9 魔王であるということ
「ルイ、何故、お止めしなかった…!!」
いつも静かな廊下に怒号が響く。
それは意図せず主君を傷つけたクレイの、行き場のない怒りだった。
「………ゎけ、ないじゃないですか……」
でもそれはルイも同じ。
「何?」
「止められるわけ、ないじゃないですか!!」
「…っ、」
「配下のためを思い、ご自分を顧みずにあの力を使ったのですよ!?そんなの、止められるわけ……」
「…………」
「それにっ!!何故魔王様があの力をなんの躊躇もなく使われたと思ってるんですか!!あんたのためですよ!!」
「何?」
「あんたが死にかけていなければ、力を使うにせよ瀕死の者だけだったはずだ!!なのに魔王様は回復魔法をかければ済む重傷者の傷まで引き受けた!!」
「我が君は、なぜ、そこまで……」
「だからあんたのためだって言ってるだろ!!魔王として一人の配下を依怙贔屓することは出来ない、でも魔王様はあんたを死なせたくなかったんだ!!それに……」
「…回復魔法を得意とする者を待って、苦しむのを見ていられなかったんだろう……」
ルイ「クレイ様は知っていますよね?女性である魔王様がどうしてその座に座られているのか……」
もちろん知っている。
魔王となるものには、配下の苦痛を引き受ける能力が備わる。しかしその力は普通、配下の受けた半分の苦痛しか引き受けることが出来ない。
だが我が君には全ての苦痛を引き受ける力がある。その偏った魔力のせいで回復魔法を使う事ができないばかりか、身体は生半可な回復魔法を受け付けられない。
魔王の器にふさわしき圧倒的な力、配下が死ななければ魔王は倒れないという理が、彼女の足枷になっているということくらい。
あの方は、自分の力の限界をわかった上で魔王になられたのだ。
思い沈黙をルイが破った。
ルイ「……いつも思うんだ、なんで僕じゃダメなんだろうって…」
クレイ「なに……?」
ルイ「どうしてお前なんだろうって、いつも思うよ。」
ルイ「でも僕は魔王様の幸せを願ってる。魔王様が幸せならほかはどうでもいい。」
ルイ「さぁ、もう行ってくれますか。僕は魔王様の様子を見なければいけませんので。」
ルイ「あ、そうそうクレイ様。」
クレイ「…なんだ?」
ルイ「くれぐれも、怪我をおうようなことはしないでくださいね。あなたが怪我をして苦しむのは、あなたではなく魔王様なのですから。」
クレイ「………わかった。肝に銘じておく。」