52 大切なものはいつも近くに
いつの間にか、恋をしていた。
5年越しにそれを悟った。
相手は悪魔でしかも魔王だという。
人の気も知らないで、5年も放ったらかしにして。
そのくせ「まだそんなに経ってないよ?」だァ?
…舐めてる。人間舐めてやがるこの悪魔。
人の気も知らないでふらりとやって着た悪魔は、どうやら仕事を投げ出してきたらしい。
………とんでもないやつだった。
リキ「お、おい!しっかりしろよ!!」
メア「むり……だって、ぁれ、あれ…、は……」
先頭に立つ天使を凝視し、イヤイヤをする子供のように首をふる。
目に溜まった涙は今にも溢れ出しそうだった。
人間のリキには分からない。
わからないことが無性に腹立たしかった。
どうしようもない感情が襲う。
(クソッ…どうすればいいんだ……!!)
腰を抜かしているようで、悪魔は動けない。
…お前それでも魔王か!!
そうこうしているうちに、先頭にいた天使が近づいてくる。
リキ「おいっ…そろそろほんとにやばいって…」
未だ危害を加えられていないのは人間に対する情けだろうか。
しかし悪魔は会話することすら出来なくなっており、口をぱくぱくするだけだった。
「魔王メア。貴方ノ身柄ヲ拘束シマス。抵抗ナサいまセぬよう。」
機械音が混ざったような声の男の天使は、冷たく悪魔を見下ろす。
リキ「おまえっ…!いきなり来てなんっ……ぐふっ、」
「黙りなサイ人間。俺が用がアルのハお前でハありまセん。」
天使が手をかざすと、リキは喋ることが出来なくなった。
「さテ……抵抗しナくてよろしイのですカ?魔王メア。」
メア「……ぁぁ…、」
リキ「…っ……、」
(何を考えているんだ、はやくにげろ!!)
そう思っても声は出せないし動くことすら出来ない。
「そうデスか…こちらとシテもあまリ傷ヲ付けヌよう言われテおりますノデ、有難いでスが…」
そう言い、天使はリキにしたのと同じように悪魔に手をかざす。
メア「誰に……」
「はイ?」
メア「誰に、言われた…?」
天使の動きが一時止まる。
「……もチろん、神に。」
メア「神………」
呆然とした悪魔は絶望の縁に居るように見えた。
メア「アハ、アハハハハハァッ…」
彼女は、おかしくなってしまったんだろうか。
メア「神か…!また神か!!あれはまた私の大切なものを奪ったのか…!!いや、私が気づいていなかったのか……こんなにも近くにあったというのにっ!!」
いきり立つ悪魔は空を見上げる。
天使の向こう、高く、遠い空を。
そして怒りの涙を流す。
メア「…ゆるさない……我が配下を…ユマを、辱めたこと………私の仲間を幾人も殺したこと…っ……!!」
泣き叫ぶ。
メア「ユマをかえせぇぇぇぇっ!!!!」
紅い華が舞った。




