最後に幸せになる二人
一緒に旅してきた少女の唇を、無理やり奪った。
暗夜に青白く流れ輝く天の川。静寂が世界を支配する夜の出来事。
たとえ少女に嫌われてしまっても構わない。それほどの覚悟だった。
はじめは強かった少女の抵抗が、だんだんと弱くなっていく。そして、最後は力を抜いて、こちらに体重を預けてきた。
「ん……っ」
ヨゾラは、少女をさらに抱き寄せた。少女は声を少し漏らしながら、ゆっくりと優しく抱き締め返してくれる。どうやら、少女はヨゾラの“我儘な行為”を受け入れてくれたようだ。
そう、これは我儘だ。
ヨゾラにとって、最後の我儘。
少女と会うのはこれが最後になる。おそらく、これから自分は死ぬから。
だから、ヨゾラは自分の心のままに行動したのだ。でも、こんな我儘をずっと続けるわけにはいかない。
「あ……」
唇が離れたことが寂しいと言いたげに、少女が声を漏らした。ヨゾラはそんな少女を目にして、もう一度キスをしたくなる。だけど、時間は残念ながら無かった。
「幸せになってくれよ、アマネ……」
心からの願いを口にして、ヨゾラは少女から離れる。
「ま、待って、ヨゾラっ!」
少女の制止を振り切ってでも、行かなければならない場所がある。
ヨゾラは走り出した。ただ、がむしゃらに。
少女の泣き声が遠くから聞こえてきて、胸が張り裂けそうになる。だけど、もうどうしようもない。
今から向かう場所は自分の死に場所だ。少女を連れていくわけにはいかない。
死ぬ覚悟はできている。別に怖くない。
なのに、どうしてだろう。
「っ……、うぅ…………」
どうして視界がぼやけているのだろう。
死ぬのが怖いからじゃない。これは、そう、悲しみの涙だ。
少女と一緒に、人生を歩めたかもしれない。その可能性を感じてしまったから。
こうなるのなら、もっと早くに告白していれば良かったと本気で悔やまれる。いや、それだとこっぴどく振られていた、か。
お互いに第一印象は最悪だった。
少女との旅は喧嘩ばかり。我儘に何度も困らされた。
告白など、あり得なかった。うん、間違いない。
でも、いつからだっただろうか。
少女に名前を呼ばれるのが嬉しくなったのは。
嫌だったはずの少女の我儘に、しょうがないなと笑いながら返事をするようになったのは。
きっと、過去に浸れる時間があるのは今だけだ。これから先は、命を懸けた戦いが始まるだろう。
だから。
夜道を駆けながら想い返す。
二度と戻ることのできない、アマネと出会った日を。