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第2話 これから元勇者が街コンに行くけど、なにか質問ある?

 ――街コンに参加して彼女を作れ


 九重剣一郎は、改めて昨日の女神とのやり取りを心の中で反芻はんすうする。


 勇者としての使命を果たし、生き甲斐を失ってしまったと相談したら、思いがけずそんなミッションをぶん投げられてしまった。


 正直わけがわからなかったものの、彼はとりあえず指定された駅までやってきた。

 辺りを見回すと、件の女神はすでに待ち合わせの場所で、腕を組んで彼を待ち受けていた。


「遅いですわね」


 開口一番そう告げられる。


「すみません、俺の記憶だとたしか時間通りだと思ったのですが……」


 女神がため息を吐いた。

 純白のロングワンピースに同じく真っ白なハイヒール。

 いかにも天上の女神然とした服装の彼女は、その北欧系の外見も相まって、神々しいほどの美しさを周囲に振りまいていた。

 二人がいるのは、駅前の噴水広場だったが、老若男女問わず構内を出入りするすべての人々が、彼女に目を向けている。


「たしかに1分のずれもありませんわね」

「やはりそうでしたか」


 ほっとした顔になる剣一郎。


「クエストの開始時間は正確に暗記しておく。これは冒険者の基本中の基本ですからね」


 ――クエストって……


 女神は再度ため息を吐く。


「時間に正確なのは美徳かと思います。でも、普通、人と待ち合わせする場合は、少なくとも5分前には到着しておいた方が良いかと思うのですが」


 さらに言うと、相手が女性だったら、15分前には着いていた方が良いが、まあそこまでこの子に望むのはせんがないだろう、とあえて口に出さなかった。


「す、すみません」


 慌てて頭を下げる剣一郎。


「とにかく参りましょう」


 女神は内心不安をおぼえつつも、元勇者を促すのだった。


 *************************************


「到着しましたね」

「ええ…」


 剣一郎の言葉に短くこたえる女神。


 彼らがいるのは、駅近くのカラオケ屋の一室である。

 他の街コン参加者はまだ誰も来ておらず、テーブルを挟んで女神と剣一郎が二人きりで向い合っている図だった。


「そろそろお伝えしておきますね」


 ぴしりと背筋を伸ばして着席する剣一郎に、女神は改めて向き直る。


「今回、わたくしがこのコンパ――クエストを企画したのは、あなたに恋人を作ってもらうためです」

「この前もそう仰っていましたね。しかし、なぜ俺に恋人を作れと?」

「生き甲斐を得てもらうためです」


 剣一郎が小首を傾げる。


「あなたは、この世界で一番多くの人が生き甲斐にしていることは、なんであると思いますか?」

「それは魔王を倒す――」

「それはあなたの話ですよね? そうではなく、一般の人々がなにを生き甲斐にしているか、というお話です」


 剣一郎は腕を組んで、考え込んだ。


「……ちょっとわからないです。お金を稼ぐとかですかね?」

「いいえ」


 言下に女神は否定する。


「愛する者とともに過ごす。これがわたくしの見てきた中で、もっとも多い回答となります」

「なるほど」

「よって、あなたに恋人を得てもらうのが、問題を解決する一番手っ取り早い手段であると、わたくしは考えた次第です」

「…………」

「ピンときませんか?」


 女神の質問にうなだれて黙り込む元勇者。


「まあ、とにかく騙されたと思って、今日は頑張ってみてくださいな」

「……わかりました。頑張ってみます!」


 顔を上げ、決然とした声で告げる剣一郎。


「でも、それ以前に俺がこのクエストを達成できるかが、正直かなり不安ですね」

「というと?」

「その手のことに役立ちそうなスキルは、俺はまったく習得してこなかったので」


 魅惑魔法とか、と小さく呟く。


「けど、実は自分なりに戦略を考えてあります」


 あら、と内心で声を上げる女神。

 真剣な眼差しの彼に、期待のにじんだ声で聞く。


「どのような戦略ですか?」


 剣一郎は傍らに置いたナップザックから、細長い物体を取り出した。


「これです」


 それはアイドル会場などでファンがよく振っている光る棒だった。


「…それは?」

「中学生の頃、一度だけ友人に連れられて地下アイドルのライブに行ったことがあるのですが、その時に友人にもらったものです。ぞくにいうペンライトという道具になります」

「いえ、名称はいいのですけど、『なぜそれをお持ちになったのですか』とわたくしは尋ねているのですが」


 剣一郎の顔がさらに真剣味を増す。


「俺の異世界でのジョブは剣士です。『剣を使う』。やはりこれが一番自分の持ち味をアピールできるかと思いまして」

「…………」


 女神はじーっと青年を見つめた。

 少しでも期待した自分が馬鹿だったとか、そもそも剣じゃねえだろ、というような言葉を飲み込み、とりあえず会話を進める。


「…戦略はそれだけですか?」

「いいえ」


 即座に首を振る剣一郎。

 彼は再度バックに手を伸ばし、おもむろにもう一本ペンライトを取り出す。


「二刀流です」


 微妙にドヤ顔になってそう告げる彼を、無言で見つめ返す女神。


 しばし間が開いた。

 隣から伝わってくるJポップの熱唱が虚しく部屋に響く。


 女神は壁にかかった時計をちらりと見た。

 そろそろ、他の街コンメンツがやってくる頃合いである。


 ――でもどうしましょう。まだ始まってもいないのに、わたくしもう帰りたいです


「ところで、女神様にお願いがあるのですが」


 やおら剣一郎が口を開いた。


「……なんでしょう?」

「俺にデバフをかけて欲しいんです」


 またこの子はなにを言い出すのだろうか。


「デバフ?」

「はい。幸運値を下げて欲しいんです」

「なぜ?」

「向こうの世界にいた時、宝物の発見率を上げるために、かなり幸運にステ振りしてしまったんですよ。けど、あまりにも数値が高くなりすぎまして」


 剣一郎は目を伏せて続ける。


「周囲に多少の害が出るようになってしまったんです」

「害とは?」

「その、ラッキースケベってやつでして……」


 言いにくそうに続ける。


「女性が近くにいると、俺の意図とかとは関係なく、その手のイベントが強制発生してしまうことがあったんです。たまたまつまずいて、俺の手に胸が当たるように倒れてきてしまう、みたいな」


 ああそれね、と女神は得心する。


「要するに、そういう事態が起こらないように、事前に幸運値を下げておいて欲しいということですわね」

「はい。異世界ではともかく、こっちでそういうイベントが起こったら、最悪警察に捕まりますからね」


 今日初めてこの青年から常識的な話が出てきた、とささやかな安堵感をおぼえる女神。

 とりあえず、他の人が来る前に、急いでデバフをかけようと、呪文を唱え始める。

 しかし、ふとある考えが心をよぎり、口を閉じた。


「どうしました?」


 剣一郎が尋ねてくる。


「いえ、ここで幸運値を下げてしまうと、肝心の街コンの成功率が下がってしまうのではないかと思いまして」

「なんだ、そんなことですか」


 元勇者の青年は、ふうっと息を吐いてみせた。


「大丈夫ですよ」


 くいっと両手に持ったペンライトを持ち上げ


「幸運なんかなくても、俺には二刀流がありますから」


 ――それはもうええっちゅうねん


 思わず心の中でそんな突っ込みを入れつつ、女神はため息交じりに呪文を再開した。


 それから10分後には、他の参加者が揃い、ついに地獄の街コンが始まってしまったのだった。

 最後までお読みくださり、ありがとうございます!


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