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最強漁師の異世界遠洋漁業物語  作者: spear head 杉本
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龍と虎と

戦争

  6章 この世界が創られて


 『あ、貴女は?』


 アラン伯爵は椅子に深く腰を掛けると光虎に鋭い視線を向けた。室内に緊張が走ったのが大介にも肌で感じ取れた。溜まらずらクラウドが両者に割って入った。


 『領主様!こちらの方々は信頼出来ます!兄も港を救ってくれたと申しております、是非ご助力願いましょうぞ!』


 『クラウドよ、私が言いたいのはその様な事ではない』


 『領主アラン殿、何故だか私もちぃ〜っと気が合わない様な気がしますわ』


 2人はバチバチに睨み合っていた。


 『ふ、猫の手も借りたい時ではあるが、、クラウドよ、、女神様にはお引き取り願え、、このアランのヤマカンが外れた事は、、?』


 『有りません!、、ですが女神の力無くして次の龍魔王の侵攻は防げません!』


 大介は光虎とアランのやり取りに違和感を感じた。確かに光虎は少しばかり失礼な女神である事は違いないが初対面でアランの光虎に対する敵愾心はないのではないか。しかし、ヤマカンなんて言葉がこの世界にもあるのか。


 『領主様、俺は別世界から来た漁師です。女神様は見た目の露出狂とは違い、本当にこの世界を守るために来たんです。初対面でそれは酷くないですか?』


 『、、すまない、大介。何故だか私はこの女神とはソリが合わない様な気がする、、』


 見かねたグラントも話に割って入った。


 『領主様!港は偽物議長たちの策略で龍魔王の軍門に降ろうとしています!女神様が我らの後ろ盾になってくれたら俺が若い衆を使って年寄り衆をまとめます!時間がありませんよ!』


 続けてクラウドも進言を始めた。


 『な、なんと港ではそんな事になっていたとは、、!いや、それに龍魔王の軍勢がアラン港より10キロの海上に出現したと哨戒に出ていた海軍より連絡があったばかりです、、!恐らく偽物議長が死んだ事で予定より早く仕掛けて来たのかと、、最早猶予はありません、アラン様!』


 アランは顔を手で覆うと指の間から光虎を見上げた。光虎は勝ち誇ったかの様にニヤニヤとしながらアランを見下ろした。

アランは苦虫を噛み潰したような悔しさが込み上げてきた。痛めた足を庇いながら椅子から立ち上がった。


 『く、く、何故かは分からんが俺はこの女神に跪く事は、俺の魂が拒否をしておる!しかし、今は私1人の意志で判断してはならない、、とも理解した!女神よ、共闘願おう!但し、我らはそなたに降りたのではなく!あくまでも今回限りの共闘として!』


 光虎はニヤニヤしながら答えた。


 『分かった分かった!アラン殿、そなたのヤマカン、確かに見事よ。何となく気付いておる様じゃな?また折を見て話そうぞ』


 『アラン様!ご英断に御座います!』『流石は御領主様だ!』


 その場にいた皆がアランを称えた。大介もホッと安堵したが光虎とアランには何か事情がある様に思えた。


 『ではアラン殿。此度の戦さは私が指揮しよう、其方は足を怪我しておる故』


 『く、指揮権まで寄越せとは何たる強欲よ!、、クラウドよ、後は任せる。良きに計らえ』


 『欲?私に欲などある筈もなく。我は義に従って戦うまでよ、、』


 大介はこの女神は確かに食欲は旺盛だが私利私欲で戦っている様には思えなかった。


 『、、義?、、それに龍、、か、、。何処かで聞いたフレーズだな、、ふっ。魂が震えるのが分かる、、』


 場が落ち着きを取り戻してきたところでクラウドが話しを本筋に戻そうとした。


 『それでは状況を確認します!皆様地図をご確認下さい!本来なら9日後、港に龍魔王軍、第2軍がアラン港に再度侵攻の予告をしておりました!港では漁港の偽物議長が龍魔王の軍門に降ろうとしたのを女神様御一行が阻止、、!』


