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仮設風向計/詩集その3

IF/スコール

作者: 浅黄悠

If


空の高さを歌っても

花散る季節を讃えても

虚しいだけだね


恐れていたことが

現実になってしまった朝

交差点がオレンジ色に染まる

長い影

ビルの向こうから海風が渡ってくる

とても寒い晩夏の朝


信念を曲げず生きてきたつもりが

終点にあったのはただの疲労

自分が残す声や言葉や文字が

悪臭を放っているように思えるのは変わらないけれど

今、錆びきった錠が壊れた


僕はもうきっとこのままどんどん忘れてしまう

くだらないけれど楽しかった日々を

惨めながらも不満だらけでも

愛すべき楽しみを密かに育てていた思い出を


綺麗な空さえあれば

心動かされるシーンがあればと思っていた時代は

もう終わりだ

人間に愛されていなくても世界が愛してくれていれば僕は笑って生きていける

それは完璧な定理に見えた

ただそれを信じるのも疲れた

僕は人間だから

水蒸気にはなれない

人間ならば

色々と必要なものがある

お金とか

食べ物とか

娯楽とか

尊厳とか

人の同情とか……。


空が明るい

風は冷たい

そして僕は誰にも愛されてなどいない

誰も愛せない心が脈を打っている

指先に血が回らない

寒い寒い寒い

未来永劫このままだ

どうしてこんな当然のことに気が付かなかったんだろう




________


スコール


私と君と彼と

三人の帰り道

向こうからとぐろを巻く雲

だから言ったじゃないかと

責任押し付け合う間もなく散々な散歩道


買ったばかりのはずのビニール傘が哀れにも風に負けて

君の服の裾が体に張り付いて

私たちは温い風を翼に

彼が手招きする方へ走った

振り返れば

遠くのテラスで花嫁が慌てている

露色のブーケが零れ


観光客も通りすがりもみな展望台の軒下を借りて

小さな悲鳴たちはもう雨音に変わった

砂時計を振り続けるように

激流に揺れる灰色の海が眼前に広がれば

黙りこむ漂流船の乗員


下町に光芒

赤い観覧車に雷鳴

雲と空の境が滲む

来る虹の美しさも忘れうる程


波が轟く夏の海に

不覚にも君の楽しそうな声を聞く

それも随分遠くの思い出みたいに

気紛れな雨が閉じ込めていてくれるならと

笑いながら泣きたくなった


こどもの頃から

もしかしたら生まれて来た時から

なにかずっと愛しているものがある

それがわかった



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