ワガママ女神様への奉納に追われてます
第1話 rising sun
初夏の夜明け前。船頭の親父が操船する船は漁港を出て、太平洋へと舵を切る。港を出た船はグングン加速し、波を掻き分けた。
船の先に立ち、海原を睨む若者。その者の役目はカジキなど表層を泳ぐ巨大魚を銛で突く、突きん棒漁の漁師だ。
中学を出てすぐに親父の後を継ぐべく船に乗った。初陣でマカジキ120キロを仕留めて以来、親父に漁の全てを叩き込まれた。
初めての漁から3年の月日が流れていた。
『大介!そろそろポイントじゃぁ、準備せぇ!いつものようにデカいの頼むぞ!』
『わぁってるよ!任せてぇ!』
親父の檄を聞くと大介は毎回、武者震いをする。何度もカジキを突き、3年間突きん棒漁に出てボウズなし。漁師仲間からは無敗の神童、神嶋大介と呼ばれている。しかし大介はまだ18歳の若造。命を掛けて漁をする事に、いい意味で慣れてはいなかった。
夏は日の出も早く、辺りが明るくなってきた。
『大介!正面!、、メカ(ジキ)だなありゃ、デカいぞ!』
ポイントにつくと親父は早速カジキを見つけ、船を寄せていく。
大介は船の先に立ち、目を閉じふぅ、と一息つき、銛を構えた。大介のルーティンだ。いつもと変わらない大介の日常。目を開けようとしたその時ー。
『、、、貴方は、、もう死ぬわ、、』
大介の耳元で女性らしき声の囁きが聞こえた。開眼しようとしたが瞼が上がらない、暗闇のままだ。大介に緊張が走りパニックを起こしそうになっていた。
『お、親父!目が開かねぇ!、、!女の声が聞こえ、、え??誰かいるのけぇ!?のう、親父おるんか!?』
大介は必死に親父に問いかけた。しかし、先程まで聴こえていた風の音、波の音が不思議と全く聞こえない。それにすぐ後ろに居たはずの親父の声もしない。静寂が大介を包んだ。
大介は流石に恐怖し膝が震え、ガチガチと歯が鳴り出した。暑いのか寒いのか感覚も曖昧で身体が硬直し、座り込みたいのに座れない。銛を構えたままのはずが、銛の重さも腕に乗っていなかった。
『、、大介。大介、落ち着きなさい、大丈夫よ。さぁこちらに来なさい。今すぐに、、!さぁさぁ早く早く!!』
大介の耳元でまた女の声が聞こえてきた。何やらウキウキとする声を聞いて少し安心感が出てきた。開眼出来ず暗闇のままだが取り敢えず人の声が聞こえてくるので死んではいないだろう、自分にそう言い聞かせた。
大介にはもうどれくらいこの闇の中にいたのか、時が経ったのか分からない。5分の様な気もすれば、10年の歳月が流れた様にも感じる。しかし、大介の意識はハッキリしていて思考も止まってはいなかった。
『、、大介、そろそろね。、、光り、あれ、、』
女の声がまた聞こえたかと思うと、闇の中に光が差し込んできた。少し目を開けると、あたりは薄暗いが周りの様子が見えて来た。
どうやら日本の家屋とは違う様だ。天井が高く広い空間の建物、柱は石で出来ている。
目の前には石の階段がありその上で女が足を組んで頬杖をつき大介を見下ろしていた。
『あ、大介!気がついたのね!』
女は椅子から立ち上がると階段を小走りに降りてきた。この声は大介が開眼出来なくなってから何度か聞いた声に間違いなかった。
女は大介の前まで走り寄ると大介の両手をとり、顔を見上げ、目を輝かせていた。可愛らしい顔立ちで青み掛かったセミロングの髪、田舎の漁師町には居ない垢抜けた美少女だ。
『貴方が大介、神嶋大介ね!待ったわよ!』
大介は訳が分からずにいた。何故この女は自分を知っているのか。先程まで船に居たはずなのにいきなり室内に入っている今の状況も含め、諸々、理解しろという方が無理がある。
『あのよぅ、あんた何モンだ??』
大介は漁師をしているだけあり身体が引き締まっている。顔立ちも整っているし髪を茶色に染めて今どきの男子だ。しかし、大介は東北地方から出た事もなく訛りがキツい。
『ふふっ、大介ってイケメンなのに方言がどギツいからギャップがあって余計萌えるわね!』