 光虎は腕を組んでふふんと鼻を鳴らした。


 『女神様御一行が阻止!昨夜哨戒中のアラン海軍より港より10キロ南の海上に龍魔王軍第2軍の船、多数を発見!敵の進軍速度からみて我がアラン港へ到着は本日午後、、!港の残存攻撃力はカノン砲5門、漁師500名内半数は年寄り衆、我が近衛兵団1000、戦艦が3隻現在は全て哨戒に出ておりますが午後には全て帰港出来ます!』


 『、、これだけの兵力をその細腕の女神が指揮を取れるのかな?縁もゆかりも無いこのアランの地で、、やはり指揮はこの私が、、』


 アラン伯爵が話し終える前に光虎が話し始めた。


 『、、港は捨てます。海軍の船は3隻とも海上5キロの地点で待機、、』


 『な、な、女神様、、港を棄てては我が方に勝ち目はありません、、!』


 流石のクラウドも光虎には納得し難い様子だ。


 『、、女神よ、、臆したか、、』


 午後を回った昼下がりになり、港を龍魔王の軍勢が包囲した。龍魔王の指揮艦に乗船する第2軍副官のダルメシアが双眼鏡を覗きながら軍団長ブァフォメットに港の状況を伝えた。


 『ブァフォメット様、、港から仕掛けて来る様子はありません。忍び込ませていた議長の影からも連絡が途絶えていましたが、、これはやはり何やらありましたな、、』


 『ダルメシアよ、良いではないか。此度は無傷で上陸出来るというもの』


 『、、ここは慎重に進めましょう、、第五軍団長青龍様が消息を絶った海域からアラン港はそれ程離れてはおりません。女神がこの港に入ったかも知れません、、』


 『ふぅ、、ダルメシアは慎重よなぁ、、それでは詰まらんぞ。真正面から蹂躙するが龍魔王の軍勢というものよ』


 『は、申し訳ありませぬ。某は策を張る事が仕事です故、、』


 『何にせよ上陸しなければ始まらない、、陸戦隊を降ろしてアラン城まで兵を進ませよ』


 『、、はっ』


 第2軍の陸戦隊約1000のゴブリンが港へ上陸した。港は静まり返りっていた。ゴブリン陸戦隊が200港に兵を置くと残り800が真っ直ぐアラン城まで進軍した。


 『こりゃ、楽な戦さだわ!龍魔王様より褒賞が出るぞ!』

  

 800のゴブリン陸戦隊が城門まで到達した。当たりは少し日が陰りを見せていた頃。ゴブリン達は勝ち戦で士気は高い様だ。あちこちで雄叫びが上がっている。

 ゴブリン陸戦隊隊長が隊列から前に出て叫び声を上げた。


 『アラン伯爵に告ぐ!港は我々龍魔王軍第2軍が占領した!貴様の首と、この地に女神が居るなら女神の首を差し出せば城兵どもの命は助けてやる!』


 アラン城の城壁から首が2つ、ゴブリン陸戦隊隊長の前に投げ捨てられた。1つは金髪のロングヘア、もう1つは女の首だ。城壁にクラウドが立った。


 『龍魔王軍よ!長旅ご苦労!私は近衛兵青年部団長のクラウドだ!私が女神と伯爵を始末した、そちらの首がアラン伯爵と女神の首だ!軍団長に差し出したい。我々は先の戦さで多大な戦力を城門した!戦う気はない!アランの港と城は龍魔王軍に降りる事にした!では、これより皆にアランの酒を振る舞いたい!』


 ゴブリン陸戦隊から歓声が上がった。ゴブリンの下士官以上が城の中庭に招かれ、兵は外で待機した。

 兵達は皆樽の酒を我先に木製のジョッキに注ぐと次々と樽を空にした。

 下士官達にもアランの地に伝わる酒が振る舞われた。城壁の上からクラウドが下士官達に話し始めた。


 『長旅、実にご苦労である。、、そして、ここが其方らの終焉の地に御座います、、』


 中庭は兵舎に囲われており、兵舎2階、3階からアラン城兵が弓を構えて中庭で酒を喰らう士官、下士官約50に狙いを定めた。


 『おのれ!謀ったな!ではこの首は、、!?』


 ゴブリン陸戦隊隊長がクラウドに叫び声を浴びせた。

 

 『当然、偽物よ』


 クラウドが右手を真上から真下へ下ろすと城兵が一斉に射撃した。あちらこちらでゴブリンの士官、下士官達が断末魔をあげる。僅か5分の弓の攻撃で壊滅した。異変を察した城の外に待機しているゴブリンの兵どもは慌てふためいている。

