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まだ今は、何者でもない  作者: 天水しあ
第2章『caféクヴェレ』
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第7話「仲間!」

 従業員口のドアを出ると、左手は舗装された何もない空間、右手は物置とかメーター類なんかが並んでいた。ビルの左右とも人ひとり通れそうな空間が空いているようで、周りはフェンスで囲まれている。


 和泉さんが物置をガサゴソしていると、ドアが開いた。

 ハルさんだった。

 腰にいろんな道具が入ったポーチを巻き、右手に白い円状の何かを持っている。

 和泉さんは物置から折りたたみ椅子を出してくると、空間の中央に椅子を広げ、「はい座って」あたしに声をかけてきた。


 あたしがおとなしく椅子に座ると、ハルさんが後ろからクロスをかけてきた。帽子みたいに縁がそりあがっていて、落ちた髪が下に落ちない形状のやつだ。おうち散髪みたいだ。

 ハルさんはあたしの首にマジックテープを巻きながら「お任せでいい?」って疑問形で言ってきたけれど、初対面のあたしは頷くことしかできなかった。


 そんなあたしに、横に立った和泉さんが「だぁいじょぶ、ハルうまいから」って明るく声をかけてきたけれど、ハルさんは「和泉さん、邪魔」冷ややかな声で言い放った。

 「はいはい」和泉さんは苦笑して回れ右、背後でドアの開く音がして、「じゃあ、楽しみにしてる」の声を残して行ってしまった。


 またしても――知らない男子と二人きりとか!


「目閉じて」

「はい」

 

 もう、なるようになれって、昨日からずっと思ってるな……って思ったら、ジャキッ! と結構な音が聞こえてきた。ば、バッサリ行かれてる……。

 どどどどうしよう、おでこの形よくないから、短い前髪無理なのに――。


 半ば泣きそうになりながらじっと目を瞑っていた。

 その間、シャキシャキと軽快な音が止むことはなく、「ハイ終わり」って言われたときには、「え、もう!?」って思ってしまった。


 あたしは恐る恐る目を開けると、ハルさんが三面鏡を目の前で広げてくれていた。

 見たら、下ろすとお岩さんだったあたしの前髪はすっかり短くなって、両目がきちんと鏡に映っていた。だけでなく。


 「「……×××」」声がハモった。


 この斜め前髪、あたしが大好きなアニメ主人公「×××」と一緒!

 素晴らしい偶然にテンション爆上がりしたのに、しかも同じ考えだとか!


 あたしたちは鏡の中で目が合った。

 言葉は交わさなかったけど、「仲間!」みたいな意識になったことは確か。


「あ、りがとうございます。いい感じ」

「よかった」

 あたしより年下なはずのハルさんは、笑うと深い目尻のしわに埋まっちゃうくらい目が細くなった。屈託ない笑顔ってこういうのをいうんだろうか。無表情でちょっと怖そう……と思っていたけれど、いい人なのかも。


 「もっかい目を瞑って」

 そう言われて目を瞑ると、ハルさんはとても丁寧に、顔についた毛先を払ってくれた。 

 シルバーちっくな灰色という髪色も相まって一見チャラい感じなのに、きちんと仕事してくれる人なんだな、とちょっと感動した。

 いつも行く格安美容院では適当に払われるので、店を出たら絶対鏡チェックしないといけないのに。


「おお、ナナメ前髪かわいいじゃん! ×××みたいだよ」

 お店に戻ったとき、和泉さんがそう手を叩いてくれたとき、あたしはここでやっていこうと固く心に決めた。

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