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まだ今は、何者でもない  作者: 天水しあ
第2章『caféクヴェレ』
8/8

第8話「夏休み」

「おっはよーございまーすって、誰もいないか」


 裏口に回り、セキュリティを解除して店の中に入ったけれど、やっぱり誰もいなかった。チャットワークで連絡があった通りだ。和泉さんは大学の集中講座、ハルくんは和泉さんの用事で直行。ここのところ、ずっとこんな感じだ。


 タイムカードを押すと8時45分。いつも通り。

 あたしはロッカーにパーカーとリュックを入れると、店と事務所の電気をつける。そうして店と事務所のドアと窓を開け、一気に掃除機をかける。その後はクイックルワイパー。それから机と椅子を拭きあげてから、窓とドアを閉めてエアコンをかける。ここで9時30分。


 ここでロッカーに戻って汗を拭き、メイクをちょっと直してから生成りのエプロンをかける。「よし、準備完了!」

 オレンジのリップを塗って、洗面台の鏡で笑顔確認。相変わらずの斜め前髪を指先で整えると、気分は上がる。


 だけど。


「……やっぱり誰も来ない……」

 あたしは、カウンターで流し台を拭きながら呟いた。


 ここに来て半月ほど。

 先週夏休みに入ってからはオープン前の9時から18時まで店に入っている。


 なのに……本当に人が来ない。


 最初はそれでもやることがあった。

 よーく見たら窓の桟には埃がたまっていたし、テーブルやカウンターにも染みや傷があったから。カウンター内もゴチャゴチャしていて、棚の中も整理されてなくて、食器が取り出しにくい。それで和泉さんがグラスを割ってしまったこともあった。冷蔵庫もレンジもトースターも流しも、よーく見ると汚れていた。


 だからあたしは、和泉さんに許可を取って洗剤やら補修用具やらを買いに100均にチャリを走らせ、店内の染みをこすり落としたり、傷を埋めたりした。

 カウンターの中も徹底的に掃除し、棚や冷蔵庫の中も中身を全部出して掃除してから整理した。それが終わったのが三日前。


 次にメニュー表を直すことにした。

 本当は写真付きにして、全テーブルと4人が座れるカウンターには最低2つメニューを置きたかったけど、「うーん、今はいいかな」と和泉さんに言われたので断念。まあ、下手したら一日お客が来ない日だってあったんだから、確かに今は無駄だよね……。

 

 でも!

 いつか作れる日に備えて、アイデアは色々作っておこう。


 とりあえず、味気ないMS明朝のメニューをもうちょっとかわいい字体にして、色も考えよう。

 本当はメニューも増やしたい。だってここ、本当に飲み物しか置いてない。それもものすごい定番モノばかり。カップやグラスは凄くシンプル(よく言えば)、で、中味はアイスならボトルから注ぎ、ホットならお湯を注ぐ(コーヒーは〇〇〇ディの口コミ大正解!)、のみ。で、そこそこのお値段。軽くつまめるお菓子すらない。

 お金儲けにしてはやる気なさすぎだし、金持ちの道楽にしては手を抜きすぎ(そもそも、店にいないし)。


 なのになんでレンジやトースターやコンロが揃っているかと言えば……。


 通知音。カウンター隅に立てかけてあるタブレットからだった。

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