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イース~Planet Nine~  作者: TAITAN
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第一計画【1999春Ⅳ】


 今は亡国となったイギリスで蒸気機関の発明から世界は随分と変化したとされる。


 主に産業革命から始まった軍拡競争で西洋の島国は世界の3割を支配下に置く一大帝国を築き上げた。


 そして、はるか極東にある東洋の島国は今日世界の4分の1を実質的に支配する盟主となった。


 全ては新型動力源の探求と開発成功から始まっている。


 通常の蒸気機関車が民間では主流であるが、現在も普及中の電源を用いたインフラは世界の半分を明るくしたと言われる。


 そして、神国が数十年前に開発を成功させた究極の動力炉。


 核融合炉は現在も日本にたった4機しかないが、それで日本全国の電力を賄い。


 蒸気機関が要らなくなる時代が来るとされていた。


 それは現在世界で主流となった火力発電を遥かに上回る出力、無限のエネルギーを約束した事で世界の主要な大国を凌ぐ生産性と経済的優位を日本に与えたのだ。


「これが御用列車……」


 電源を用いた高度先進技術の多くは軍事分野において普及されている。


 だが、民間にそれを使うとなれば、莫大な資金が必要だろう。


 この世界の国々が戦争で衰退しつつある昨今。


 何処の国もエネルギー革命を得るには至らず。


 未だ石炭火力発電に大部分が依存している。


 そんな未だ主力である石炭を用いた蒸気機関は何処の国でも安価であるという一点で主要な動力機関だ。


 そんな常識を取り外し、電源を用いて動かす蒸気機関車に代わる電力式軌道列車とやらが開発されていて、世界各国では投入が始まっているとも聞くし、東京でも新型車が少しずつ丸の内で増えているとされるが、未だに見た者は少数だろう。


 だが、その次世代の更に先。


(これが……磁力式浮遊列車というものか……)


 宙に浮いた列車を最先端研究において軍が開発していると新聞では読んでいたが、そんなものがこの当代で実用化されて乗れてしまうというのは奇跡的な事だろう


 東京駅の裏手から地下駐車場に入って長車が止まり、関係者と言う男性に案内されて地下構内に向かって階段を下りた先。


 何処のビルヂングでも使われていれば、最新と呼ばれるだろう自動昇降機エレベーターに乗って到達した先は正しく大深度駅とでも言うべきだろう場所。


 左右の端も見えないトンネル内の駅にその列車は停車していた。


 見事な朱塗りの塗装は小じんまりとした駅の中で何処か鞘を思わせる。


「大佐。説明よろしくね」


 しかし、白髪の乙女。


 宮角結の横にあれば、奇跡も単なる実用品程度に映るというのが何とも悲しい話であるが、密に実用化した研究者や技術者達の苦労くらいは感じてもいいだろう。


「はい。この磁力式浮遊列車【暁光ぎょうこう】は創業六年。従来の蒸気機関式車両や電気式走行車両とも違いまして、レールの上に浮かんで高速で移動する事が可能な神国唯一の列車であります」


「はぇ~~~スッゴイ!?」


 妹は目を輝かせて、わ~~と長い列車を駅の端から端まで外観を余さず見ようとトテトテ走る。


 そして、先頭車両の細長い鼻のような先端。


 工芸品のように磨き上げられ、顔すら映る表面に目を輝かせていた。


「元々は戦時中の地下大深度計画。その一端であるヨモツヒラサカ計画。地下鉄道網の為に掘られたトンネルを利用しており、首都直下150mを放射状に張り巡らせた鉄道でどこにでも時速120キロで迎えます」