大介は揶揄われている様でムッとした。
『いやいや、あんた、胸元開け過ぎでスカートも短いし、、露出狂だわな』
『え、大介イヤイヤ!私が露出狂なら丸裸の貴方はどうなるのよ!』
大介の顔から血の気がひいた。女から少し離れて自分の下半身を見てみると、あられも無い姿が目に飛び込んだ。女の言う通り、丸裸だった。思わず悲鳴を上げながら大介は後ろ向きにひっくり返った。
『あらあら、まぁまぁ。流石突きん棒の漁師さん、たいそうご立派なのをお持ちで』
女は丸裸の大介の股間を見ながら最低レベルの下ネタを恥ずかしげもなく口走っていた。
女は近習に衣装を持って来させると大介に手渡した。大介はグスグスと泣きながらパンツに足を通した。
『グズっ、、な、なぁ。俺ぁ、漁に出てたんだがあんたの声を船の上で聞いたような気がしたんだ、、あんた、何者、、』
『女神よ』
女は大介の質問に食い気味に答えた。
『え、イヤイヤ、、』
『女神よ』
大介はこの女と関わっていては自分がおかしくなりそうな気がしてきた。もう家に帰ろう、服まで貰ったので悪い人間では無いだろう、礼を伝え帰らせて貰おうと考えた。
『、、あ、あの、、』
『女神よ、何よ?疑っちゃってる訳?』
大介はため息を吐きながらダンダンと腹立たしく思えてきた。コイツはバカにしてやがるー。
『女神様ね、ハイハイ分かりましたよ、自分の知ってる女神様は天照大神のようなもう少し神々しい感じなんですけどね、少なくともこんな露出狂じゃねーですよ、じゃあ神様ならお願い聞いてください、家に帰してください』
女神となのる女は肩をすくめながらやれやれ、と言わんばかりに顔を左右に振り出した。
『、、大介。貴方は死にました。それから天照大神様を持ち出して来るとは、、神オブ神よ?日本の神を統べるお方よ?私の様な下っ端女神じゃ一生に一度お会い出来るかどうか、、と言っても?私は一応は女神だから天上世界で死ぬ事はないから気長に待てば良いんだけど?私も、、』
『イヤイヤ待て待て!アマテラスの説明はいいよ!ちょっ、、え?誰が死んだ、、』
『貴方よ』
女はまた食い気味に答えた。
『イヤ、またまた、、』
『貴方よ、まぁ死んだら普通は輪廻転生を待つんだけどね、私がお取り寄せしたのよ。篁さんに頼んでね』
『、、誰だよ篁さんて。もういいわ、付き合いきれん、帰る』
大介は完全にこの女はイカれていると認識した。もうこれ以上、この露出狂の女と話をするのは精神衛生的によく無い、そう判断した。
『大介、貴方は神に物を尋ねておいて途中で帰るだなんて。よくそんな不調法が出来ましたね?、、。仮にも私は女神様なのよ?もう少し畏み畏み申してみては、、、』
大介はもはや聞く耳を持ち合わせていなかった。踵を返すと場所も分からないがその場から歩き出した。
『アー、ちょいちょいちょいちょい!待ちなさい、分かりました、キチンと説明します!だから帰るとか言わないで!』
大介は歩みを止めると再び女の方へと身体の向きを変えた。
『、、んん、大介、よく聞きなさい。貴方は死にました。あの日、漁に出ていた貴方はいつもの様に大きな魚に銛を命中させました。だけど撃たれた魚が走り出した際に銛に繋がっていたロープが貴方の足に絡まり海におちたのよ、、下界では10年の歳月が流れているわ、ご両親も既に他界され貴方には帰る家も下界で生きる為の身体もないのよ』
『、、そうか。俺は死んだか』
『あら、今の説明で理解してくれたのね?話が早いわ、
、私は戦さ神の上杉光虎よ。日本では軍神とも言われているわ。ようこそ天上世界へ!』
軍神となのる女は両手を広げて歓迎してくれているようだ。大介はふぅ、とため息をついた。死んだ実感はないがここでは光虎に話しを合わせる他無い、と納得は出来ないが諦めにも似た感覚になっていた。
『んで?俺は本来なら輪廻転生をする予定があんたに呼び寄せられたんだよな?目的は、、、?』
『魚よ』
