『ホニョ』とでも名付け『ホニョ』にしましょうそうしましょう──!
「ふッッ!!」
「どわぁおっっ!?」
と、鉄柵まであと一歩と差し迫ったところで、掛け声と同時に爆音が響いたかと思うと、私の身体は宙を舞い、次の瞬間にはリツさんの腕の中におさまっておりました。
「はしゃぎ過ぎにはお気をつけを。危うく鉄柵にぶつかるところでございましたわ。そうなればせっかくの綺麗な金色の毛髪も傷んでしまいますゆえ」
そう仰る彼女の足元からは煙が上がり、車輪が擦れたような跡。どうやら私同様脚の力を解放して、私以上の速度で追いついてきたようですわ。
「ですが、そのワンちゃんが大層お気に召したようですわね。人質生活でストレスも溜まっておりますでしょうし、部屋での暮らしを共にできないか上に確認してみましょう。そうと決まれば散歩は切り上げるといたしましょうか」
「あ......はい......」
こうして、私の二度目の脱出も、再度フィジカルで打破されてしまいましたとさ。
◇ ◇ ◇
ということで、次の計画を試みますわ。脱走のスペシャリストはおいそれと挫けないものです。......そんなん誇るな? 黙らっしゃい!!
ですが、今の私は脚力制御解除の弊害で早歩きすらままならない状態。『ホニョちゃん大爆走事件』から何日かは大人しくしておりましたが、まだ歩く以上は見込めないでしょう。
それでも、上半身の筋力は今も健在。第3脱走計画を実行する分には支障ありませんわ。
では、参ります──。
「リツさーーん!! お花摘みをしてから拭き物が無いことに気付きましたわーー!! 急ぎ持ってきてくださいましーーーー!!!!」
「大変お待たせしました。補充を怠ってしまい申し訳ございません」
「あ、補充するなら一旦閉めてくださりませんこと? 私たちしかおりませんが中々に気恥しいですわ......」
「仰る通りです。直ぐに閉めますね。......では補充させてい──」
「ソーリー!」
「え──きゃっ! 何をむぐっ!?」
ドッタンバッタン、あひんあはんあほん......。
「......ガチャっとな。愉悦しゅうございました」
ということで、グッタリさせたリツさんから服を剥ぎ取り変装しましたわ。
背格好も似ていますし、これなら俯いてる限りは見張りの方も欺けるでしょう。実力行使は最終手段にしたかったですが、背に腹はかえられませんでしたわ。
だって、抱きかかえられた時に感じたのですが、服越しでも分かる細身でしたもの。実際服をふんだくってみれば肋こそ浮いておりませんでしたが、やはり全然筋力に秀でてない身体付きでしたもの。だからこそ上手くいったのですが。
まぁ、愉悦した以上は脱走を成功させなくては。兵士たる見張りの方にはともかく非戦闘員の世話役さんを襲うなどポリシーに反しますから二度とやりたくありませんことよ。
それじゃあ変装作戦開始! ホニョちゃんを抱っこして声色を調整して、先程くすねた部屋鍵で部屋を出ればいつもの見張りの方がこんにちは。
「随分遅かったな? その犬が暴れでもしたか?」
「はい。なので散歩に連れていきますわ」
「イヌッ!」
「そうか。なら──」
そう言葉を区切ると、彼は私の肩を掴み、ふんだくった世話役ヘッドキャップを取り上げた。
「私が連れていきますので、シーラ姫は部屋にお戻りください」
ヘッドキャップが外され、大急ぎで詰め込んだ長髪が背中にかかったのを感じながら、私は思わず問います。
「なんで分かったんですの?」
「世話役と魔力量が違う」
「ファッキュー!!」
「ガブゥッ!!」
「痛ってぇ!!」
◇ ◇ ◇
「ふぅ......。では姫さま。これに懲りましたら今後このような行動はお控えいただきたく。ご興味おありなのであればその限りではございませんが」
「は......はい......はひぃ......」
こうして変装脱走大作戦は失敗に終わり且つ、リツさんからガッツリ超報復かされた私は、同時並行で進めていた長期作戦を本格化させる運びといたしました。
ということで今日もめげずに、鍵のかかったドアの向こうにいる彼に話しかけますわ。
「見張りの方〜。お話いたしませんこと〜?」
「......」
「ホニョちゃんもリツさんと散歩へ行きましたから暇なんですことよ〜。ワンちゃんと暮らすが故に寂しくなってる私の心を満たしてくださいまし〜」
「......」
「後々後、御名前は何と仰いますの? リツさんの名前を聞いてから何日も経っておりますし、そろそろ知りたいですわ〜〜」
「.....シーラ姫」
覗き窓が開けられる。
「世話役は業務上ともかく、人質とは安易に馴れ合えません。どうか私語の誘いは慎んでいただきたい」
