56 後悔ばかりだ
時は少し遡る。
人間の村へ向かっていたルイは、見たことの無い結界の貼られた区域を迂回して思わぬ人物と遭遇していた。
ルイ「なぜっ、あなたがこんな所にいるんです、クロウ!?」
クロウ「それはこっちのセリフだ、お前こそこんな所で何をしてる?」
ルイ「魔王様を探しに来たんですよ……それにしても、なんですかっこの結界は!!」
クロウ「わからん…俺はシアの命である吸血鬼を追っていたんだが…急に出てきたこの結界にぶち当たって見失っちまった。」
これはまた怒られるな、と呑気に頭をかくクロウにいらだちを覚えながらも、何とかこの結界を壊せないかと考えを巡らせる。
ルイ「ちょっと…あなたもなにか考えてくださいよ!!」
クロウ「考えてるさ…って、何をそんなに焦っているんだ?……まさか…魔王メアが、この中にいるなんて言わないよな?」
ルイ「魔王メア様ですっ……その通りですよ………じゃなきゃこんなに焦りません。」
クロウ「っ……そんな、」
クロウの今更すぎる焦りの表情に、ますますイライラする。
クロウは魔王様の元近侍、つまり、ルイの前に魔王様のお世話をしていた配下だった。
魔王様の兄君であるシア様からの信頼も厚く「魔王の配下の手本」とまで謳われた。
だった、というのは、シア様が魔王となるのと同時に、魔王様を裏切りシア様の配下として出て行ったからである。
…通常であれば「裏切る」と評されるようなことではないのかもしれない。
しかしクロウは、それほどまでに深く魔王様を傷つけた。
かくして、男の名誉は地に落ち、誰も彼の名を呼ばなくなる。
本当のところ、彼とシア様の間で何があったかなどルイは知らない。
しかしそんなことはどうでもよかった。
今度は、僕が守るだけだから。
お前など必要ない。
その、はずだったのに。
……結局、自分は何も出来ていないじゃないか。
そのことが情けなくて、なにより主の身が心配で、心が潰されそうだった。