 城から狼煙が上がるとアラン城の東の森から近衛騎兵がゴブリン陸戦隊に襲いかかった。先陣を切るのは女神光虎、2番槍には愛が続き、光虎を先頭に三角の陣形で突き進んだ。東の森にはアラン砦があり、有事の際は奇襲に使われていた。城とアラン砦からの奇襲で挟み撃ちになる格好となった。


 『このまま魚鱗乃陣形にて敵陣に突っ込めぇ!!』


 光虎が号令を掛けると近衛騎兵全体が淡い光に包まれた。


 『こ、これが神の加護か!力が、溢れる!』


 近衛兵の皆が光虎の神の力を実感した。


 『さぁ敵を討ち取り武功を立てよ!この戦さ、義は我らにあり!』


 光虎が刀を掲げると騎馬が前脚を上げた。まさにその姿は軍神そのもの、士気は最高潮となった。奇襲を受けたゴブリン陸戦隊はなす術なく皆、撫で斬りにされた。


 脚を引きながら城壁に上がってきたアラン伯爵がクラウドの隣に立ち、その戦さ振りを目の当たりにした。


 『こ、これが軍神の戦さか、、我らでは撃退するのが精一杯であったのに。いや、、港を守れなかった時点で負け戦だった。こんな戦さ、、見た事が無い、、?イヤ、、待て、何処かで、、??何処で見た、思い出せん』


 『伯爵、、如何しましたか?間違いなく彼女は女神にございます、、ゴブリン陸戦隊も壊滅した様子、、こちらの損害は0、、龍魔王軍相手に、、』


 光虎は馬上で一息吐くと丘の下の港を見下ろした。


 『ここまでなら正直私でなくても如何様にもなるが、、海の上では大介、、貴方が必要よ、、』

 

 一方その頃、海上の副官ダルメシアが遠眼鏡でゴブリン陸戦隊の壊滅と狼煙を目撃していた。当たりは薄暗くなってきた。


 『ブァフォメット様、、ゴブリン陸戦隊、、壊滅です、、この様子では城内に入った士官、下士官どもも皆、、』


 『な、何という事、、直ぐに港に残した200をアラン城へ向かわせなくては、、!』


 『ブァフォメット様!今更200を入れた所で如何様にもなりませんぞ!』


 『で、では水兵を投入すれば、、』


 『水兵に陸戦を、、!?チィ!無策に兵を揚げるから斯様なことに、、!私が上がり士気を執ります!、、信じられん、800のゴブリンが僅か半刻で壊滅とは、、!』


 ダルメシアは旗艦からカッターに乗り換えると水兵10とともに港を目指した。

 ダルメシアが港に上がったと同時に海上の魔王軍の軍艦数隻から爆音が聴こえた。ダルメシアが振り向くと幾つかの戦艦から火柱が上がっている。更に戦艦が砲撃も受けている様で周りで水柱も上がっていた。


 『く、先日の戦さで取り逃したアランの戦艦か、、!しかしこの陸と海との同時攻撃の手際の良さ、、!』


 大介がグラントと2人で夕暮れに乗じて光虎が組み上げた手漕ぎの戦艦で船の腹に爆薬を付けて回っていたのだ。狼煙が上がって半刻待ち、爆薬を炸裂させ、同時に待機させていた軍艦を突入させたのだ。


 『すげぇ同時攻撃だな、、女神様の軍略で敵はあっちゅう間に壊滅だぞ、こりゃあ』


 ボートを漕ぐグラントが感心していた。敵の大艦隊と陸戦隊がなす術が無い。


 『はは、こんな凄い神様だったんだな、もう少し畏むか、、』


 大介も光虎の戦さ上手を目の当たりにして感心した。


 『だ、大介!見ろ!丘の上から女神様の騎兵が港に追撃に駆け降りて来る、、!いよいよ本番だぞ!』


 残った200のゴブリン陸戦隊は光虎の指揮する近衛騎兵にまた壊滅させられた。上陸も間も無く、ダルメシアは水兵と共に水上に残存している船を目掛けてカッターを漕ぎ出した。

