其のニ
部屋に朝日が差し込み目が覚めた。布団から出て優希子を探し、歩き回る。
「あ、おはようございます。咲平さん。」
台所で料理をしていた優希子が僕に気付き微笑みかける。優希子は急いで支度をし、どうぞと机に料理を並べる。米に味噌汁、漬物が並んでいる。
「こんな質素な物になってしまってごめんなさい。お口に合えば良いのですが…」
僕は味噌汁に口をつけた。
「美味しい。」
久しぶりのちゃんとした食事だった。今まで握り飯ばかり口にしていた。食べない日だってあった。暖かくて優しい味がした。僕の言葉に優希子は笑みを浮かべる。つられて僕も笑みが溢れた。
「お口にあったようで何よりです。あの、咲平さん。」
「何?」
「私、この後お仕事に行かないといけなくて、咲平さんはこの後ご予定は?」
「んー、僕は大体夕刻から仕事だからそれまでは無いかな。」
「そうなんですね。」
何か聞きたそうな反応をする優希子だったけど僕は知らないふりをした。どうせ僕の仕事など聞こうとしたのだろう。聞かれたら答えるつもりだ。でも、聞いてこないなら言わない。
「咲平さん、私そろそろお仕事行ってきます。」
「そっか、行ってらっしゃい。」
そう言って僕は優希子を送り出した。
何年振りだろうか、誰かとちゃんと話したのは。
誰かを送り出したのは…
そんなことを考えながら優希子のいなくなった家で寝っ転がる。することが無く暇だ。少し外の空気でも吸いに行こう。
どうしてだろう、優希子が僕を泊めてくれるのは。どうしてだろう、見ず知らずの僕にあんなに優しくしてくるのは。なんて、考え続けていた。
そんなことを考え続けていたら仕事の時間になってしまった。今日もまた人を殺す。そうでもしないと僕は生きていけないから。
「おい!おせぇぞ、漣!」
「…すみません。」
「まあいい、とりあえずこの男から族の場所を突き止めて始末しろ。それから、その族を潰せ。成功すれば約束通り金を払おう。」
「わかった…でも、約束守ってくれなかったら…」
「君たちも殺すから…」
月が雲に隠れて真っ暗な夜。ただ景色が赤く染まっていく。血生臭い匂いのみが鼻に残る。
「ひっ、ひぃ、や、やめてくれ!頼む!金なら払うから!」
「それは無理だよ…だって君、生きてて意味あるの?」
「ばっ、化け物。」
「それが何?」
僕が化け物じゃないなら、一体何が化け物なのだろう。ただ言われた通り人を殺す僕が化け物じゃないわけが無い。
「僕はこれからもずっと化け物だ。」
手や服に着いた血。
「あーあ、また優希子を怖がらせちゃうな…」
それでも僕は人を殺す。生きていくために。
依頼主に金を貰って優希子の家へ向かう。こんな生活をいつまで続けるのだろうか。でも今は優希子がいる。それだけでいつもとは違うのだと思うと少し面白いと思った。