第一章 始まり 其の一
あれは桜が月に照らされ、幻想的な夜の事。
僕は初めて彼女に出会った。
生きる意味もわからない。人の気持ちもわからない。ただ頼まれた通りに人を殺す。そんな血で汚れた僕に彼女は話しかけた。
「あ、あの!怪我、してますよ!大丈夫ですか…?」
艶やかな美しい長い白髪に白く絹のような肌、ガラスのような綺麗な瞳の彼女は一瞬で僕の心を奪った。
今思えば僕は初めて彼女に出会った日に彼女に一目惚れをしたんだ。
「…?あのー?…と、とりあえず!手当しましょう!私の家、近くなんです!行きましょう!」
不思議だった。こんなに血で汚れているのにどうして彼女は僕を怖がらないのか。どうして僕に普通に話しかけられるのか。不思議でしかなかった。
「ここです!私の家。」
そう言って彼女が連れてきたのは古くて小さな建物だった。
「すみません、狭くて。あ、お風呂沸かします!手当するなら身体の汚れとか落としてからの方がいいですよね?」
「ねえ」
「えっ、なんですか?」
「いや、なんでもない…」
「そうですか!あっ、ゆっくりしていてください。」
彼女は急いで風呂を沸かした。
「お風呂沸いたみたいです!どうぞ!」
「あ、ああ。」
彼女は僕を風呂まで案内した。僕は言われた通り風呂に入り身体中に着いた血を洗い流した。ますます不思議だった。どうして見ず知らずの僕にこんなに親切にするのだろう。そんなことを考えながら僕は風呂を出て、着物を着た。
「あ、御上がりになられたのですね!お湯加減如何でしたか?あ、そんな事より傷の手当て!」
騒がしい娘だと思った。それにすごくお人好しだと思った。慌てふためきながら僕の手当てをし、僕にお茶を出し、目の前に座る彼女。今なら聞けると思った。
「ねえ、僕の事…怖くないの…?」
「え?」
「だから、僕の事…怖くないの…?」
「その、えっと…正直に言うと血だらけで怖かったです。」
やっぱりそうだ、こんな僕を怖がらない人なんているわけが無い。そんな事を分かっていながら僕は期待をした。
「で、でも!だからって傷だらけの人をほっとくことは出来ないです!」
「!」
僕は驚いた。やっぱり君は不思議だ。
「ねえ、君名前なんて言うの?」
「え?えっと、優希子、鈴ノ宮優希子です!」
「そっか、ねえ優希子は家族は?」
「えっと、父と母がいます!でも…お仕事で今はいないんです。いつ帰ってくるかもわからないし…」
「そうなんだ。ねえ、優希子の親が帰ってくるまででいいからさ、僕をこの家に泊めてくれないかな?」
もっと優希子と話をしたいと思った。もっと君のことを知りたいと思った。
「え、えっとぉ」
「僕、働いてるからさ、泊めてもらってる間はお金も出すし、駄目かな?」
「うっ、わ、わかりました!」
驚いた。まさか承諾してくれるとは思わなかったから。でも、それと同時に偏見を持たない君を見て嬉しく思った。
「えっと、私もお聞きして良いですか?」
「ん?何を?」
「えっと、貴方のお名前を…」
「ああ、僕は漣咲平だよ。」
「咲平さん…」
「そう、それじゃ、しばらくよろしくね。」
こうして僕と彼女の暮らしが始まった。