「時速120キロ?」


 思わず声が出た。


 現在の鉄道車両は都市部で最大50キロ、直線距離でも事故防止で90キロが走行速度の限界なのだ。


 市街地で二倍以上となれば、それは正しく異常な速さと言える。


「また、専用線を用いれば、未だ開通していない北海道、四国、九州以外、青森から山口まで凡そ最高時速300キロで1日在れば抜けられます」


「300キロ……」


 もう笑うしかない話である。


「うんうん。これで私と君が何処かに旅行したり、逃避行しても一日で帰って来られるね? 佐高君♪」


 ニコニコしてエライ事を言い出す乙女の背後ではジト目の大佐が『お前、分かっているんだろうな?』という瞳でこっちを見ていた。


「……逃避行しないように気を付けます」


「ふふ、もう照れ屋なんだから。じゃ、行こうか? 今日はこの列車貸し切りだし」


「その……まだ聞いてなかったんですが、何処へ?」


「ああ、うん。さっきは話してる暇も無かったしね。実は京都に用事があるんだ」


「京都に?」


「うん。常同家の方に呼ばれてね」


「ッ―――公家の方々、ですか?」


「ああ、うん。私達宮家の方が家格は上なんだけどさ。呼び出されちゃって。丸芽漉まるめずき家って言う家に用事があるんだ」


「そちらの知識は無くて。すみません」


「う~ん。まぁ、簡単に言うと現在の京都付近にある公家諸家の幾つかある親分の家の一つなんだ」


「何だかその言い方で一気に身近になりましたね」


「あはは、詳しい話は中でしよう。私も乗るの初めてなんだ。いつもは軍の高官とか。政府の高官とか。各地に散らばった常同家の方々とか。宮姓の人を乗せてるんだけど、今日は偶々空いてるからってお父様が予約してくれてね」


 言ってる傍からハッチらしき場所が油圧式らしき重々しくスライドして開く。


「さ、行こう? ね?」


 そうウィンクされ、妹と一緒にそうして黒い装甲列車へと乗り込む。


 黒い外装とは打って変わって室内は広々として白い材質が使われているようだ。


 車両一つを丸々貸し切っているらしく。


 内部にいるのは40代のベテランそうな国鉄の客室乗務員だけだった。


『いつでも用事がある時は卓上のボタンを押して頂ければ、すぐに参ります』


 席に座るとすぐ京都行がアナウンスされた。


 大佐は車両の一番奥の扉前で待機。


 中央の数名がゆったり座れる座席は倒したり回したり出来るもののようで舶来品のソファーのようにフカフカで自称妹は大喜び。


 ついでに可愛がられているらしく。


 クロタカ・サブレと紅茶を出されてテーブルの上でご満悦な様子で齧っている。


「殆ど揺れてない?」


「ふふ、さすがの君もちょっとは驚いてくれたようで何よりだよ♪」


 楽し気に小さな二人掛けの対面に出来る座席で白髪の乙女が微笑む様子は少なからず幸せな時間だろう。


「それでどうして京都の公家の家に?」


「うん。何でもご子息が戦争から帰ってきた時のお土産を受け取って欲しいって言われちゃってさ」


「お土産? 最後の戦争の講和条約締結から14年も経ってますけど……」


 明らかにお土産を受け取る期限は過ぎているだろう。


「それがね? 英国遠征時のものらしいんだ」


「イギリス遠征……旧独逸公国領への上陸作戦の時の話ですか?」


「ああ、うん。イギリスが滅んでから国家規模で上陸したのはたぶん僕ら日本が最初だと思うけど、どうやらそこで拾ったものがあるらしい」


「拾ったもの?」


「今まではご子息が保管していたけれど、先日結核で亡くなったそうで。宮角結名義で譲渡するようにと遺言されてたんだって」


「名指しですか?」


「うん。私もどうしてかって驚いちゃって」


「面識は?」


「勿論無いよ。でも、任されたからには受け取って来いって父が言うものだから……つまり、この列車はそんな良く分からない話に突き合わせてしまう大人から子供へのご機嫌取りなのさ」


 胸を張られた。


 世のお父さんというお父さんがご機嫌取りに費やされる金額に気が遠くなるだろう話だが、この日本では宮姓は絶大な権力を持つ者達であり、政治家よりも家格という点では上位にいる上に経済の柱でもある。


