5 遠い昔の夢
広い背中が見える。
共に歩いた人が遠のいていく。
「まってっ!!!!」
必死に手を伸ばしても、彼は振り返ることをしてくれない。
これは夢だ。きっと。
「…………うぅううう、ごめ………ごめんなさい……」
そう分かっていても、いつか現実になってしまうのではないかという不安はぬぐえない。
「我が君…」
「…クレイっ?」
はっと目を開くと、心配そうにこちらを覗き込むクレイの姿があった。
そういえば、彼と一緒に視察に来ていたんだっけ。
眼前にはだだっ広い未開拓の荒野が広がっている。
恐怖が込み上げてきて、彼の袖を掴んで引き寄せまくし立てた。
「なぁクレイ、お前も行っちゃうのかっ?お前も、私を置いて行っちゃうのか!?」
「私は…」
「やだぁああああ!!置いていかないで………!!」
恥も威厳も捨てて泣きじゃくりながらしがみついた。
こんな魔王に仕えたいと、本当に思っているのだろうか。
でもきっと私は、彼がどう思っていようと……
「我が君!」
そんな考えを断ち切るかのように強く抱きしめられた。
「………え?」
単純な私はそれで思考停止を余儀なくされる。
「私はいつまでも我が君の傍に。」
その言葉を聞いて心の底から安心する。
…彼が私のそばにいてくれるのは、私のエゴじゃないと思える。
「………ありがとう。」
ごめんなさい。
あなたがどう思っていようと。
私はきっと、あなたを手放せない。