3節目 変転たる日々
あれから3日経った。
あれというのは、羽猫と会話をした日からだ。
あの後、目まぐるしくいろんなことが起こった。
まず初めに、ドラゴンが俺の家のベランダを目指して、日本領空を犯し、凄まじいニュースになったこと。
次に、羽猫が思ったよりおしゃべりな奴だったことと。
そしてドラゴンが撃たれたとのことで、羽猫が物凄い剣幕で怒っていたこと。
ちなみに怒っている内容は、
「だいたい、あなたのとこの飛空機うるさすぎない!?、エリンの背中に乗ってても鼓膜敗れちゃうかと思ったもの!」とのこと。
ちなみに撃たれたといっても幸い、ミサイルをぶっ放すようなことはせずに、機関銃か何かを威嚇射撃したみたいで、その一発がどうやらドラゴンに当たったらしい。
ただドラゴン曰く、大き目の投石をされた時とあまり変わらないとのことで、打撲程度で済んだようだが、羽猫がキレ散らかしていた。
投石と機関銃を一緒にするなと突っ込みたかったが、羽猫の手前言い出すことはできなかった。
ちなみに「エリン」というのは羽猫の友達のドラゴンだ。
あんななりをして女の子で11歳らしい・・・。
そしてこの羽猫の名前は、イルニャールもといイルナールだそうだ。
なんでも発音が少し特殊らしく、書き方はイルニャールだが、読み方はイルナールとのこと。
イルナールもこれまた女の子で17歳だそうだ。
ちなみにそれって人間換算で?実年齢で?と聞くと羽猫に引っかかれた。
どちらにせよ、なぜ俺がこの生き物と会話できてるのか謎なのだが、イルナール曰く。
たぶんそういう力があるのよ、とのこと。
そして今日はその力について、イルナールと話し込んでいる。
「ほかの人が話している言葉はわかるのか?」
「うーん、言葉として理解できるのは正直あなただけ、ほかの人がこちらに向かった何か言っているのはわかるのだけど、言葉に聞こえないというかなんというか・・・」
詳しく伝えるには言葉が見つからないわ。
とイルナールはため息をつく。
どうやら、羽猫もといイルナールと会話できるのは今のところ俺だけのようで、
イルナール自身も言葉を理解できるのが俺だけのようだ。
「結局のところなんで会話が出来ているのかは、はっきりとわからない感じだな」
「そうね、ただ話にきくところ人間の中には特別な力を持つ人がいて、それが私たちの意思疎通を助けているってのが、私の意見だわ」
「その特別な力ってのはどういったものなんだ」
空を飛べたり、火を噴いたりとか?
と茶化して聞いたところ、イルナールは不思議そうな目でこちらを見つめてくる。
「え?空は飛べるし、火は出せるでしょ?」
「は?本気で言ってるのか?」
「だって、エリンのこと追い回したり、火か石の術を使って襲ってきたじゃない」
「そりゃあれは戦闘機だからだろ、ってか戦闘機ってわかるよな?」
「それ位わかるわよ!あれ術者が中に乗ってて動かしてるんでしょ?まぁあんなに音が鳴ってる時点で凄い効率悪そうだけど・・・」
なんだかすごく噛み合っているようで噛み合っていない雰囲気を感じつつ話を続ける。
「ちなみにだ、イルナール、お前は何かその、術?的なものは使えるのか?」
「当たり前でしょ?あなたの目前で飛んでるのが証拠じゃない!」
ちなみに、私は水属性よ!ウォーターバレットぐらい撃てるんだから!
と誇らしげに胸を張るイルナールを見て、噛み合って居ないことが決定した。
「あー、たぶん決定的な食い違いが発生してるぞこれ」
「どういうこと?」
「こっちの人はな、そんな力誰も持ってないんだ」
「え?じゃあどうやって生活してるの?」
「うーんまぁ、詳しく話せるほど知識がないから大分端折るけど」
そう前置きしつつ続ける。
「科学力ってのが俺らの力・・?いや違うな発明かな、それを使って生活してる、だから火も吹けないし空も飛べない、エリンって子を襲ったのも全部科学力による発明品だな」
「どういうこと?その力を使って術を使っているのじゃないの?」
「ちがう・・・、と言いたいが説明しづらいな」
まぁとにかく、お前らと違ってこっちの人々は術を使えないって思ってもらうほうがややこしく無いかも。
と締めくくりイルナールに向き直る。
すると、イルナールは何かを考えるようなそぶりを見せ、そしてやめた。
「まぁとりあえずいいわ、考えたってわからないこと考えるのは無駄だし、家に帰った時にお父様に聞いてみる」
そう言うとイルナールはふわりと浮かび上がる。
「お、もう帰るか」
また明日な、と手を振ると、後ろ姿のままイルナールは尻尾を揺らした。
浮かび上がり羽を羽ばたかせながら飛び去るイルナールが見えなくなるまで見送り、家に戻ろうとしたとき、どこからかシャッター音が聞えた。
慌てて振り返ると通りの向こうに走り去る人影を見つけたが、すでに追いかけても追いつける距離に無く俺はベランダにうずくまる。
「これはまずいことになったかも・・・・」
未知との遭遇および交流に喜び勇んでいた気持ちはどこかに飛んでいき、ただ呆然とするほかなかった。