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研究記録16 : 第五階層 the cretaceous (白亜紀) 2





チュンっ チュン___________






「オーレリアさん、朝です。起きてください」






「ゔ...あぁ、朝か...」






洞窟の中に微かに光が差し込んでくる。


意外にも砂利や石ころが転がっている洞窟内でも熟睡できたことに驚きだ。


ただ、全身が痛くなかったわけではない。






「寝てんのはあんただけよ。今日は当番変えるんだから早く起きなさい」






「っ...朝早くから仕事始める母親かよ...」






「うっさい!あんたが起きないと始まらないでしょ!」





「...はぁ...いやもうちょっとだけ...母さん...」






「誰が母さんよこのタコッ!早く起きろ!」






「あ"ぁもう...起きるって...」


「あれ...なんか...吊るされてる」






「えぇ、昨日はこの洞窟内で夜どうし焚き火をしてたでしょう。どうせなら、残りの肉を吊るして干し肉にしようかと」






「あー...焚き火から出た煙で上手い具合に燻製干し肉になってるのか...いやすご」


「これだったら少しは保存が効くな」






「朝ごはんに干し肉を使ってみました。それを食べて今日はアリサとここに居てください」


「私とネモさんは近辺を少し探索してます」






「あまり遠くへは行かないほうがいい。この時代は恐竜だけじゃなく全ての生物がでかい」






「えぇ。気をつけます」


「ではネモさん。行きましょうか」






ザッ ザッ ザッ ザッ...






「...」






「...んで、あんたはいつまで寝てんのよっ!」






ボグゥ






「ぼっへぇッ!なんで鳩尾(みぞおち)を...ごぉ...」


「ゔぅ...起きる、起きるって...」






私の寝てる両足を挟み込むようにアリサは仁王立ちして睨み込む。


休日の子供の相手をする父親の気持ちが体で理解できた。






「...」


「ねぇ...聞きたいことあるんだけど」






「...」


「なんだよ」






トサッ






彼女は枕にしていたリュックに頭を乗っけて横になってくる。


途端その空間には彼女の子供のような匂いと体温だけが感じ取れた。






「...起きろって言ったのは君じゃないのか」






「...うっさいわね。いいから質問するから答えなさいよ」






「はいはい...この研究者がなんでもお答えしますよ。お嬢様」


「なんなりと」






「ふん...ちったぁまともな態度できるじゃない」


「じゃあ聞くけど...なんでこの時代は全部の生き物が大きいの...?」


「今朝洞窟前で大きなトンボを見かけたわ。羽を含めたら牛ぐらいあったかもしれない」


「今の私達の知ってるトンボなんて、これくらいしかないのにね」






少し驚いた。


アリサが馬鹿正直にこんなことを聞いてくるのは初めてだったから、つい面食らった。


素直な彼女は子供じみていて、可愛らしい。


そんな彼女に気を取られそうになって質問の答えを頭で考える。






「...まぁ...それは...」


「ひとつの仮説としては、この時代だけ酸素濃度が高かったってのがある」


「私も古生物学者じゃないから詳しくは知らないけど、生物の根源は酸素にこそあるのかもしれない」





「...はぇー...」





アリサの方を見てみると目を輝かせて私を見ていた。





「それで?」





「え?」





「続きは?」


「ね、続きはあるんでしょ?」





「ないよ...詳しいことはよく分かってないんだから」






ガバッ






「散歩してくる」






「あちょっと、まだ話は終わってないわよ!」






_______________________






ザッ ザッ ザッ ザッ...






「(やはり被子植物が多いな...やはりジュラ紀ではなく白亜紀だ)」


「(それにしてもここは一体どこなんだ?スピノサウルスの生息するアフリカ大陸なのか?)」


「(でも亜種って可能性もある。別にたった一つ発見された化石が固有の生息地になる訳ではない)」


「...難しいな」






だが一体なぜこの階層は太古の地球なのだろう。


人間どころか未だ天下を取っているのは恐竜の時代だ。






「_____...そもそもなんで恐竜が居なくなって人間が台頭したんだ...?」






この時代については現在の研究者の間でも議論の対象だ。


広範囲の伝染病だったり、地震による火山の噴火だったり、遂には神の怒りだと言い出す輩もいた。


_______私としては...






「....いずれ誕生した人間に狩られた?」


「...バカバカしい...」






ザッ ザッ ザッ ザッ...






「...くっさ...なんの臭いだよ」


「...ッ」






木々のないよく開けた獣道(けものみち)を歩く。


すると左の森林から風に吹かれて腐臭が私の顔を覆った。


ふとその臭いの方向を見てみると、なにか私より2倍大きい何かがあった。






「ゔ...なんだよ、これ...」






恐竜だ。


目や体の皮膚がどろどろに腐って肉や骨が見えてるが、そいつは確かに恐竜の形を辛うじて保ってた。






「(...いや...ちょっと待て...)」


「(これティラノサウルスじゃないか)」






『ゴ...ギャ...ォ...』






「(しかも生きてる...ッ)」


「(やはり絶滅の原因は伝染病なのか...?)」


「(いや...他の種は病気ではなかった。むしろ元気だった)」


「(...なんなんだ、この胸騒ぎは...この階層には倒すべき敵も、それによって引き起こされる事象も全て見当たらないぞ)」


「(いやむしろ...敵はもう私達の前に存在している?)」






「____生命の絶滅こそが、この階層の試練___」






________タッ タッ タッ タッ






「______ねー、研究者ー!」


「まだ聞きたいことがあったの...!どこいたのよ!」






________ドク ドク ドク ドク






周りの音が全て消える。


嫌な心拍音が私の五感を歪に捻じ曲げてるせいだ。


どこかでアリサの声が聞こえたが、"何か最悪な物"が近づいてる気配がして、私は震える声で呟いた。






「...逃げろ...ッ」






「ねぇ...!なんであのでかいトンボって今はいないのー!なんであんなちっちゃくなっちゃったのよ!」






私の声は、アリサには聞こえていない。


しかし答えは(おの)ずと明白だった。


進化だ。


進化によって生命はより完全な姿へと変貌する。


それは一朝一夜でなるものでは無い。


何千年もかけて種が大量に死んで、不細工な粘土が削り形成されるように今に至る。


その死体の上で。






ダッ ダッ ダッ ダッ_________






「...ちょっと、研究者...っ!」






走り出す。


この事態を2人に伝えるため。






「ネモッ!ポリーナッ!」


「どこだッ!」






「(いない。一体どこまで調査に行ってるんだ...!)」






「ちょっと研究者...急になんなのよ...!」






「はぁ...は...っ」


「試練が近づいてる...しかも都合良く...ッ」






「なに、何の話...?ちゃんと説明しなさいよ...!」






「_____種の大量絶滅_____」






「...え?」






「それが今回引き起こされる...厄災」


「何がトリガーになったか知らないが...どうにかして出口を探さないと...」


「今まで以上にやばいのが来る...ッ」






ガゴゴゴゴゴ_________ッ






「ッ!?」


「これ...地震ッ!?」






「(地震...っ、やっぱり地震による活火山の噴火なのか...!)」






ビッ_______カァ________ッ






「________ッ」






午前10時20分。


上空に巨大な小惑星が出現。


火を纏い地球(こちらがわ)に向かって進行。


恐竜含む白亜紀の生物種は_______


________回避不能







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