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83 [嫌]
もう何十年も昔。
キールがメアと出会い、血に興味を示さなくなってすぐのこと。
同じようにこの食堂で、彼は食事をしていた。
「きゃっ……」
唐突に、当時はただのメイドだったナタリーがそう声を上げた。
敏感になっていた鼻は直ぐに血の匂いを告げる。
驚いて彼女の方を向くと、腕から血を流している彼女の姿が見えた。
かなり深く切ったのだろう。
キールを見て作った笑顔は、かなり無理やりだった。
…そこでキールの中に生まれたのは、嫌悪感。
その場には、血の匂いと共に嘘の香りがしていたから。
ナタリーからも。
ほかのメイドからも。
実際、食事の後尋問してわかったことだが、キールに血を飲んでもらうための演出だったことが判明した。
馬鹿馬鹿しい。
その後、嫌がらせ半分にナタリーを秘書として迎えた。
彼女は、キールの元眷属チェリーの姉だから。
…あまり、嫌がらせとしての効果はなかったようだが。
ちなみに、主人を失い『野良』となったチェリーの行方は、誰も知らない。




