第一話 帝国アカデミー
「なんで、なんでないのよ」
俺の前にいる少女が慌てた様子で鞄の中をガサゴソやっている。
大方入学許可証でも忘れたんだろう。
現在地はアークランド宙港、帝国士官学校行きの便の受付だ。
「探すの手伝おうか?」
「別にいいわ。あと私の事触らないで」
ひぇ。
ちょっと肩に触れただけじゃないか
それにさっきまでの動揺はどこに行ったんだ?
今はまさに氷って感じだ。
貴族の娘って誰に対しても優しいんじゃなかったのか...。
本で見たのと違う...。
「お客様なるべく早くお願いします」
ナイスだ受付のお姉さん!これで俺は攻撃対象外だぜ。
「少し待ってください」
「は、はい」
マジかよ!
お姉さんを一瞬で黙らせた。
「ありました」
受付に入学許可証をだした。
そして先に進んでいった。
――――
帝国士官学校。
またの名を帝国アカデミー。
帝国の次代を担う優秀な兵士を育てるべく設立された学校だ。
入学に身分などは関係なく試験を突破すれば誰でも入ることができるという評判が流れている。。
「帝国の要職に就きたい!」などの野望を持つものにはぴったりの学校だ。
現在帝国軍で大将、元帥クラスまで上り詰めた人間は大抵この学校を卒業している。
しかし庶民に優しいと言われている帝国士官学校にも問題はある。
それは貴族の権力が強いことだ。
入学に身分など関係ないと言っておきながら大きな権力を持つ貴族の子供は入学試験なしで特待生として入学許可証を手渡される。
あとは帝国の将来を担う成績優秀者を取り込むために貴族が自身の子息や令嬢を送り込んでくることもある。
これにより特定の貴族が強くなるのを皇帝は問題視しているという話だ。
実際この便に乗っている人はほとんど貴族の証である金のバッチをつけている。
俺上手くやって行けるかなぁ。
噂によると貴族による平民いじめが横行しているらしい。
誰だよ庶民に優しい学校とか言ったやつ。
実情はかなりのハードモードだ。
しかし俺は帝国士官学校よりもおそらくハードモードなところに長い間いた。
あの氷の惑星に比べればどんなところだってマシさ。
それに俺はかなりワクワクしている。
なんせ15年生きてきた中で1番のチャンスだ。
到着まではまだかなりの時間がある。
それまで暇なので俺は本を広げた。
内容は落ちこぼれだった少年が努力を重ねて帝国軍元帥になるお話だ。
この話のモデルは現帝国軍元帥、アルバート・コールマンだと言われている。
本人は否定しているが。
しばらく本を読んでいると寝てしまった。
―――
目が覚めた。
まぶたが重い。
目を擦りながら窓から外を覗くと巨大なスペースコロニーが見えた。
あれが帝国士官学校がある場所だ。
宇宙船は旋回しつつコロニー内に入っていく。
機内から降りると1人ずつ入学許可証をチェックされていく。
俺たちが乗ってきた宇宙船は少し遅れていたらしく、入学式の会場に入り着席したときにはもう校長先生の話が終わりかけていた。
「………………これにて入学式の挨拶を終わります」
ふぅ〜。
長い話を聞かずに住んでラッキーだったぜ。
「それぞれの端末にクラスと席の場所を送っておいた。見ておくように」
入学式の会場に入る時に渡された端末を見るとクラスが送られてきていた。
「えーと。Bクラスか...」
ちょうど真ん中だ。
Aクラスじゃないのをちょっと落ち込んでいると席順も送られてきていた。
「えーと。俺の席はどこだ?ああ、あった1番前か...」
1番前とか最悪じゃねぇか。
あーあ。
先生に目つけられちゃうって。
横を見るとアークランド宙港で困ってる風だった少女がいた。
「な、なによ」
ジー、と見ていると睨まれた。
「いやー。クラスがどこなのか気になって」
「私?私はもちろんAクラスで一応首席合格よ」
マジかよ!首席が入学式遅れてもいいのか?
「あなたはどうなのよ」
俺の表情を見てニヤニヤしながら言ってくる。
チ、チクショウ。
「び、Bクラスだ...」
「ふーん。ふーんBクラスか...」
そのなんとも言えない目をやめてくれ。
「Bクラスの人は教室に移動してください」
アナウンスが流れたのでこれ幸いと逃げる。
教室に到着して席に着くと筋骨隆々のおっさんが教室に入ってきた。
「今日から貴様らの担任となるエドワード・ウォーカーだ。
ビシビシしごいていくから覚悟するように」
厳しそうな先生だな。
「まず俺の授業では身体能力が重視される。
筋肉は大抵の事を解決するからな。
力こそパワーだ!」
力もパワーも同じ意味じゃないか!
筋肉痛が痛いみたいなことを言いそうだな。
「さて、今日はまだ初日だが早速貴様らの身体能力を測らせてもらう。
全員廊下に出ろ!」
全員が廊下にでると先生は「ついてこい」とだけ言って歩き出した。
後ろでは生徒が「なんで初日から...」とか「だるい...」とか言っているのにまったく気にしている様子はない。
「初日からこんなことするんだね…」
隣にいるやつが話しかけてきた。
「僕はジャックって言うんだ。君は?」
「俺?俺はジークヴァルトだ」
「いい名前だね」
ジャックは金のバッチをつけていない。
他のクラスメイトも気になって見てみたがつけている人はほとんどいなかった。
「このクラスにはほとんど貴族がいないな」
「そりゃそうだよ。ほとんどの貴族はAクラス行ってるんだ。
平民の頭打ちはBクラスさ」
そうなのか。
じゃあ俺はもっと喜ぶべきだったわけだ。
「そんなことより僕は今から始まる体力測定の方が心配だよ。
例年エドワード先生は身体能力が低い人を退学にさせているって噂もあるし」
「最悪じゃないか...」
「でも逆に身体能力がいい人にはご褒美をくれるらしいよ」
「それは気になるな...」
そんな会話をしているうちに俺たちは外に出ていた。
「最初は100メートル走ってもらう!
ここで上位5名以内に入れば合格だ!」
合格とかあるのかよ。
やっぱり退学とかさせられる奴がでてくるんじゃないか?
番号順に呼ばれて走っていく。
1人9秒台いるのやばすぎだろ。
俺の順番が来た。
「よーい」
『パン』
音がなった瞬間本気で走る。
記録は10秒ちょうどだ。
つまり暫定2位。
その後9秒台をだす奴は現れず、俺は2位という結果だった。
もうこの時点で合格だ。
安全圏にいけたことでひとまず俺はほっと胸を撫で下ろした。