 大介は光虎から事前に教えられていた策を思い出した。


 『、、大介。よく聞いて。この策は貴方がカタをつけるの。必ずアラン城の陸戦隊が殲滅して狼煙が上がれば旗艦から高級将校が動くはず、、。ソイツを必ず生捕りにして!いくら敵の歩兵を倒しても戦さは終わらないわ、、交渉カードを手元に置きたいの、、。危なくなったら無理はしないで、、、絶対死なないでね』


 大介が敵の高級将校を捕らえるなど、出来るのだろうかと不安になったが事前に考えていた策を決行すると腹を括った。漁の前でも神に手を合わせた事はなかったが今日は素直に光虎に無事を祈ろう。


 『、、ハアハア!なんて事だ、、ブァフォメットなんかに軍団長なんて務まる筈がなかったんだ、、龍魔王様の人選ミスだ、、【深淵の歪み】に戻ればこの失態、龍魔王様に進言してやる!』


 『ダルメシア様!前方にボートが、、アランの漁師の様です!』


 ダルメシア達が乗船の行く先にグラントがボートを横付けした。


 『よぉ、龍魔王軍の皆さん。アランの漁師のグラントだ、、俺たちは約束通り港を龍魔王軍に進呈して通過させてやったのに、、東の岩場にいくつか漁船を隠してあるから使うか?軍艦はアラン海軍に捕捉されている、、この夕闇に乗じて、、』


 『く、貴様!私は騙されんぞ、これも策であろう、、!グワァ!』


 水中に潜んでいた大介がダルメシアの脚を取り、海中へ引き込んだ。


 『ガボガボ、、!』


 『ダルメシア様!貴様ら!、、!』


 『あんたらはここでお疲れさーん』


 グラントはダイナマイトの導火線2つに火をつけると龍魔王軍の水兵に向けて投げつけた。カッターは爆発と共に海の海蘊と化した。

 海中ではダルメシアが大介を振り解こうと抵抗を試みるが水中で大介には敵わなかった。


 『ぐ、ぐぼぉ、、人間風情がぁ、、ぐぁぁ』


 『、、そろそろ良いかな?』


 ダルメシアは海中で暴れに暴れた為に随分弱ってきた。頃合いだと判断した大介は水面へ浮上した。

 

 『プハァ!グラント!コッチだ!来てくれ、、!ヴぁ!』


 『だ、大介!』


 大介は再びダルメシア諸共海中に引き込まれた。このデカい触手には覚えがある。


 『ぐ、ぐら〜げんん、、ガボボ!』


 『第五軍がら、ひぎぬいでやっだのよ、よぐやっだグボボ!』


 クラーケンは大介とダルメシアを触手で引き離すと大介を更に深みに引き込もうとした。ダルメシアは手足をばたつかせながら水面を目指した。

 流石の大介も息が続かなくなってきた。大介はグラントから護身用に持たされていたナイフを腰の鞘から抜いてクラーケンの触手をなぎ払おうとした。


 ボン!


 大介はまたしてもクラーケンの触手を切り裂いた。


 「つか、何で俺にこんな力があるんだ?しかも水中で。人間業じゃねぇ」


 大介は確かにこの世界に来て光虎に3倍の速さと強さで動ける様に加護を付与されたのだが。


 「今は何でもいいか!このまま切り刻んでやる!」


 前回はクラーケンは偵察に来ていたので大介の抵抗にすぐさま退却したが、今回は威勢よく大介に触手を切られても次々と触手を伸ばして大介に襲い掛かった。

 大介は冷静に、丁寧に触手を切り落としていくとクラーケンはいつの間にか頭と胴体だけになっていた。


 「見える!敵の急所!両目の中央!」


 クラーケンにナイフを突き立てると海の底へと沈んでいった。大介は魔物に打ち勝った安堵と同時に人間離れした自分に恐怖すら覚えた。ゆっくり海面に上がり、酸素を思い切り吸い込んだ。


 『大介!やったか!?こちらも敵の高級将校を生捕りにしたぞ!敵の艦隊も退却を始めた様だ、、この戦さ、俺たちの勝利だ!』


 こうして龍魔王軍第二軍の大規模な攻撃を僅か半日の野戦で勝利する事が出来た。岸壁では光虎と愛が勝鬨を上げていた。大介は光虎がこのまま龍魔王軍を難なく倒してこの世界に平和を齎してくれると確信した。

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