『もういいよ!それは!』
光虎の食い気味の返事が腹立たしく、大介は渾身のツッコミを入れてた。
『、、、私は戦さの女神。ですが近年は戦さも起きないから滅法参拝がすくなくなりましてね、、。分かるわね?』
『ま、まさか俺に魚を獲らせて、、』
『奉納よ』
『だからそれはもういいって!嘘だろ、、』
『ウ、ソ、ヨ♡』
大介は、ハァっとため息をついた。この女神様は何やら大介のカンに一々障る。
『、、大介。ここまでは女神様ジョークでした、、。コレからは少し真面目にお話します』
光虎は重い空気感を出してきた。これが神の威圧なのだろうか。辺りの空気がヒンヤリと冷たい。
『大介、貴方を喚んだのは他でもありません。貴方の魂が必要だから。貴方の魂は輪廻転生を何度も繰り返して海のエキスパートに成長しています。貴方の前の『人間』は日露戦争、日本海海戦の英雄、、』
大介は息を呑んだ。まさか自分の魂が日露戦争の英雄だったとは。
『、、、の漁師よ』
『漁師かーい!なんだよ、海戦の英雄が漁師て?戦艦の艦長とかじゃ無いんかい!』
『アラ?ご存知なくて?日本海海戦は5人の漁師の活躍があって勝てたのよ?バルチック艦隊を発見したのがその漁師たちなの、、でね!でね!その時は戦艦三笠が、、実は日本海軍の損害がね、、、!』
光虎は戦さ神だけあってかなりのミリオタのようだ。目を輝かせながらマニアックな話題を入れてきた。
『、、分かったよ、分かったから!俺の魂は代々漁師で戦争と関わってたって事なんだな?』
『そうなの。まさに海のエリートの魂よ!』
『で?今の日本じゃ戦争もないだろう?俺なんか何の役にも立たないって、、』
『異世界よ』
『は?』
『異世界で貴方は海に巣食う龍魔王と戦うのよ、その為に篁さんにお願いしたんだから。その異世界は私が統治する世界の一つの。何としても龍魔王を排除しなければ、、、。』
『また篁さんかよ、、。つか、俺を異世界に放り込んでそんな物騒な事させるのかよ?ただの漁師に?もっといるだろ人材が、、女神ならコネはねーのかよ?』
『、、無いから困ってんじゃない、、』
光虎は項垂れ、涙を床にポタポタと落とした。大介はハッとした。光虎が人望が薄いのを気にしている事に気がつき、悪い事を言ってしまったと反省した。
『あとね、厳密に言えば貴方は漁師でいいのよ。龍魔王には私が召喚した勇者のパーティを向かわせているの。ただ、、』
大介は察した。この女神の勇者様ご一向、ダメダメなんだと。
『勇者のパーティがマトモに海で戦えないのよ、それどころか船は操れないし、全員カナヅチだし、、』
『ハァ!?何その人選ミス?あんた仮にも戦さ神だろう?』
光虎は恥ずかしそうに顔を手で覆った。自身でも分かっていたんだろうが、改めて誰かにこの事を責められるのが堪らないんだろう。
光虎は何か思い出したように顔を向けてきた。
『あ、でもねでもね!岸に上がってきたモンスターには滅法強いのよ!こないだも打ち上げられた海亀がシーサーペントに食べられそうになっていたのを助けたんだから、、!』
『なんだよ、海の魔物が岸に上がってきたって何にもできないんじゃねーのかよ?』
大介は頭を抱えた。そして一つ提案を思いついた。
『分かった。船は操ってやる、ただし!戦闘には参加しねーからな!海の上では俺の指示に従って貰うからな!』
女神はダバダバを涙を流しながら大介の手を取り上下にブンブンと振り回した。
『たく、女神なら自分でなんとかしろよー』
『ええ、分かっています。私も異世界の地上に降り立ち、供に戦います、、神が地上に降りるなど本来あってはならない事。追々理由は話しますが今は兎に角、龍魔王を倒すのが先よ』
こうして大介は女神により新たな肉体を得て龍魔王が世界を破滅へと誘う異世界に降り立つこととなった。
第2話 釣りに行こうよ
光虎は目を閉じ、聞き取れないくらいの小さな声で呪文を詠唱しはじめた。床には魔法陣が浮かび上がり、魔力を帯びた風圧が巻き起こる。余りの風圧に、光虎のスカートが巻き上げられようとした。
