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10 覚悟

 お父様からダスティン様が私に言われていた暴言の内容を全て聞き、彼がどのような男性だったのかがわかった。


 彼のお父様の指示で私に近付いただけで、背の小さい女は好みではないこと。結婚しても浮気をしたいと堂々と言う女好き。私と結婚したら、体の関係を持った後放置すると言われていたそうだ。


 ――本当にしょうもない男。


 自分の見る目のなさに呆れてしまう。見た目や表面的な偽りの優しさに目を惹かれた罰だ。


 だって本当は私も気がついていた。初めてのデートですぐ手を出してきたり、ダンスで背中を撫でたり、たくさんの御令嬢達に囲まれてデレデレと嬉しそうに話していたり……おかしいところは沢山あった。


 私はロバート様に酷いことを沢山言って傷付けたのに、彼は私を庇って守ってくれた。


 どちらの男性が私を深く愛してくれているのか……それは考えるまでもなく答えが出ていた。


「私、ロバート様のお見舞いに行ってまいります」

「シャーロット、待ちなさい。お前はロレーヌ家のことをどこまで知っている?ロレーヌ家の血を引く男性は皆治癒士(ヒーラー)になる運命だ。君はそれを受け入れる覚悟があるのか?」

「覚悟……?」


 この国で治癒士(ヒーラー)の血を引く家はロレーヌ家だけ。その稀有な能力は国の宝とされ、伯爵家でありながら王族とも懇意にされている。何故か男児にのみ受け継がれる能力は、途絶えぬように管理されている程らしい。


 ロバート様のお父様、ロレーヌ伯爵がご結婚された時にもすぐに側室をというお話があったらしい。ロレーヌ伯爵はそれを拒否し、結果として夫人が男児二人を産まれたためその話はなくなったらしい。


「子どもが産まれなかったり、女児だけの場合は彼の気持ちには関係なく側室を娶られる可能性は高い。しかも我が家は子爵家だ。いくらロバート様が君を好きだと言ってくださってもうちより爵位の高いご側室なら……立場は逆転するだろう」


 その事実は哀しいが、仕方がない。ロレーヌ家だけでなく貴族にとって後継問題はかなりシビアな問題だ。子どもができなくて離婚する、側室を取るなどざらにある話だ。女性の立場からすると酷いとは思うけれど……


「それは貴族の家に生まれた娘として覚悟しております」

「そうか。それに治癒士(ヒーラー)は戦地に行くためによく家を空ける。その間、妻は家を守らねばならない。子どもも男児なら同じように戦地に行く。他人は治せるが、自分は治せない。どういう意味かわかるか?」

「意味……」

「自分が怪我をしたら死ぬ可能性もあるということだ。それに治癒士(ヒーラー)は自分の魔力と体力を削って仕事をされてる。その彼を支え、癒し、守る役目をお前に担えるか?」


 正直、そんなことまで考えていなかった。でも、私は彼が好きだ。今まで逃げていたが、どんなことでも乗り越えると覚悟を決めた。


「はい」


 私は真っ直ぐ見つめて、真剣に返事をした。すると、お父様は優しく微笑み私を抱きしめてくれた。


「昨日までの君とはまるで別人の……大人びた顔をしているね。親が知らないうちに、娘は急に成長するようだ。君の決意が固まったのなら、ロバート様に素直に気持ちを伝えなさい」

「はい。もう遅いと言われるかもしれませんが……好きなんです」


 私が震えた声でそう言うと、お母様が後ろからそっと頭を撫でてくれた。


「あなたは私達の自慢の娘ですもの。自信を持ちなさい」

「はい」

「大怪我をしてまでかばってくださったロバート様は、まるであなたの王子様ね。そんなに愛されるなんて素敵だわ。良かったわね」


 私はこくんと頷き、すぐに馬車に乗ってロレーヌ家に向かった。伺うこともお伝えせずに失礼なのはわかっているが、一分一秒でも時間を無駄にしたくなかった。


『私が非礼を詫びる旨の手紙を書いた。これを直接伯爵に渡しなさい。本当は先に出すものだが……きっと君ならば家にあげてもらえるはずだ』


 私は用意してもらったお父様の手紙と三十本の真っ赤な薔薇の花束を握りしめて、ロレーヌ家を訪ねた。


「いきなり申し訳ありません。私フォレスター家のシャーロットと申します。ロバート様がお怪我をされたとお聞きして、心配でお見舞いに伺いました」


 私は出迎えてくださった執事の方に、丁寧に頭を下げてご挨拶をした。


「この花はお見舞いです。それと父からロレーヌ伯爵宛の手紙です」


 執事は一瞬で花束の本数を確認して、少し驚いた顔をした。さすが、意味がわかるのね。


『ご縁を信じます』


 私は彼への願いを込めてこの本数にしたのだ。しかし優秀な執事はすぐに表情を戻し、緩く微笑んだ。


「ご丁寧にありがとうございます。ロバート様は大変お喜びになられると思います。お時間をいただいて申し訳ないありませんが旦那様の許可をもらってきますので、客間でお待ちくださいませ」

