ワガママ女神の本領
いよいよ龍魔王軍との戦いが始まる
第3章 船出
大介は光虎と愛に磯釣りを教えていた。愛は飲み込みが早くかなりの数の根魚を釣り上げていた。光虎はと言えば、
『女神たる者、奉納の品を自分で獲るなどあり得ません!』
と言う始末。少なくとも、この無人島で生きるには魚を釣るしかなかったのだが。
『女神様よぅ、ここに来て3日が経つけどこのまま3人で無人島生活を続けるつもりですかい、、。?』
大介は釣竿の糸を垂らしながら光虎に文句を言ってやった。
『貴方はまたそうやって不敬を働くのですね、、そこに直りなさい、不調法者、、。』
『光虎様、大介様、、釣りにもそろそろお飽きになられてきたようですね、、』
愛が2人の会話に割ってきた。
『愛さん、何かいい道具は無いんですか??、、イカダとかでも有れば良いけど、、』
愛は目を閉じ、小声で呪文を詠唱し始めた。空中に魔法陣が浮かぶと愛は手を入れて手探りを始めた。
『てってれー、3人乗り手漕ぎ、、、ボート、、』
小さな魔法陣から4メートル程の木製ボートを無理矢理引っ張り出した。
『ちょ、愛さんそんな高さからボート落としたら、、!ここ岩場だから、、ああ、言わんこっちゃない!』
ボートは魔法陣から引っ張り出されると勢いよく飛び出し岩場へ落ちるとバラバラになってしまった。
『あ、愛!おバカ!何やってるのよ!』
『申し訳御座いません、光虎様、、!』
普段ミスばかりの光虎が愛のミスには手厳しい。
『め、女神様その辺で、、愛さん、もうボートは無いのか?』
『ざ、残念ながら、ボートの奉納はそう何度もありませんでしたのでこれしかございません、、。』
木製ボートは見るも無残な姿となった。修復には時間がかかるようだ。
暫く無残なボートを見ていたがふと、大介は疑問が浮かんだ。光虎は何故こんなにも奉納を納めさせようとするのか。
『なぁ女神様?何故奉納が必要なんです?』
光虎は怪訝な表情で大介を見た。
『ハァ?あんたバカァ?』
大介はグッと込み上げた怒りを飲み込んだ。
『大介様、神は奉納の品により神通力を高めます。大介様も漁の前には神前に奉納をしませんか?神はそれを栄養とし皆の無事を祈ります、、ですが、、』
『ま、俺は死んじまってるけど』
『大介の奉納の品が足りなかったんじゃない?』
大介はまたも失礼な女神に怒りを覚えたがふぅと一息ついて釣りを中止した。今日は魚が釣れていない。
『あーもう、今日は中止だ、潮が悪いわ!』
大介は釣竿を片付け始めると光虎が慌て出した。
『ちょいちょいちょい!大介、貴方何勝手に止めてるの?今日はまだ奉納してないじゃない?』
大介は流石に自分勝手な女神に腹が立ってきた。
『あのさ、女神様?毎日毎日惰眠を貪って俺と愛さんに釣らせてるけど自分の食いぶちくらい自分で何とかしろよ!それに毎回奉納だとか言って俺より食ってるじゃねーか?』
『、、大介様もその辺で、、ハッ!光虎様、海上に波が、、!何か来ます!』
穏やかな波間を縫うように、急速に泳ぎ近づいて来る影。大介達の前まで来ると海から飛び上がり、空中で静止した。人の様だが鱗がある。半魚人か?
『、、おぉ、確かに神なる存在か、、。』
半魚人がしゃがれた声で喋り出した。どうみても正義の味方には見えない。
『、、先日我が配下のクラーケンに命じてこの島を調べさせていたのだが、かなりの手傷を負わされていた、、やはりな。神なる存在よ、我が名は青龍。龍魔王軍の第五軍を預かるものだ。故あってここで排除させて頂く。、、微弱ではあるが神がこの世界に降りてきたとあっては龍魔王様の覇道の妨げになり兼ねぬ。御覚悟を』
大介は腰を抜かしてへたり込んだ。青龍と名乗る男から伝わる邪悪な波動で恐怖した。光虎と愛も突風の衝撃から顔を守るのが精一杯のようだ。
『、、愛!』
『はっ!光虎様の本日のご様子からして、、五虎退吉光は如何かと、、!』
『ええ、吉光なら良いわ!さ、早う!』
愛は小さな声で詠唱を始めると小さな魔法陣が浮かびあがった。その中に手を入れて弄りはじめあ。
『てってれー、、ごたい、、』
『早う寄越しなさい!』
光虎は愛が取り出した刀の名を言い終える前に取り上げた。刃渡りが30センチ程の短刀だ。しかし、体調と刀が何か関係があるのだろうか?大介にまた新たな疑問が生まれた。
『光虎様、神通力が殆ど空の様です、ご無理は、、』
『分かっているわ、私を誰だと思っているのよ!』
光虎は短刀を構えると青龍へ真正面から切り掛かった。
『、、!い、いけない!普段の光虎様の戦いではない!』
大介には光虎は勇ましく斬撃を繰り返している様に見えるが。
『フハハ、神なる力とはこの程度か!龍魔王様の足元にも及ばぬ、、ここで消えい!』
青龍は光虎の素早い斬撃をヒラヒラ交わすと発達した左腕を乱暴に振り回した。その一撃が光虎の右肩に直撃し大きく後ろへ吹き飛んだ。上手く受け身が取れず強かに砂浜へ落とされた。