『ちょ、女神様?ストップストップ!めくれてるから、、!風、止めて!』
『大介、今いいところなの、少しお黙り!さぁ異世界に飛ぶわよ!光、あれ!!』
『あ、この光り、気持ちいい、、ああ!』
魔法陣に浮かび上がった強い光が2人を包むと、瞬時に辺りはまた静寂へと包まれ、異世界へと転移した。
大介と光虎は砂浜に倒れ込んだ。
『あ、イタタタ、大介、大丈夫?』
『あ、ああ、、着いたのか?異世界、、』
『ここが貴方達の世界とは別次元の世界、海が広がるメーア・ラ・メールよ』
『ああ、美しい海だな、、』
『さぁ大介、冒険の始まりよ!まずは情報を集めるわ。こういう場合は港の酒場ね、行くわよ!』
大介も初めて降り立つ異世界に興味が湧いてきた。龍魔王はいざとなれば戦さの女神と名乗る光虎が何とかするだろう、そう思っていたのも束の間、早くも問題に当たった。
『、、ハァ。女神様よ〜?この島やたら狭くないか?冒険に出て30分で初めの砂浜に戻ったんですが?勇者は?酒場は!?港は何処だよ!!?』
『あー!もう質問は一度に沢山しないで!畏みなさい!不調法者!』
『うるせー!こんな無人島に転生しやがって!そんなだから龍魔王だのダメ勇者だのおかしな事になるんじゃねーの?』
大介は砂浜を足蹴にすると座り込んだ。チラッと横目で見ると光虎は鼻をグズグズと鳴らしながら項垂れていた。大介は言い過ぎたとは思ったが、勝手に異世界くんだりまで引っ張って来たかと思ったらただの無人島生活を余儀なくされたのだ。言い足りないくらいだととも思い、複雑な気持ちになった。
光虎も大介の隣ぬ座り込み2人でただ寄せては消える波を見た。日差しは暖かく、心地よい浜風が顔の火照りを癒してくれた。
更に時間が経つと心地よい浜風が暴風になり、穏やかだった波が嵐のように砂浜に押し寄せてきた。
大介と光虎は昼間に見つけていた洞穴へと避難した。
『、、全く、、とんだ冒険1日目だな、、』
『ご、ごめんなさぁああ〜』
『な、なぁ女神様?泣いてる場合じゃないんですけど。軍神なら火とか起こせないか?そろそろ食い物も欲しい』
光虎はグズグズ鼻をすすりながら、大介に右手をかざした。モゴモゴと呪文を唱え始めると大介の足元に魔法陣が浮かび上った。
『私は戦さ神、、サバイバルに役立つスキルは無いのよ、、』
そう言うと光虎は左目を瞑ると右目の前に小さな魔法陣が現れた。どうやら光虎は大介のスキルを除いているようだ。
『、、大介、、。貴方のスピードとパワーを3段階アップさせたわ、、』
『おまっ、それ今要るか!?』
『ご、ごめんなさぁああ』
『いや、ちょい待て!木の枝と枯れた草が有れば、、!』
大介は洞窟内を見渡すと手頃な枝と枯れ草が落ちていたのでよく見る火おこしをやってみた。暫くすると煙が上がってポッと火が出た。
『だ、大介!やったわ!火が出たわよ!、、さぁ後は神への捧げ物が有れば、、今こそ突きん棒よ、お行きなさい!』
『アホ!こんな嵐に漁に出られるか!』
『な、な、な!あ、アホですと!?女神に対してアホゥと言いますか!?』
2人はやいのやいのとはしゃぎならが洞窟内で世を明かした。光虎は異世界に到着するや失敗の連続だったが機嫌を戻したようだ。
明けて次の日の朝は昨夜の嵐が嘘のように過ぎ去り、穏やかになっていた。大介はコレなら漁にも出られると考えた。2人は洞窟から這い出し、砂浜に出た。波穏やかだ。
『女神様!今日は良い日和だ、潮も良いぞ!素潜りをするからヤスと水中メガネを出してくれ。魚、獲ってきてやる!』
『あ、イヤイヤ!貴方は女神を何だと思っている訳!?そんなにポンポン何でも出せる訳ないじゃないんだからね!未来の世界の○型ロボットじゃないんですから!』
『チィ〜使えねー女神様だな!』
『あ、あー!くっ、、またしても女神に対して何たる不敬!そこに直りなさい!!』
ザンっ!