 誰もそれにケチを付ける事は無いだろう。


「古瓦や東京から護衛も一人だけで遠出……正しく小旅行、ですか?」


「そうそう。明日明後日は祝日でしょ? お仕事が終わったら一緒に回ろうよ?」


「その……」


「『いいんですか?』は無しだからね?」


「……はい」


「ふふ~~佐高君と小旅行~それにしても可愛い妹さんだよね。君が言ってた通り、クロタカ・サブレを頬張ってる時が一番可愛い♪」


「むぐ?!」


 その言葉に思わず喉を詰まらせそうになった自称妹が目を白黒させつつゴクリとしてから、こっちを見て、ちょっと赤くなった後、目を逸らした。


 どうやら今日は猫を被ってくれるらしい。


「まぁ、君を傷つけられちゃったのは私の不徳の致すところだけども……」


 ちょっと申し訳なさそうな顔に思わず首を横に振る。


「十分ですよ。ゆうさんがいなければ、七日七晩不眠で拷問コースでした」


「あはは、大げさだなぁ。さすがにどれだけ権力があっても、戦時中の秘密警察みたいには出来ないよ。精々が3日くらい拘留して、指を数本折られて体中を殴られるくらいじゃないかな?」


 サラッと怖い事を言うお嬢様はやっぱりそういうのが分かる家なんだなと内心で苦笑しつつ、頭を摩る。


「あ、そう言えば、大佐ぁ~」


「はい」


 瞬時にこちらにやって来た大佐が彼女の横に付ける。


「あの人、知ってる? 佐高君を掴み上げたヤツ」


「はい。情報総監部所属の情報将校でしょうが、あの風貌と言動。恐らく日高家の小倅でしょう。名前は日高一誠だったかと」


「日高って確か大佐と同じ、軍部の日姓関連の家だっけ?」


「はい。宮下の子飼いです」


「宮下のか。う~ん。彼が何してたのか分かる?」


「このチラシのせいで動いていたようです。昔の部下の話ではイギリス関連の事件を追っているとか」


 その話でようやく大体の事情が揃ってきたのを感じた。


「普通の英語じゃなくて、イギリス英語かな?」


 何処から持ってきたのか。


 少し汚れたチラシを見る白髪の乙女がう~んと首を傾げる。


「古語で文体もかなり古いものです」


「あ、そう言えば、佐高君はそういうの詳しいんだっけ?」


「まぁ、程々に」


「へぇ~~で、何て書いてあるの? ノストラ~とか破滅~とか?」


 内容を聞かせるとまた首が傾げられる。


「ノストラダムス卿って誰?」


「歴史に詳しい人間なら知ってるかもしれませんけど」


「ふぅむ。予言かぁ……人類は破滅するんだよー!! な、何だってーっ!? て言われてもなぁ」


 人類は未だ戦争大好きであり、死滅した100万人規模だった民族国家はこの百年で12にも及ぶので、世紀末というのは破滅の世紀だと言う学者も多い。


「ただイギリスが破滅した理由は未だ定かではないですし」


「まぁ、そうだよね。軍部も警戒してるのかも?」


「核融合炉の開発に失敗して実験で蒸発した、らしい。とは言われてますが、一面ガラスの大地になった、なんて未だに解明されていない世界七不思議の一つです……軍部が念入りに調べているとしてもおかしくありません」


