58 物好き吸血鬼は死に急ぐ
キール「大丈夫ですか姫…魔王メア様。」
メア「うん……もう、大丈夫。助けてくれてありがとうキール。」
そう言ってへにゃっと笑うメアの表情は疲れきっている。
キール「それは…全然大丈夫ではありませんね。」
メア「なんだとぉ、私の言葉が信じられないのかぁ」
弱々しく虚勢を張るメアにキールは優しく笑いかける。
メア「…わたし、彼を殺せないんだ。ううん、殺されるところを見ていることも出来ないと思う。」
見ていられないよ。
だって、彼がああなってしまったのは私のせいだもの。
キール「そうっ…おっしゃいましてもっ、」
メアを抱え、天使の放つ白い光を纏った矢を避ける。
キール「我々が殺られるのは時間の問題かと。貴方様はともかく部外者の私は確実に殺されるでしょう。」
貴方様の為に死ねるのであれば本望ですが。
と、笑って付け加える。
メアからすれば何一つ笑えない冗談だった。
これは悪魔と天使の戦い。
吸血鬼である彼はなんの関係もないのだ。
上空に漂う彼を、ユマエルを見つめる。
今の彼は私の知っている彼じゃない。
理屈ではわかっていても、心は足の取れた机のようにグラグラだ。
メア「ユ、ユマぁ……」
何を思ったか魔王は泣きながら空に手を伸ばす。
そんな中、キール一人で天使の大軍を斬り捌くのは不可能だった。