突然砂浜に魔法陣が浮かび上がり、猫耳メイド服の少女が何処からともなく現れて砂浜に転がった。
『あ、貴方は!』
光虎はどうやら謎の少女を知っているようだ。少女はゆっくり顔を上げると大介にも誰かは分かった。大介が死んだ後、神殿で服を用意してくれた光虎の近習だ。
『光虎様、勝手に神殿を抜け、申し訳ありません。光虎様の事、恐らく何の準備もなく下界へ降りられたかと思い、魔法陣に色々綴じて馳せ参じました。これで我ら、暫くは神殿へは戻れませんが龍魔王を倒さなければどの道、、。』
『あ、愛ぃ〜本当に貴方はよく出来るバレットよ〜!』
光虎は愛をハグしてキスをせがんでいたが愛は口元を手で隠しガードしていた。
『、、して光虎様。状況は?勇者一向には会えましたか?』
愛は光虎を引き離すとショートの髪とメイド服を整え姿勢を正した。
『、、ええ、最悪な状況よ、、。ここはどうやら無人島、、人っこ1人いないわ。ここには奉納の品もないから神通力も落ちてきているわ。このままじゃ、、全滅よ!』
光虎は天を仰ぎながら号泣し始めた。神とは一々リアクションがオーバーだ。
『そんな事もあろうかと、、』
愛は空中に小さな魔法陣を描くと、その中に手を伸ばした。
『てってれ〜。水中メガネとヤス〜』
愛は魔法陣からよくある水中メガネとヤスを出してきた。
『愛さん、すげ〜よ!まさに今これが欲しかったんだ〜よ!どっかの駄女神よりすげ〜!これが有れば十分だよ!すぐに潜って獲ってくるよ!』
大介は愛の手を握って感謝を伝えた。愛は顔を赤らめて恥ずかしそうに俯いた。愛は、男に触られたのが初めてのようだ。
『はいはい〜お客様〜お触り禁止ですよ〜離れてくださいねー。ってか誰が駄女神ですかー』
『つ、つか女神様は愛さんが使った魔法陣は使えないのかよ?』
『使えませ〜ん、そんな異世界に異世界を開いて物を保存する様な神超え高等魔法陣なんて〜それこそ○型ロボットじゃないんですから〜』
棒読みの光虎が間に割ってはいってきた。愛は恥ずかしそうに離れ、水中メガネとヤスを大介に手渡した。
大介は水中メガネを装着すると上着とズボンを脱いでパンツ1枚になり海へ飛び込んだ。慌てて愛が赤くなった顔を両手で覆うとそのウブな姿に光虎はニヤついた。
メーア・ラ・メールの海の中は透明度が高く、磯の魚も沢山根付いているようだ。
大介は日本近海の海に見る魚ばかりで安心した。異世界ならもっとグロテスクな生物がいると思っていたがー。
海底の岩の隙間を除くと良型のメバルに狙いを定めた。
シュバっ!