「ま、取り合えず今は何か実害があるわけじゃないし、野良犬に噛まれたと思って忘れちゃおうよ」


「そうしておきます」


「では!! 佐高君!!」


「は、はい……」


 いきなり声を張り上げた白髪の乙女がニンマリした。


「私に助けられてしまった以上、佐高君は私に恩があるはずだよね!?」


「ええ、まぁ、その、はい……」


「よろしい。では、これからはゆうさんではなく。ゆう!! ゆうって呼んでくれるよね? いや、呼ぶべきだよね!?」


 ズイとこちらに迫り出すように『ふふふ♪』と彼女が近付いてくる。


「さ、優しく言ってみよう。ゆう……ゆう、だよ?」


 上目遣いにおねだりされた。


「そ、それはさすがに……」


「いいのかなぁ~~? 軍部から救ってあげた恩人にそんな態度を取って~」


「分かりました。分かりましたから。近い近いですって……じゃあ、こほん……ゆ、ゆう?」


「ふ、ふふ、ふふふ~~♪」


 嬉しそうに白髪の乙女がやはりニンマリした。


 いつもよりも何処か楽しそうなのは学校ではそれなりに気を使っているからなのかもしれない。


「聞いちゃった♪ 佐高君は未婚の乙女を名前で呼ぶなんてフリョーだね♪」


「まぁ、軍にジロジロ睨まれるくらいには……」


「このこのぉ~~ふりょー♪ ふりょー♪ ふりょーガクセー」


 楽し気に連呼する乙女はいつもの乙女っぽくない。


 さすがに子供っぽ過ぎるだろう。


「?」


 何だか様子がおかしい事に気付いて、飲んでいた紅茶の香りが漂ってくるので気付いた。


「ブランデー?」


「あ、にーちゃん。このコーチャ美味しいよ~お酒ってお茶に合うんだね。知らなかった~~」


 サブレの次は紅茶を堪能している妹の弁である(ウチには二つのザルがある)。


「その……日辺大佐殿」


「殿は要らん。大佐でいい」


 フニャァとふやけた乙女が目を回してクタッとしていた。


 意識朦朧状態らしい。


「お嬢様は下戸だ。どうやら乗務員がいつも出しているモノを持ってきたようだ」


「初めて見ました。こんな彼女……」


「見られてたまるか。はぁぁ、年頃の乙女がはしたない……」


 初めて直接話した大佐はゆうを抱き抱えるとそっと傍の背凭れを倒した座席に座らせて傍に用意していた毛布を掛けた。


「初めて話すな。神医じんい……」


「まぁ、大佐は知ってるでしょうね。こっちのアダ名は……」


「貴様の話は一部界隈では有名だからな。年頃の乙女にだけ効く万能に近い医療技術を持つ闇医者、だとか」


「………」


「賢いのは良い事だ。そうしておけ。こちらはいつでも報告する義務がある」


「そうですか」


「巨兵殿が一角と思うには十分な才覚だ。中身が何であれ。お嬢様が親しくしたいと願うならば、それを遮る事も無い」


「何故、それを今?」


「イギリス帰りの公家の長男が遺産を残した。イギリスの古語で書かれたアジビラがお嬢様が出立する直前、東京駅で撒かれる。偶然だと思うか?」


 大佐がタバコを胸元から取り出して火も付けず咥えた。


 ナインスター・ロッジ。


 裏では何でも売ってくれると有名なアーカムに本社ビルヂングがある総合商社イエロー・フラッグの子会社が出している銘柄だ。


 黄色くて細い巻紙に九つの星が刻まれたタバコは高級品として1円未満になる事は無い男の嗜好品である。


「……誰かが何かを知らせる為に撒いた、と?」


「公安からの報告ではこのアジビラを撒いたのは誠道会という宗教組織らしい」


「誠道会? 何処かの組みたいな名前ですが……」


 大佐が話すところによれば、どうやら元々は福祉団体だったらしいが、それを隠れ蓑にして大量の違法行為をガイジンの子供を洗脳して行わせ、荒稼ぎしている集団なのだという。


「子供らしくしておけば、後は大人が後始末するが?」


 大佐の発言は至極当然の域で可能な話だろう。


 宮姓の家の権力と保有する技術、暴力は実際のところ軍を動かすだけのみならず。


 私兵だけでも集めれば師団単位の戦力を運用可能とすら言われているのだ。


 そんな家と軍の癒着そのものに見える彼


 日辺大佐。


 帝国陸軍の位でいけば、一佐と本来の階級で呼ぶべきだが、誰もが大佐と呼ぶ彼の“後始末”の弁は信頼に値する事だろう。


 が、そういうのを当てにして良かったことは一度もないので自分で確認しておくのがこちらの流儀だ。


「そういう柄なら良かったんですけど」


「フン。胡散臭いを通り越した相手に今更か……」


「内実は?」


「近頃、様子がおかしいという報告がある」


「組織内部での異変ですか?」


「ああ、具体的には構成員が何か虚ろな様子で一部の新規構成員が幹部に収まったとか。いきなりシマを拡大させて、ドヤ街を仕切ってる【街堂会ガイドウカイ】と抗争中とか。情報が錯綜していてな」


