其の五
美味しそうな匂いとトントンと何かを切る音が聞こえ目が覚めた。
「…んぅ?…優希子…?」
「あ、おはようございます。もうすぐご飯できますよ。」
「うーん、おかえりー。」
「あ、お風呂は沸いてます!先入りますか?」
「そうする…」
風呂に入ってその後、優希子とご飯を食べた。優希子と二人で話をするのは楽しくて、優希子の親が帰ってくるまでっていうのは分かってるのにずっとこんな風に過ごせたらって思ってしまう。
「ねえ、優希子」
今渡そうと思った。
「何ですか?」
「あのさ、そのっ」
どうしたら良いか分からなかった。誰かに贈り物をするなんてしたことが無かったし、どうやって渡したら良いか分からなかった。
「どうしたんですか?」
「そのぉ、あのさ…」
どうしたら良いのか。そんなことがずっと頭の中でぐるぐると巡っている。でも、伝えなきゃいけないと思った。渡さないといけないと思った。
だから…
「あのさ、優希子…これ…」
僕は髪紐を包んだ袋を渡した。
「何ですか、これ?」
そう言って優希子は袋を開ける。
「わぁ!綺麗な髪紐!これ、どうしたんですか?どうして私に…?」
「そのさ、ご飯用意してくれたり、着物くれたり、僕に優しくしてくれるから…だから、その、お礼!」
僕らしくない。こんな風に恥ずかしがるのも、こんなに言葉に迷うのも…。
「ふふ、お礼なんかいいのに。」
「それでも、僕はしたかったんだよ!」
恥ずかしくて顔が少し熱い、ふと、優希子の顔を見た。凄く嬉しそうに髪紐を見ていて、とても、キラキラとしている。優希子は僕の方を真っ直ぐ見た。
「ありがとうございます!咲平さん!」
眩しいくらいの笑顔で微笑む君に僕は思わず息を呑む。今思うと、全然格好のつかない渡し方に笑いが込み上げてくる。でも、何よりも優希子の笑顔が見れて一番嬉しかった。
「咲平さん、早速付けてみてもいいですか?」
「うん」
優希子は髪を下ろし、髪紐を付けた。
「わあ!咲平さん、どう…ですか?」
嬉しそうな顔をして僕の方を見る優希子をみて、僕は自分の目に狂いはなかったと確信した。
ああ、やっぱり思った通り…
「凄く、似合ってるよ」