大介は歯をガチガチ震えさせながら怯えていた。
『、、光虎様は、、いえ、光虎様だけではなく神様は普段の信者からの奉納を蓄え、有事の際に蓄えを神通力に変え力を発揮致します。光虎様は軍神故、戦さの無い日本に於いては奉納の品が昔程集まりません、、。その上、ゲートを開きメーア・ラ・メールへ移転をしエネルギーをほぼ使い切ってしまっています。此処では満足な奉納も有りませんし、、あ、、』
大介はそこまで聞くと神様のシステムを知らなかったとはいえ、光虎に申し訳なく思った。
『あ、愛さん!貴女は戦えないのか!?』
『戦えます、が、私もここへ来てかなりの法力を使いましたので、、ですが言っていられる状況ではないようですね、、』
愛が詠唱を始めると魔法陣を呼び出し、手を入れて弄った。
『てってれー水神切兼光〜、、ぅうぅ〜、、』
『お、おいおい!愛さん!?どうした!?』
『ほ、法力を使い、過ぎて、、光虎様優先で獲れた魚を奉納しておりまし、、たので、、』
『なんだよ、、お腹が減って!?』
『力が、出ません、、』
かなりピンチの状況になってきた。光虎は青龍に連撃を繰り出しているが初めの勢いは明らかになくなってきている。
『、、光虎様は戦さとなれば冷静沈着、、この様に無策に飛び掛かる様な事はしません、、策を幾重にも巡らせ相手の出方を読み、理知的な戦さをするはず、、神通力が空で焦っておられる、、』
『女神様が理知的!?』
大介は普段の光虎から真逆の単語に頭がついていけない。
『フフ、神なる存在よ、そろそろ終わりにしようか、、!』
青龍は邪悪な波動を解放すると一気に光虎へ接近し鳩尾へ強烈な左の突きを繰り出した。
ドゥ!!
光虎は勢いよく吐血をした。
『あ、ああ』
大介はガチガチを口を震わせた。これは現実か?夢か?あまりの恐怖に涙が流れた。光虎を観ると苦しそうに呻いている。
青龍は投げ捨てる様に光虎を砂浜へ落とした。
大介はまざまざと光虎が打ちのめされるのを目の当たりにして見ていられず目を閉じた。
ふと、光虎と出会い、これまでの出来事が脳裏をよぎる。2人で島に来てから失敗ばかりだが楽しかった事、光虎の笑顔がー。
『ち、ちくしょう、、ちくしょ〜!!』
大介は大声をあげ海に向かって走り出し飛び込んだ。
『大介、、それで良い。、、、逃げなさい、、!』
『おやおや?1人逃したか、情けない奴だ神を置いて逃げるとは、、フハハハハ!!』
青龍は光虎が落とした五虎退吉光を足蹴にして浮かせ、手に取って構えた。
『フフ、流石は神が持つ刀、、見事な業物よ、、武人の情け、これで一突きにしてやろう、、』
『く、、光虎様、、ミコさまぁあ!!』
愛も法力を使い果たし動けない。光虎も砂浜から起き上がる事が出来ない。
『フフ、神を、獲った、、!死ねぃ!』
ザバァ!!ブハァ!!
青龍が短刀を突きつけようとするや海面に大介が飛び出した。
『女神様!!磯マグロだ、、!奉納してやるから受け取ってくれ!!』
『な、なにぃ!』
『ふふ、バカね大介、、逃げたら良かったのに、、』
大介は浜に磯マグロを投げると、光虎は両手を翳し奉納を受け取った。
光虎に神通力が戻ると神々しく輝く。
「か、神様、、お願いします、、どうかどうか女神様を御助け下さい!我らをお助け下さい、、!今まで祭りや奉納を疎かにしてごめんなさい、これからは真面目にします、、どうか神様、、!!」
大介は両手を合わせ心底、神に祈りを捧げた。助けて欲しい、この状況に変化をつけたい。神に助けを求めた。
『フフ、、大介。其方の願い、この女神が聞き入れましょう!、、全く目の前に神がいるというに一体どこぞの神に祈りを捧げるのか、、フフっ』
『光虎様は奉納で神通力を蓄え、、人々の祈りが更に神通力を高める、、!大介様の奉納と願いが通じた、、!』
光虎の足元に魔法陣が浮かび上がり更に神々しく輝き始めた。青龍は膝が震が止まらなくなった。
『さぁ、、青龍よ軍神に弓引くとは良い度胸ね、、神の裁きを受ける時間です、、』
光虎は目を閉じ、神通力を一気に解放すると魔法陣内で竜巻を起こした。
竜巻が収まってくると光虎の身体がゆっくり浮かび上がり、背中には真っ白な翼が広がった。
『、、、鶴翼乃陣、、、』
光虎がそう呟くと、青龍は震える膝のまま短刀を構えて光虎に正面から飛びかかった。
『あ、光虎様の鶴翼乃陣は敵を惑わせ無策に正面から突っ込ませる、、!』
青龍が光虎の懐に飛び込んだ瞬間、両翼がゆっくり折り畳まれた。青龍は身動きが取れなくなり戦意を失っていく。
『終わりです、、お逝きなさい』
青龍は身体から邪気を放出しながら消える様に昇天した。
『あの世で篁さんに宜しくねー』
光虎から神々しさが消えると普段通りの駄女神に戻った様だ。
『流石は大介の獲る魚は絶品ね!もうエネルギーMAXになる感じよ!よっしゃあー壊れた船を直すわよ!!』