8 神は私の大切なものを壊していく
なんだ、これ。
「ど、どうしたんだっみんな!その傷は……」
みんな血塗れだ。
瀕死状態の配下を支えたルイが答える。
「どうやら、神からの直接攻撃を受けたようです。偵察隊は壊滅。死亡者多数、連れて帰れるものはこれだけでした」
「………なっ……」
神?神だと?神が天使と悪魔の争いに介入した?
「魔王様……申し訳ございません。我々の力がなかったばっかりに……」
「ちがうっ!ちがうんだ、お前達ばかりを戦わせた私の責任だ。天使を…甘く見すぎていた。」
まさか天使が神を使ってくるなんて。
「魔王様!!クレイ様が……」
クレイ……?
「クレイが、どうした!?」
怖い、クレイに何かったかと思うと……
いや、大丈夫、だってクレイだもの。この国で一番強い悪魔、私の騎士。
「もう………」
そんな願望は粉々に打ち砕かれた。
血まみれで横たわるクレイへ駆け寄る。
「まっ、まだ、生きてる!絶対助けてみせるっ!!」
そう言い、クレイの額に手を置く。
「まっ、まさか引き受けるおつもりですか!?むちゃです!!いくら魔王様といえど……」
何をしようとしているのかいち早く察知したルイが私を止めようと肩を掴んでくる。
それを無理やり払った。
「うるさい!!黙ってやらせろ!!」
「ですが…貴方の身が持ちませんよ!!」
「私は死なない!!お前達が生きている限り、絶対に死ぬことは無い!!だったら、お前達の痛みも苦しみも全て私が引き受ける!!」
そういって、順に辛うじて生き残った負傷者達の額に手を当てていく。
そう、例え私が致命傷を負っても、私が死ぬことは絶対にない。
「そんなことをして、クレイ様が喜ぶと思っているのですか!!あなたが苦しんで悲しむのは、あなたがその力で助けた者なんですよ!!」
「わかってる!!けどっっ!!」
大きく息を吸い込み叫ぶ。
「私は!!クレイを悲しませても、クレイを助けたい!!」
そして、魔法を発動した。
配下の負った苦痛を全て引き受ける、魔王特権を。
「ゴフッ………」
突然の痛みに耐えかね、盛大に血を吐いてしまう。
これじゃあ心配させるだけじゃないか。
まだまだだなぁ……わたし。
「魔王様!!大丈夫ですか魔王様!!」
「なんでお前が泣いてるんだ……私は、大丈夫に決まって……なんだ、これ、毒……?」
痛みで感覚が麻痺しているが、ものすごいスピードで身体が何かに侵されていくのを感じる。
「ああああああ、もう!!皆さん起きてくださいよ!!魔王様が全て引き受けてくださったおかげで動けるでしょう!!」
「………我が、君……?」
「クレイか……?無事で、よかったぁぁ…」
クレイ生きてる。元気そう。
「…………何故、我が君が傷を」
「あぁ、安心したら涙が……別に、痛いからとかじゃないぞ……こんなの、へっちゃらだ。」
クレイが生きてる。
「我が君、もう………」
「あ…そうそう、クレイが帰ってきたら一緒に食べようってルイとプリンを作っていたんだ……私は食べられそうにないから、みんなで食べておいてくれ…たぶん、美味しいはずだから……」
「我が君…」
「お前の泣いてる、とこ、初めて見た……引き受けたかい、あったかな………」
「ありませんよ!!馬鹿なんですか!!」
「うるさいルイ……ちょっと、眠らせろ………」
そうして深い眠りに落ちた。