研究記録17 : 第五階層 the Cretaceous (白亜紀)3
「______なに______あれ______」
「__________」
どうする。
どうするって...いや、どうする...いや...
...は?
「研究者...早く洞窟に...ッ」
「だめだ...洞窟なんか、すぐ木っ端微塵だ」
周りの草食の首長竜らは上を向いて真っ黒な純粋な目で光を見てる。
為す術なく、ただ見つめている。
「(冷静になれ...あの隕石から見るに直撃は避けられない...)」
「(衝突時に発する爆発にも似た伝播型の衝撃波、その衝撃で発生する巨大な津波...つまりそのふたつを回避出来ればいい...ッ)」
「...アリサ...あの一番高い山に登るぞ」
ダッ ダッ ダッ ダッ___________
「ねぇ絶対間に合わないってッ!」
「いいから走れッ!死にたいのかッ!」
「(クソ...でも絶対間に合わないぞ、これ...ッ)」
「...ッ!」
「あれだ、あれに乗れッ!」
10メートル先。
その先に象よりも巨大な頭の大きい翼竜が、今にも飛び立ちそうに翼をバサバサと扇いでいた。
「いやキモすぎだろッ!」
「もうあれしかない...足に掴まって飛ぶぞ...!」
ガシッ
『________ギャヴェァアアアッッ』
「うっさ...!本当にこいつ飛べるの!?」
「知るか、飛んでくれなきゃ困るんだよッ!」
「クッソ...さっさと飛べ、このクソ鳥ッ!」
パンッ パンパンッ
『ガギョァァアアアッ』
バサッ...バサ...ッ
「飛んだ...飛んだわ、こいつ...!」
「振り落とされるな...ッ!少なくとも200m以上飛んでくれないと爆風に飲み込まれるッ」
ボァサッ バサッ...!
凄まじいエネルギーと空気圧。
上空に上がる度に腕の力が抜け振り落とされそうになる。
だがこの調子ならばあの爆風は避けられそうだ。
「_______見て_____先生____あれ」
間もなく巨大な隕石...いや、小惑星が地表にぶつかる。
その歴史的な瞬間が、また私の視覚以外の感覚をかき消す。
「____________」
最初に頭が真っ白になる程の光。
ビッ_______ゴブォアアアア_____ッ
5秒後、爆音が衝突地点からこちら側へ到達。
その後何も聞こえず。
おそらくどちらかの鼓膜が破れたのかもしれない。
その後爆心地から広がるようにオレンジ色の炎の衝撃波が拡がっていく。
この日世界は、恐竜の時代は幕を閉じた。
ゴガガガガガ_________
「(...あの衝突から津波が引き起こされたのか...あと数十メートル低かったら飲み込まれてた...)」
『ボギ...ャ』
「ねぇ...!もう降りていいの...!」
「あぁ...でも、どうやって...」
「このデカ頭...ッ、用が済んだんだからさっさと降ろしなさいよッ!」
パシュッ
『ジギャァアアアッッ!』
「うばぁあああ...ッ!高度200m以上で銃ぶっぱなす馬鹿がどこにいるんだぁあああッ!!!」
_______ヒュ________ン
「があ"あ"あ"あ"あ"ッ!!!ごの"ボケ"ぁ"あ"あ"あ"!」
『ギャ...ギャ...ォ』
ボァサ...ボァシャ...
ガッ ドシャアッ...ッ!
「ぐ...ゔぁ...ぶっ...はぁ...ッ!」
「何すんだこのクソアマッ!!マジで殺すぞッ!」
「いったぁ...でもギリギリあのデカ頭が翼を持ち直してくれて助かったわ」
「でももう問題ないでしょ。ほら、さっさとポリーナ達見つけるわよ」
「_________」
絶句。
もうこいつといたら私まで死ぬって、そう思った日だった。
ザッ ザッ ザッ ザッ...
「おーい、先生ー。2人ともー」
「あら、ネモ、ポリーナ。2人とも生き残ったのね」
「あんたらも恐竜フライト?」
「恐竜フライト...いえ、私達はそこら辺の穴を掘って過ごしてましたよ」
「ネモさんが地下に基地でも作ろうって言い出したので、そこに居ました」
_____________________
ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ...
ゴゴゴゴゴゴゴ...
「...あれ。なぁ、ポリーナ。なんか外騒がしくないか?」
「ん...確かに、少し地下も蒸し暑くもなりましたね」
「流石に外見てくるわ。ポリーナ、私のカバンに入ってるチョコ食べていいよ」
「いただきます」
ザク ザク ザク ザク...
土でできた階段を登る。
というより、斜面。
5分ほど歩くとやがて光が見え、地面から顔を出せるのだ。
ザク ザク ザク ザク...
_________ザッ_________
ただ、地表から頭を出して見えたのは荒廃した灰色の世界。
木々も草も、あらゆる生物種が消えていた。
「...」
「________あれ?」
_______________________
「って感じでさぁ」
「あれ?じゃないでしょ...どんだけ深く掘ったわけ?この脳筋共は」
「いやアリサ達もなんですか、恐竜フライトって。アトラクション気分で地球最後の日を乗り越えないでくださいよ」
「まーいいじゃない。みんな生き残ったんだし」
「それより、出口出現してるわ。さっさと帰って飯にしましょ飯に」
「賛成です。ビーフウェリントンでも食べに行きましょうか」
「えー私あれ嫌ーい」
ザッ ザッ ザッ ザッ...
「...」
「ぁ...」
タッ タッ タッ タッ________
取り残された私に気づいたのか、ネモがこちらに駆け寄ってくる。
「せーんせい」
「今度は一緒に地下基地作ろうぜ!」
私の目には、荒廃した灰色の世界を背景に片腕を思いっきり伸ばして私に向けてピースサインをするネモの姿だけが映っていた。
はちきれんばかりの煤のついた笑顔とともに。