ヤスは見事にメバルを射抜いた。メバルは煮付けにすれば絶品だ。大介は海面に戻ると空気を吸い込み、磯で待っている光虎に向け魚を放った。
『よっ、、と。大介ナイス!』
ビクに魚をキャッチすると右手親指を立てて大介に見せた。
大介も親指を立てると再び海底の岩礁を目指した。暫く海底を泳ぎ、次はもっとデカいのを突くつもりで当たりを探した。海底の砂地に70センチのスズキを見つけると真上から忍び寄り、、。
ザシュ!
スズキにヤスが命中した。浮上して光虎と愛が待つ磯に戻りスズキを渡した。
光虎と愛は大はしゃぎしている。大介は少し照れくさかった。こんなにも自分が獲った魚を喜んでくれるとはー。もう1匹突いてこようと再び海底へ潜った。
魚影は濃いが狙いの魚が見つからない。ヒラメか、カレイ、またはコチを狙って海底を這う様に泳いだ。なかなか見つからない。
暫く沖に向かって泳ぐと深い海溝に当たった。流石にここを潜るのは難しいと判断した大介は一旦空気を吸いに上がろうとした。しかし何か巨大な影が高速で近付いているのに気付いた。
『ヴァっ、、!』
大介は思わず口を開けてしまい空気を逃してしまった。
『(く、しまった!)』
その頃、光虎と愛は大介を磯で待っていた。
『大介、遅いわねー』
『、、ですね。流石に刻が経ち過ぎています、、』
大介は海面に戻ろうと手足をばたつかせた。しかし左足首を触手のようなもので巻かれ海の底へ引き摺られようとした。足元を見ると巨大な烏賊がいた。
『グボボー(く、クラーケン!?)』
流石の大介もこんなにデカい烏賊を見た事がない。それに人間を襲うなんて聞いた事もなかった。すかさず大介の足首に巻き付いている烏賊のゲソにヤスを突いた。
ボン!
ゲソは1発で千切る事が出来た。更に烏賊は別のゲソを大介に伸ばしてきた。大介はゲソに狙いを定めヤスを向けた。
ボン!』
またゲソを千切る事が出来た。烏賊は堪らず海の底へ潜り始めた。
こんなにデカい烏賊は見た事もないが怖い、とは思わなかった大介は自分に驚いている。海の中で烏賊の動きがスローに見えていた。(闘える)と思えたのだ。
千切ったゲソを抱えると浮上し海面に出た。思い切り空気を吸い込むと気持ちが良い。烏賊ゲソを見せたら光虎と愛は喜んでくれるだろうかー。
磯から上がると2人の姿が見当たらない。大介は思わず先程の烏賊との戦いが脳裏によぎった。ここは異世界、魔物に2人が襲われたのでは?異世界に来ていよいよ洗礼を受けた大介は恐怖した。光虎、愛!無事でいてくれ!大介はゲソを放り出し島の内部に向かって走り出そうとした。
『あ、大介じゃん、お帰り〜。流石は最強漁師ね、見事な奉納の品、確かに受け取りました。、、、美味しかったわよー、愛の料理は♡調理器や包丁も持って来てくれててねー♡、、ん?大介さん?』
大介は心配した自分に腹が立って怒りに震えていた。同時にホッとして笑いが込み上げてきた。
『し、心配させやがって!俺の分は?夏のスズキは旬で美味いんだよ、、って、、アー!骨しか残ってねー!』
『大介さん、こちらの魚は光虎様への奉納の品では??光虎様からその様に伺っておりましたので、、今日獲れる魚は大介様からの奉納と、、』
『こんの、駄女神が!あ、愛さん〜俺も昨日から何も食ってなくて、、あ、烏賊ゲソ獲ったんで持ってきます!』
『大介、貴方はバレットには敬語で女神には不敬な、、』
獲れたての魚に満足したのか光虎にいつものキレたツッコミがない。大介はそんな光虎を横目にゲソを放り出した場所まで戻った。しかし、無い。陸揚げせずに放り出したのがまずかった流されたのだろう。
また大介は2人の元に戻った。
『大介?ゲソは?奉納が足りないわよー』
『もう今日は潜らねぇ、、死にかけたんだからな!さぁ今度は釣りだ、お前らにもやって貰うからな!』