 チラリと横目に自称妹を見やる。


 酒が入ってフンニャリした様子でうつらうつらしていて、聞いている様子は無かったので後で寝かせておこうと決める。


「構成員が全員行方不明になっても誰一人困らなそうですね」


「行方不明者にお悔やみ欄は無いという事は覚えておけ」


 あまり深入りするなと釘を刺される。


 肩を竦めた大佐は再び車両の後方へと戻っていった。


 数時間後、京都に付いた時間は恐ろしく早く。


 京都駅地下から地表に出てすぐ回されている“いつもの”長車に乗った大佐が現れ、夕暮れ時の千年の都の車窓を眺める事になったのだった。


 *


 京都鳥羽伏見。


 長岡京も傍にある地域。


 寺社仏閣が多いという地域は現在もその威厳を示している。


 今でもあちこちの座敷に向かう舞子がいれば、店先には東京のような猥雑なネオン看板が軒を連ねていたりもしない。


 東京が最先端を行く都市ならば、京都は古き良きというべきだろう姿を未だに保持している。


 その一角。


 名前の無い寺社の社務所の裏手。


 駐車場に止まって、階段を登れば、小さくはあるが風流と言えるだろう様々な樹木と草花に溢れた玄関先が現れ、出迎えに見えたのは60は過ぎているだろう小さな肩の眼鏡に口ひげを生やした人物だった。


 品が良いと言うには柔和な笑み。


 彼女が出向いて挨拶をしていると何やら頭を下げてから一通の手紙を差し出し、何やら耳打ちしてから何処か申し訳なさそうな顔になり、僅かに礼服姿ながらも指で目端の涙を拭ったようだった。


 それに何やら語り掛け、互いに握手してから戻ってきた彼女は緊張が少し解けた様子で背後に大佐を付けながら、車両前で待っていたこちらに手を振る。


「それが?」


「あ、うん。どうやら“お土産”の在処が書いてあるらしい」


 小さな小山の裏手は管理こそ行き届いているが、暗く。


 街の明かりも電灯が取り入れられてはいるが、それでもやはり伝統的な座敷や店舗は控え目な明かりが好まれるという事で周囲の砂利が敷き詰められた駐車場は闇に飲まれつつある。


「詳しい事は中で。大佐」


「どちらへ?」


「このまま清水方面に向かってくれるかな。清水方面にある村中孤児院て所に向かってくれ。分かるかい?」


「周辺地理は全て頭に入っています。どうぞ御乗り下さい」


 三人で再び後部座席に乗り込むと手紙らしきものを開封した彼女が後部座席の明るいライトで照らした手紙に目を走らせる。


「……そういう」


「どーいう?」


 自称妹が横合いから人の手紙を見るという悪行を働くが、ゆうは咎める事も無く説明し始める。


「どうやら、彼はイギリスでお土産を見付けて、現地の生き残りの人達と交流を持ってたようなんだ」


「生き残り? イギリスは人口の9割9分以上が消えた後、各国の残存していた人口が再開発しようとしたものの、ガラス化した大地の前に再建は頓挫して放置されていると聞き及んでますが……」


「いや、それがどうやら沿岸部の一部の地域には僅かながらガラス化していない領域が残されていて、そういう場所に住まう漁民と親交を持ったみたいなんだ」


「はぇ~~何か奇跡って感じ?」


 妹が驚きつつ言う奇跡という言葉に苦笑した彼女が頭を撫でる。


「そう、奇跡さ。でも、彼はその奇跡を怪しんでいたようだね」


「怪しむ?」


「うん。見てみて」


 差し出された手紙を前にして躊躇していると読んでもいいと再度彼女が頷いた。


「……英語? それもイギリス英語……」


「うん。彼はどうやら任官時に通訳として期待されていたみたいなんだ。現地でもしも誰かと交渉する際には通訳を……つまりは前線に出ない事が前提の役柄だったって事だね」


 数枚に手紙にしっかりと目を通す。


「……『この手紙を見ているという事はもう私はこの世にいないだろう』」


 そう、彼の独白のような書き出しで文面は始まっていた。

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