相変わらず固ぇですこと。「嘘こけよぉ!」と盛大に砕けてた貴方はどこへやら。
「では、今からの疑問を最後に、以後のやり取りは最低限に控えると約束しますわ。よろしくて?」
「......どうぞ」
「貴方、ドアを殴り飛ばせる膂力と、それほどの魔力量を内包しながら、どうして見張りに甘んじているのです? それだけの実力があれば十分出世を目指せるでしょうに」
「..............................」
見張りの方は何も返さずに、覗き窓を閉めてしまいました。
......やはり、図星でしたわね。
長期作戦とは即ち懐柔。言い方は悪いですが、これが成功すれば脱走に王手をかけられますから時間をかけてでも臨む価値はありますわ。勿論、私側に鞍替えしてくれるのなら祖国で雇用するよう全力で便宜を図りますことよ。
まぁ、彼に関しては幾月日の長丁場となりそうですけれど、先程の図星が時短の大きな手がかりになり得るのは明白。気長に解錠するといたしましょ〜。
◇ ◇ ◇
1龍週間後──。
「見張りの方〜。ただ立ってるのも暇でしょうし、しりとりでもいたしましょ〜。はいリィンカーネーション。あ、やべ」
「初手死ぃ......ゴホゲホグフ」
「喋りましたね?! 今反応しましたわね?! よっしゃあ言葉のキャッチボール成功っっ!!」
「はしゃがないでいただきたい。それと、やり取りは最低限にすると宣言してましたよね?」
「以前の疑問にお答えしてもらえてないので守る義理はないですわぁ〜〜!」
「貴様ァ!!」
◇ ◇ ◇
2龍週間後──。
「こうして私は、チョケパンポンなる遊戯に魅了されたのです」
「はぁ」
「そんなある日、城下町一番のチョケパンポン達人を名乗る方と出会いましたわ。実際自称するだけあって彼の技術は洗練されたものばかりでした」
「はぁ」
「まぁその方が盛大に民家のガラス割った所為でガチ逃げる羽目になったんですけどね」
「城下町一番返上してしまえ」
◇ ◇ ◇
3龍週間後──。
「ところで見張りの方。もう敬語じゃなくてよろしくてよ」
「はい?」
「だって貴方、私と同年代じゃありませんこと? 同年代からのタメ口は城下町の友人方で慣れておりますし、別に口調が砕けたって構いませんことよ。リツさんも敬語こそ抜けとりませんが結構砕けた関係を築けてますし」
「城下町の友人方や世話役が良くても、私まで砕けては面目が立ちません」
「レロレロレロ」
「うぜぇ」
「はい砕けた〜〜!!」
「うっぜぇ!!」
◇ ◇ ◇
4龍週間後──。
「ジェックスだ」
「はい?」
「俺の名前だ。姫さん、前から知りたがってたろ」
「よっしゃあ名前ゲットォ!! 今後ともよろしくジェックさん!!」
「端折られた!!」
◇ ◇ ◇
5龍週間後──。
「ええ!! ジェックさん、魔王のご子息だったのですか!?」
「おう、つっても認知されてねぇけどな」
「え、なんでですの?」
「不義の子なんだよ。つまり隠し子。お袋が死んだのを機にお情けで入隊させちゃくれたが、嫡男に後を継がせたいから俺に台頭してほしくない。だから俺を認知したくなければ幾ら戦果を挙げても昇進もさせないし、人目に付きにくい見張り業以外は滅多にやらせない」
「とんだ外道じゃないですか魔王。......すいません、失言でしたわ」
「いいよ今更。クズなのは違いないし、親として慕う気持ちは俺の中でもとうに失せてる」
「そうですか。......しかし、これほど有能な子息を身勝手な都合で冷遇するとは王の風上にも置けませんわ。私だったら近衛兵にでもいたしますのに」
「......マジで?」
「......前言撤回。貴方が近衛兵では城下町への脱走がままならなくなりそうですわ」
「この野郎」
「ですが、貴方が欲しい気持ちは本気ですことよ。祖国までの道中を思えば護衛が必須ですし、それを抜きにしても優秀な若者の未来が一方的に閉ざされてるのは祖国後継者として見過ごせませんわ」
「....................................」
ジェックさんは何も言わずに、覗き窓を閉ざしてしまいました。
やっぱり、悩みますよねー......。
◇ ◇ ◇
更に2日後──。
「姫さん」
「はい?」
「決行は?」
「!! ......2日後の朝ですわ」
「どう動けばいい?」
「ホニョちゃんが朝の散歩から戻ってきたら一緒に入ってきてくださいまし。方法はその時のお楽しみですわ」
「了解」
◇ ◇ ◇
そして、決行日──。
「てゃぴぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!?????」
ホニョちゃんが部屋に戻ってきて程なく、魔王城中から幸福に包まれた悲鳴が轟いた!
