人の死に就いて
拝啓。
お加減は、いかがですか。恨むのならば、どうぞ私のことを恨んで下さい。しかし、これだけは確かです。私には、あなたを危めるつもりは全くございませんでした。
一体、どこから間違えたのでしょうか。私には、あなたに出逢ってから、何かを謬ったことは、ついぞありません。唯一の間違いは、自分を生かし続ける、という所謂神の行ないなのです。
何か、あなたを励ますものを書こう。少しでも、罪を償わなければならぬ。そう思って便箋を広げ、筆を執ってみましたが、いけませんね。何一つ、贖罪になってはおりませぬ。ただただ、赦しを乞うているばかりです。
そちらでの生活は、どんなものなのでしょうか? 少しでも、私の所為でこうむった禍患が癒えれば、こちらとしても喜ばしいのですが、果たしてどうかしら。私の知人で、「死」というものの隣で数箇年、死んだように生きていた者が居ります故、あなたがそうならないように祈るばかりです。
どうか、私からお逃げ下さい。
私もじきに、この地を去るつもりです。然すれば、私たちは二度と逢わぬことでしょう。あなたには、別の仕合わせが、幾らでもあるはずです。
あなたの遺愛の花(何という名だったろうか。たしか、──待雪草、雪の雫)には、枯れないよう、水をやっておきました。いつか、あなたからプレゼントされるのを待ち侘びています。
此の頃は、「冒涜」と「呪縛」の二篇の小篇を書いております。この先、逢うことは無いと思いますが、もし、私目の小説を見つけたら、破り捨ててしまって下さいな。
不悉。
人の死、というものについて、一体語ることなどあろうか? 人の死、など、ただただ果敢無いだけだ。そこには、美徳も、悲哀も、やり切った満悦も、無いのではなかろうか。
しかしながら、私はこの頃、連日連夜頭を捻っている。
人の心、精神、それらに損傷を与えることは、殺生と同じではなかろうか? 然すれば、私は罪人である。