70 後悔
キール。
以前メアの元を訪れたという吸血鬼。
どうやらそいつは吸血鬼の頂点に君臨する存在、『彼岸の王』であるらしかった。
クロウ「いいかっ…シア、キールの狙いは、魔王メアだ。奴はメアを……『血の花嫁』にするつもりだ…っ」
『血の花嫁』。
それは『彼岸の王』が生涯の伴侶となる存在として選び、死に至るまでその者の血しか吸わぬという番のこと。
吸血鬼と交流の多い悪魔なら聞いたことくらいはある。
シア「『血の花嫁』……何故、メアが、」
クロウ「それはわからん。だが…先の天使との交戦で、魔王メアはキールに助けられたようだった。」
シア「は?」
クロウ「事情はよくわからない、が……眷属に聞かされた話によると、キールは魔王メアを無理やり伴侶として迎えるつもりは無いらしい。」
シア「………眷属に何を吹き込まれたのかは知らないが…」
クロウ「わかっている。……結局、魔王メアが危険であることに変わりはないっ…ぐっ、」
シア「クロっ!!」
クロウ「…まっ、ずい、な……血が足りてない、みてぇだ……はぁっ、ははっ」
シア「………」
クロウ「そんな顔すんなって。……あぁそれとっ、俺を襲った眷属はキールのじゃない。」
シア「なに?」
クロウ「キールは眷属をひとつも持っていないらしい。……この刻印は、取り巻きの奴らのものだ。」
シア「お前がこれほどまで一方的にやられることなど…」
クロウ「メアを持ち出されちゃ、暴れようにも暴れられねぇよ……それに、大人しくしているだけでここまでの情報が手に入ったんだ。」
安いもんだろ、とクロウは肩をすくめようとする。
しかし刻印を埋め込まれた体に響くのか、直ぐに顔を顰めた。
シア「……感謝する、クロ。」
クロウ「どういたしまして。……あぁそれと、この話は全て『真偽の眼』で確認してる。俺がよっぽど馬鹿になってない限り、今言ったことは本当…のはずだ。」
クロウ「連中、かなり焦ってるみたいだったぜ。…まぁ取り巻きつっても、上層部のお貴族様だろうがな……彼岸の王が番に悪魔を、それも魔王を迎えたいって聞かなきゃ、焦りもするか……」
シア「吸血鬼の、しかも貴族か。」
クロウ「シア、これはことによっちゃあ戦争になる。…はやく、対策をっ、」
シア「あぁ。……それで、お前は、」
クロウ「俺は…この刻印を消すこたァ出来ないが、奴らに会わなきゃそこまで害はねぇ……血も体力も寝たら治るさ。」
シア「すまない……」
クロウ「何柄でもねぇことを、わ、るいが…ここで休ませてくれ……」
そう言い残し、力尽きたクロウは深い眠りについた。
シアはクロウを蝕む刻印を睨みつける。
クロウは血を抜かれ死人のような表情になっているというのに、刻印はまるで生きているかのような光を放っていた。
シア「………これは、俺の失態だ……」
シアは心の中でクロウとメアに懺悔する。
シア「すまない……本当に。俺があの時あいつを…………キールを、殺しておけば。」




