第二章 真実 其の一
優希子に髪紐を贈ってから一月ほどたった。
あれからも僕達は二人で変わりなく暮らしていた。共に朝食を食べ、優希子を見送り、昼食後に仕事へ行き、夕食を共に食べて眠る。そんな暮らしを続けていた。一月の間で僕達はお互いのことを知っていった。
でも、相変わらず優希子は僕の仕事について聞こうとしなかった。だから僕も話さなかった。
「咲平さん。」
いつものように優しい声で僕を呼ぶ。明るく微笑む優希子の顔を見て胸の奥が熱くなる。
「どうかした?」
「いえ、最近笑ってくれることが多いなと思って」
「そうかな?」
「はい!とても。」
優希子は相変わらず不思議だ。
「咲平さん、そろそろ私お仕事に行ってきます。」
「もうそんな時間か…いってらっしゃい。気を付けてね。」
「はい!行ってきます。」
僕に微笑みながら手を振る優希子を見て僕も手を振る。多分この時僕も少し笑っていた気がする。
優希子を見送った後、僕は家の裏に行った。今は二人で家の裏に畑を作り野菜を育てていた。野菜に水を撒き、収穫をしていく。
そんなこんなでお昼になり、優希子が用意してくれた握り飯を食べ仕事の時間まで過ごした。優希子はいつも僕が仕事に出てから二、三時間ほど後には帰っているらしい。それから夕食を作ってくれる。また何か贈り物をしようか等考えて仕事に向かった。
その日はとても綺麗な満月だった。
僕が仕事に向かっている最中に何が起きていたかも知らなかった。
その日は僕達二人にとって永遠に忘れられない日になった。
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「藤堂さん、私そろそろ帰りますね。」
月が綺麗に見え、辺りが少し暗くなった頃、優希子
は家に帰るために店主たちに挨拶をしていた。
「おお、そうかい優希子ちゃん。気を付けて帰るんだよ。」
「優希子ちゃん、送って行こうか?流石に今日はいつもより暗いし…」
「菊之助さん、大丈夫です!今まで何も無かったし、それに…月がこんなに明るい日だから!だから、大丈夫です!」
「…ならいいけど」
「それでは、また明日!」
そう言って優希子は手を振り家路を辿った。
優希子は月を眺めながら夕飯はどんな物にしようかと考えていた。
「今日は凄く月が綺麗だなぁ、ふふ、咲平さんが好きな物にしたら喜んでくれるかな」
「おい、そこの嬢ちゃん」
「え、私ですか…?」
声をかけられて優希子は振り返った。そこにはガタイの良い男が五、六人程いた。
「今…咲平って言ったか?」
「…い、言いました。」
優希子は酷く怯えた声で答えた。答えを聞いた男達の目が光る。
「運が悪かったな、嬢ちゃん。恨むなら彼奴を恨みな!」
男達は一斉に優希子に襲いかかった。優希子は気を失い。男達に連れて行かれてしまった。
そこには髪紐だけが残されていた。