35 貴方の裏切り者
メア「…そっ、そういうことなんだ兄ぅ…おにっ、お兄ちゃん!!」
魔王メアは兄を上目遣いで見上げる。
シア「そうかそうか。わかったよ、我が軍はルシアさんには手を出さないことを誓おう。」
メア「ありがとう、お兄ちゃん!!」
それにしてもこいつらのやり取りはいつ見ても気持ち悪い。
シアはともかく魔王メアに至っては人格が変わりすぎてもはや誰だかわからない。
シアを横目に見ると、やつはそれに合わせて話しかけてきた。
シア「クロ、もうメアを泣かせるようなことしちゃダメだからね?」
結局お前はそっちか。
ルシアとかいう天使のことなど少しも考えていやがらない。
だが、それでこそお前だと言うべきか。
クロウ「…はいはい、わかったよ。」
シア「『はい』は一回!」
クロウ「はーーーい」
シア「もう……」
それにしてもさっきから弟からの視線が痛い。
最初は天使などにうつつを抜かしているのかと思ったが、そうではなかった。
クレイは俺が魔王メアを泣かせたことを怒っているのだ。
やっぱり、お前もお前だ。
シアとよく似ている。
結局、どいつもこいつも魔王メアのことしか考えていなかった。
メア「クロウ」
突然、魔王メアが俺に話しかけてきた。
今更俺になんの用があるというんだ。
クロウ「……なんですか?」
俺の主は魔王メアの兄であるシアだが、彼女に対しては敬語を使う。
………戒めの意味も込めて。
メア「次また私の家族を傷つけようとしたら…未遂でも殺すから。」
威圧。睨みつけてくる瞳には先程の温かさの欠片も感じられない。
やっぱり、貴方の中の俺は未だに裏切り者のまま。
だから俺はあえてサラリと流す。
クロウ「わかってますよ。もうしません。」
それが正解かなんて分からない。
けれど、俺はもう、この人に言い訳などできる身分ではない。
メア「……そう。ならいいわ。」
俺に向けられる厳しい視線は、シアが妹の頭を撫でたことによって消えた。
ふと、クレイの憐れむような目が視界の端に映った。
それが無性に悲しく、もう戻ってこない時間を嘆かせた。