「ありがとうございます」


 傍にいた侍女が「私が確認して参ります」と言って聞きに行ってくださった。


 ロバート様は大丈夫なのだろうか。お怪我はどのような状態なのかと、不安でいっぱいになる。客間で待っていると、ロレーヌ伯爵が自ら来てくださった。


「ご挨拶するのは初めてでございますね。私フォレスター子爵家の長女、シャーロットと申します」


 私は出来る限り美しく挨拶(カーテシー)をした。伯爵はにっこりと微笑んで握手をしてくださった。


「俺はロバートの父親のエディ・ド・ロレーヌだ。よろしく」


 エディ様はロバート様より、大柄だ。治癒士(ヒーラー)だと知らなければ、体格の良い騎士かと思うほどだ。あまり顔も似ていらっしゃらない気がする。


「シャーロット嬢は、息子のお見舞いに来てくれたんだね?ありがとう」

「すみません。ご無礼を承知で許可もなく伺ったんです。どうしても、心配で……」

「はっはっは、こんな可愛いお嬢さんなら許可などなくても大歓迎だ」


 しゅんと頭を下げた私の頭をよしよしと撫でて下さった。なんか子ども扱いされている気がする。


「まあ、あなた。私もシャーロット様とお話ししてみたいわ」


 後ろから現れたロバート様のお母様は……ロバート様そっくりの美しい女性だった。彼はお母様似だったのね。


「私は母のステファニーと申しますわ。ふふ、素敵な花束ありがとう」

「とんでもないです!」


 本数の意味が通じているのがわかっている分、恥ずかしくて頬が染まる。しかも、ステファニー様はロバート様と似ていらっしゃるのでより照れてしまう。


「まあ、頬を染めて可愛い。ロバートが追いかける気持ちがわかるわ。わざわざ我が家に来てくださってありがとう。後でお茶しましょうね」


 ニコニコと笑って私の手をギュッと握ってくださった。お二人とも優しい。


「ロバートが待っている。部屋に案内するよ」


 そして私は控えめにノックをし、入室の許可をもらって中に入った。


 ――そこには腕は包帯だらけ、顔にもガーゼが貼ってあり口元も切れている酷い姿のロバート様がベッドに横になっていた。


「ロバート様、ひどいお怪我っ……」


 私は自然とポロポロと涙が溢れる。ベッドに寝ている彼に駆け寄り胸に飛び込んだ。彼は戸惑いながらも、謝る私を受け入れ慰めてくれた。


「君にはこんな格好悪い姿を見られたくなかったな」


 彼は気まずそうにそう言った。まさか怪我をされていることをおっしゃられているのだろうか?ロバート様が格好悪いわけがない。私は必死にそれを否定した。


「格好悪くなんてありません!守ってくださったロバート様は格好良いです。私のヒーローです」


 そう言った私に彼は少し照れた顔を見せた。私はいつも陰から私を守ってくれていた彼に『迷惑だ』と言い、こんな大怪我をさせたのだと……また胸が苦しくなり涙が止まらなくなった。ロバート様がおろおろおと困っていらっしゃるのがわかる。泣き止まなくては。


 その時、扉が開きエディ様が現れる。私は治癒魔法(ヒール)でロバート様を治してあげて欲しいとお願いするが、喧嘩の罰だと断られてしまった。


 しかし、その代わりに彼の看病をして欲しいとお願いをされたため私は喜んでそれを引き受けた。


 お食事のお世話をして欲しいと言われたので、ロバート様に食べさせてあげる。普段の彼はしっかりした大人のイメージだが、今日は夜着だからかとても若く見える。口を開けてご飯を待ち、もぐもぐと頬張っている姿はまるで雛鳥に餌をあげているようで、なんだか可愛い。


 お食事が終わり、お薬を飲まれた後眠るように促すが彼はまだ眠くないらしい。それならば、私の気持ちを聞いていただこうと決意する。


 胸がドキドキして緊張する。しかし彼が素直に私に気持ちを伝えてくれていたように、私も今の気持ちをそのまま話そう。


「私……ロバート様が好きです」


 彼はとても驚いた顔をした。


「今更と言われるのも覚悟しております。でも、私はロバート様が好きです。自分勝手ですが、チャンスをいただけませんか?あなたに私をもう一度好きになっていただけるように頑張りま……」


 私の告白が終わる前に、彼は私を強く抱きしめくれた。どんどんと自分の体温が上がるのを感じる。


「誰よりも君を愛してる。一生大事にする」


 ロバート様はまだこんな私を愛してくださっているの?嬉しくて胸がいっぱいになる。


「酷いことを言った私を、許してくれますか?」

「じゃあ、もう一度私を好きだと言ってくれたら許すよ」


 彼は揶揄うように笑った。あえて冗談っぽく言って、私が気にしないようにしてくれているのだろう。相変わらず優しい人。


 ――私は何度でも言えるのに。


「ロバート様、私も愛しています」


 ちゅっ


 その時、柔らかくて熱っぽい彼の唇が一瞬触れた。あまりにいきなりのことで、私は驚きが隠せない。


「……苦いです」


 真っ赤になった私は、唇を手でおさえてつい思ったことをそのまま呟いてしまった。正真正銘、私の初めてのキスだ。ファーストキスがレモンの味なんてスザンヌの嘘だったのね!


 また、恋愛小説ではキスは甘いと書いてあったけどそれも嘘だったみたい。私はそんな勘違いが恥ずかしくて顔を両手で隠した。


 こんな事を言ってしまって彼に子どもみたいだと思われたのではないだろうかと不安になる。


 顔をそっとあげると、私の言葉を聞いた彼はさーっと青ざめていた。


「すまない。もっと雰囲気を考えてすればよかった」

「い、いいんです」

「必ず、二回目は素敵な場所でするから!許してくれ」


 きっと()()()()()に慣れているであろう、大人な彼は私が『初めて』と知って焦って謝ってくれている。


 彼は男性だし、年上だし経験があるのは仕方ない。でも、なんだか面白くないわ。私はフッと笑って自分からキスをした。


 ちゅっ


「三回目は期待しております」


 我ながら大胆な事をしたな、と思ったが……ロバート様は真っ赤になって下を向いて照れていた。

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