「よっしゃあ脱走ですわ〜〜っッッ!!」
「おい姫さん、なんだあの野良魔化犬の大群は!? ホニョが戻ってくるなり城中に拡がって道中全員蕩ッ蕩で夢心地だぞ!? 野良魔化猫も混じってて猫派へのフォローもバッチリだ!!」
「ホニョちゃんに野良時代のお友達をご招待するよう頼んだんですの! ホニョちゃんがお友達を呼び、そのお友達が更なるお友達を呼び込む! 動物に手を上げる非人道的行為が出来ない、世界一幸せなネズミ算式トラップですわ〜〜ッッ!!」
「悪! いや悪ッッ!? クソ魔王もビックリだッッ!!」
「知ったこっちゃねぇですわ! 兎にも角にも、先ずは窓を破壊してくださいまし!!」
「言い切りやがったなぁッ! まぁいいや! ラッセルッッ!!」
「破壊御苦労! そこからシーツを垂らして魔法で伸ばしてホニョちゃんを抱えたら──レッツゴーですわ〜〜〜〜ッッ!!」
「あ、おい待て落ち着いて降りろ!!」
軽快に窓を潜って「キャッホ〜!」と地面目指して勢いよくシーツを伝っていき、ジェックさんが後に続く。摩擦熱で手のひらが痛えですが気にしてらんねぇですわ!
「つーか姫さん、こんな露骨な脱走方法で良いのか?! 窓は壊したからアレだが、シーツでどう逃げたか何処へ逃げ込んだか一発でバレるぞ?!」
「大小伸縮自在魔法でシーツは戻しておきますわ! さすれば「窓から逃げようとしたみたいだが長さ的に止めたようだな。……え、じゃあ何処へどう逃げた?」って無駄に思考させれますから! 実家で使ってた常套手段ですわ〜!!」
「クソガキィ!!」
そうこう喋ってるうちに地面に着きましたわ。
「さぁジェックさんお早く願います! 証拠隠滅はさっさとするに越したことあら?」
「急かすなや! 鎧で掴みづらいんだよってどうした? っておん?」
見上げると、窓からメイド服がよっこらせと鞄を持って降りてきておりました。
リツさんでしたわ。
「お待ちくださいまし〜〜」と降りてきた彼女へ私は問います。
「リツさん、どうしてこちらに? 非戦闘員では厳しい旅路となるでしょうから声はかけませんでしたのに」
「身の回りの世話も入り用でしょうし、今更無粋ですわ。何より脱走がバレれば解雇以上の罰は免れませんでしょうし、ならば姫さまに雇ってもらう形で責任を取ってもらおうかと。祖国への口添えもお願いしますわね」
「それもそうですわね。ハブってすいませんでしたわ。それじゃあ改めて、今後ともよろしくお願いしますわね」
「よろしくお願いしますわ」
「それじゃあ、参りますわよ! 先ずは森を抜けますわ〜〜ッッ!!」
「あ、ちょっと待て!」
「なんですの?!」
リツさん加入の高揚感を胸に森へと先行していくと、後を追ってきたジェックさんが私に尋ねてきましたわ。
「姫さんの祖国を目指すはいいが、方角分かんのか? 闇雲に進んだって無駄骨だぞ」
「知りませんわよ方角なんて。誘拐された際、エイジンさんたら肉眼で地上が見えない高さを飛んでたのですから、方角は道行く先々で手当たり次第訊くっきゃねぇですわ」
「エイジン? ......もしかして鳥魔族の兵士だったか?」
「お知り合いですの?」
「1〜2回小耳に挟んだ程度だが、長距離移動に秀でてるからって偵察から伝令と絶え間なくあちこち派遣されてるって話だぜ。まさか人間界からの誘拐までやらされてたとは思わなかったが」
「だとすると彼、休暇を頂けてる感じはしませんわね。魔王軍に鳥魔族はあまり居りませんから、碌に休めず飛んでる筈ですわ」
「......あ! 確かに転職を本気で検討しているようでしたわ! 誘拐された際、超愚痴を聞いてましたので間違いありません!」
これにジェックさんは「決まりだな」と断言しました。
「先ずは各地を巡ってるだろうエイジンを探してとっ捕まえて方角聞き出すぞ。鳥魔族なら印象に残りやすいだろうし、ワンチャン寝返らせも見当だ」
「ワンちゃんだけに?」
「口塞ぐぞ」
「異論ありませんわ」
「イヌッ!」
「それじゃあ、直近の目的も決まりましたし、改めて参りましょうか」
ちょうど森を抜けたので、私たちは見合わせたようにそこそこ離れた魔王城を見上げ、お別れの挨拶を告げました。
「や〜い! 魔王の頭はロッキンポ〜〜ッッ!!」
「ざまぁ味噌漬けクソ親父ィッッ!!」
「お世話になりましたぁ」
「ワンッ!!」
「普通に鳴けるんかい!!」
こうして、魔王に最大限の罵倒を投げながら、私と兵士と世話役とワンちゃんによる祖国を目指す旅は始まったのでした。チャンチャン♪
to be continued......
「恋のス●ルマ」をマキシマムに踊ってそうな彼女たちの旅路をよろしくお願いします。
宜しければ評価(広告下にある☆☆☆☆☆のやつ)・ブクマ・リアクション・感想あったら嬉しいです。
第2話→本日『13:00』




